02 予想外の答え
姿を現した彼女は、近くで見れば見る程、ベルハザードが探し続けていた幼馴染の少女と面影が重なる。
食い入るように自分を見つめる男性に恐怖感を抱いたのか、座長の横に座ったアウラは怯えを滲ませる。
相手の反応を正しく読み取ったルルティアナが、ベルハザードの脇腹を小突いて、彼をこちらの世界に引き戻した。
「不躾に申し訳ありません」
座ったままながらも、ベルハザードが謝罪の言葉とともに頭を下げると、座長とアウラが慌てて返事をする。
「頭を上げてください。私たちに下げる必要なんてありません」
「私も少し驚いただけですから、気にしないでください」
「心遣い痛み入ります」
二人の言葉を受けてベルハザードが頭を上げると、先程までとは違う真っ直ぐながらも、優しさを含んだ目でアウラを見る。
彼の視線に彼女も何か思うところがあったらしく、「あっ!」と声を発して両手で口を覆った。
アウラの突然の反応に驚いた座長が彼女に尋ねる。
「どうしたんだい?」
「いえ……あの、もしかして、ベル、なの?」
アウラの言葉を聞いてベルハザードの表情が、驚愕の色を示してすぐに破顔する。
直後に彼の口から出た言葉は、その喜びの大きさが簡単にわかるような声音だった。
「そうだよ、アウラ。やっと会えた!」
不意にアウラの目から大粒の涙が溢れだしてくる。
胸が詰まって言葉が出ないのだろう。彼女は視線を落とすと、静かに涙を流し続ける。
ただ、これが悲しみではなく、喜びの涙であることは、そこにいる全員が理解していた。
アウラが落ち着くのを待ってから、ベルハザードが改めて口を開いた。
「村を出てから、数年後に帰ってみたら村が無くなっていてね。驚きよりも絶望の方が強かったよ」
当時の事を思い出したのだろう。ベルハザードの顔が少し曇る。
しかし、すぐに表情を戻して言葉を続けた。
「ザインバッハ辺境伯に拾われ、ここで働きながら、アウラの事をずっと探し続けていたんだ。でも、何も手がかりが得られなくて……本当に良かった」
「私もあなたとずっと会いたかった……いつか、会える日が来ると信じて」
ベルハザードの表情がより一層、明るくなる。
アウラも彼に笑顔を向ける。
彼女の表情を見て、ベルハザードは自分との再会を彼女も喜んでくれているのだと思った。
実際、喜んでいるのは事実だろう。
アウラの表情からも声からも、ベルハザードの事を拒絶するような様子は見られない。
彼の横に座るルルティアナも同意見であり、彼女の反応を見る限り、ベルハザードに少なからず好意を持っていると感じていた。
だから、二人はこの後にアウラの口から出る返答に驚愕する他無かった。
ベルハザードは探し求めていた彼女に自分の願いを告げる。
「アウラ、俺と一緒に来てくれないか?」
自分が苦労したように、彼女もこれまで相当な苦労をしてきたのだろう。
でも、これからはそんな苦労とはおさらばだ。
ベルハザードはこれからのアウラとの生活を思い描いていたのだが――
「……ごめんなさい。私はあなたと一緒に行くことはできない」
アウラの思わぬ返答にベルハザードの頭の中は真っ白になったのだった。
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