04 頼れるものは何でも頼る
長い間、音沙汰無くて申し訳ありませんでした。
時々ですが、更新は続けていきます。
「殿下、金、貸してください!」
ベルハザードは両手を地面につき、額を床に擦りつけんばかりの勢いで頭を下げ、目の前の人物に懇願していた。
ステイクホルムの首都メルゲニクにある王城の中、王太子の執務室でそれは決行された。
懇願された側のエゼルバルド王太子だけでなく、護衛の騎士も執務中だったので同室していた文官も、驚愕のあまりに目を丸くして彼を見ている。
そして、それはベルハザードに同行している座長も同じだった。
ルルティアナだけは額に手を当てて、小さく溜息を溢している。
「おいおい、なんだ? 一体どうしたって言うんだ?」
急に先触れで自分との面会を求めたと思ったら、転送陣を開いて飛んできて、突然これでは動揺するなと言う方が無理な話だろう。
ともかくこのままでは話が見えない。
エゼルバルドは頭を上げるようにベルハザードに促し、彼に説明を求めた。
一通りの説明が終わり、納得したように腕を組んだエゼルバルドが頷く。
彼の納得した様子を確認したベルハザードは、ここに来て開口一番の言葉を補足する。
「というわけで、今の俺には金が足りない。だから、殿下、金を貸してください」
「お前がそこまで私に頭を下げるなんてな……恋ってのは恐ろしいな」
「言ってろ。惚れたもんの弱みだ」
「まあ、別に問題はない。お前とお前の家の働きにはいつも助けられているからな。翁の信頼を得た相手であれば、なおさらだ。それに今回はこちらの不手際もあったわけだし」
「いや、そのおかげで俺はあいつを見つけられた。きっと、話が無ければ旅芸人に見向きもしなかっただろう。感謝しています」
「そこまでか! お前が素直に私に礼を口にするなど!」
「……茶化すな」
「あのぅ……それで、私はいかようにすれば?」
主目的の説明を終え、協力を快く承諾したベルハザードとエゼルバルドの掛け合いの間に、居心地悪そうな座長の声が割って入ってくる。
決して彼のことを忘れていたわけではないが、気兼ねなく話せる相手である二人は、久しぶりに顔を合わせることが出来たので、楽しくなってしまっていた。
「おっと、すまない。あなたに奴隷を売り込んだ商人の特徴を教えて欲しくてね」
アウラが属する旅芸人一座は、こちらの予測とは異なり、後ろ暗いことは何一つ無かった。
むしろ、そういったことに巻き込まれた罪の無い子供たちをはじめ、多くの人々を引き受けて助けとなっている。
彼女のことは不幸中の幸いだったが、今この時も多くの人が食い物にされているのは間違いない。
国としても野放しにすることができないそれを、何としても止める必要がある。
「そうか、わかった。ありがとう。あなたは下がってくれていい」
座長はアウラたちを買い取った時に会った奴隷商人の特徴を二人に伝え、それが終わると、エゼルバルドは彼に退出の許可を出した。
王太子の前に出ることなど、これまで経験したこと無かったのだろう。
慣れないことで随分と気を張っていたようで、退出を許可された時、座長の顔にはホッと安堵した表情が浮かんでいた。
どうにも彼は感情が表に出やすい傾向がある。奴隷商にそこを付けこまれたのではないかと、思えてならない。
「それで、具体的にどうするんですか?」
「そうだな……ベル、金を貸すのは無しだ」
「えっ!? そんな――」
座長が部屋から出ていった後、これからの事について聞いたベルハザードに衝撃的な言葉がかけられる。
資金が無くては、一座の借金を帳消しにできないし、それではアウラたちを解放してやれない。
焦りの色を浮かべるベルハザードをエゼルバルドが制止する。
「まあ、話は最後まで聞け。先の借金については、奴隷商を追い詰める必要経費として出してやる。だから、お前は――」
「最後まで協力しろ、ということですね?」
「その通りだ」
「もちろんだ! アウラたちをあんな目に遭わせた奴を許す気なんて無いからな!」
かくして、ベルハザードは望んだ資金も目途が付き、エゼルバルドは頭の痛い問題だった奴隷商を最も信頼の置ける友人に任せることでき、お互いにとって良い形に纏まった。
――これから、また忙しくなるわね……はぁ~。
男二人が笑い合う姿を見ながら、ルルティアナはこっそりと溜息を漏らしたのだった。
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