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01 緊張の対面

 ベルハザードはルルティアナと一緒に一座を訪れていた。

 今日は公演日では無いため、客もいなければ、大半は体を休めており、とても静かだ。

 ベルハザードはテント前にいた小間使いの少年に、座長と面会の申し入れを頼む。

 しばらくして、少年が戻って来て、彼の案内で二人は奥の応接室に通された。

 あっさりとした対応に訝しさを覚える。


「解せん。こんなにあっさり通すのか」

「私も意外でした。やはり、何も無いのでは?」

「それならそれに越したことは無いけどよ」


 そう、裏を探るようにとの依頼が出ているとはいえ、黒と決まったわけではないのだ。

 わかってはいても、やはり、そういう目で見てしまうし、悪い方に疑ってしまう。

 そして、それだけに彼女が自分の探している人だったならと思うと、余計に気が気ではない。


「若様、焦りすぎです」


 ルルティアナの言葉でハッとしたベルハザードは、無意識のうちに自分の心境が足に出ていたことに気付いた。

 彼女の指摘に苦笑いを浮かべる。


「これでも相当、潜ってきたんだがな」


 自らを情けないとでも言うかのように、自嘲気味な口振りで漏らしていた。

 ただ、ルルティアナはそんな彼を労わるように穏やかな言葉を口にする。


「仕方ありません。大切に思う人のことなのですから」

「ルル……いつも悪いな」


 ベルハザードがウォーレンの元に来た時から、ルルティアナは彼に甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

 それは今でも変わらない。

 執務でも戦闘でも、こういった些細な事でも、彼女はベルハザードの心の機微を察し、少しでも和らぐように気遣ってくれている。

 その献身は何で自分に向けられているのか、ベルハザードは気付いていない。いや、気付かない振りをしている。

 だから、彼女の言葉を聞いて気を取り直した自分を見るルルティアナの表情が、悲しげな翳りを差していることに、彼は気付かない振りをしていた。


 ――すまない、ルル。だが、俺もこれは譲れないんだ。


 行方知れずになってから、ずっとその行方を追っていた幼馴染の少女。

 ベルハザードが今の強さと地位を得るきっかけとなった彼女との関係に、決着がつくその時まで彼は他の女性に目移りするわけにはいかなかった。

 彼の原点は全て彼女にあるからだ。


 ――アウラとの約束が無ければ、彼女がいなければ、きっと俺は今のようにはなれていなかったのだから。


 応接室で待つ二人の間に沈黙が横たわり、気まずさが増していく。

 普段でも二人で黙々と執務をこなすことはあるが、今は何をしているわけでも無いし、ベルハザードが長年、恋焦がれた相手に関係する事をこれから聞くのだ。

 そんな状況に置かれているルカディエルを、気にかけない程、ベルハザードは鈍感ではない。鈍感では無いのだが、かけるべき言葉が見つからない。

 だって、そうだろう。原因というのか、理由というのか、ともかく、それは自分にあるのだから。


 沈黙に耐えかねたベルハザードが何でもいいから、口に出そうとした時、垂れ幕の向こうから声がかけられた。

 内心、「助かった」と安堵して返事をすると、座長が部屋に入ってきた。

 二人は立ち上がると、頭を下げて都合をつけてくれたことに礼を述べる。

 座長はその言葉を笑顔で受け取ると、二人に座るよう促されたので腰を下ろした。


「私に何か聞きたいことがおありとのことですが」

「ええ。先日の公演で一人の少女が目に留まりまして、その少女と面会できないかと」

「ほぅ、どの子ですかな?」

「双剣を手に華麗な剣舞を披露していた()です」

「ああ、アウラですかな。少々、お待ちください」


 ベルハザードの心臓は『アウラ』という言葉に明確に反応した。

 重なる面影に同じ名前――やはり、彼女はそうなのかと、ベルハザードの心が騒めく。

 座長は小間使いの少年を呼ぶと、件の少女をこちらに呼ぶよう言いつけた。

 しばらくして、垂れ幕の向こうから少女の声が聞こえてくる。


「座長、アウラです。入ってもよろしいですか?」


 座長が返事をすると、垂れ幕が揺れる。

 ベルハザードの緊張は最高潮に達していた。

ご覧いただき、ありがとうございます。

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