03 迷宮の卵に予想外の敵
ベルハザードたちは迷宮の前に到着した。
新しく生まれた迷宮は地下のようで、石とも土とも見分けがつかない階段が地中へと続いている。それはあたかも草原の中で、犠牲者を飲み込まんと大口を開けているかのように不気味な様相をしていた。
それでも、外へ漏れ出る瘴気は皆無に近く、魔力圧も感じないところを見るに、本当に出来てから間もないのだろう。
それなら迅速に制圧するのが上策と判断したルナリアが、方々に指示を出して拠点づくりを急がせた。
「拠点の完成を待っていては時間がもったいないから、私たちは迷宮に潜りましょう」
「本気か?得体の知れない相手に十分な準備も無く挑むのは危険――」
「今回の総指揮権は私にあるの。私が行くって言えば行くのよ」
今回の迷宮調査についての指揮権は状況を見れば、王都から派遣されたルナリアが握っている。
ただ、指揮権こそ彼女にあるが、実際の迷宮に関する経験や知識量はベルハザードの方が遥かに勝っているのだから、彼の進言を聞かない理由にはならない。それに形式上この迷宮調査へのベルハザードの同行は、ルナリアからザインバッハ辺境伯家への依頼という形になっているのだから、余計に彼の言葉を無視していいはずが無いのだが――
――相変わらずだな。ルナリアは……
ベルハザードは自分に対してぞんざいな態度のルナリアを見て、僅かに苦笑いを浮かべただけだった。というのも彼女の態度は今に始まったことではない。
普段は聖女らしい態度で人々に接している。急に環境が変わったことで自分を見失っていた時期もあったが、それも今では落ち着いて生来の優しい性格に戻っていた。
自分への態度も最初に出会った頃にきつく叱り飛ばしたことがあったので、それが原因だろうと、ベルハザードは特に重く考えていなかった。
今回もいつもの事と思っていたベルハザードの目に迷宮の入口へと進むルナリアの背中が見え、急いでルルティアナたちを呼んで彼女の後を追う。
ルナリアが素直になれない自分の言動を苦々しく思い、苦虫を噛み潰したような顔をしていることを、彼女の後を追うベルハザードたちには見えていなかった。
初日の迷宮調査は思った以上に捗った。
元から強力な魔物はいないと踏んでいたが、予想以上に敵が弱かったことに加え、迷宮の構造が単純であり、すぐに次の階層に下りるための階段を見つけることができた。
しかしながら、このまま進むのはさすがに危険と判断し、ベルハザードがこの日の調査を切り上げることをルナリアに進言する。
これに渋々と言った様子でルナリアは同意し、地上へと引き返した。
地上へと戻ったベルハザードはその光景に驚いた。
簡易的ながらも既に迷宮の入口は柵によって囲まれ、木慢が要所に設置されている。それら防衛線を抜けた奥にテントなどがあり、生活空間となっていた。
迷宮調査を始めたのは日が真上に来る少し前であり、今は既に太陽が西の地平線へと没しようという時間であったが、たったこれだけの時間でこれほどの拠点を設営した手腕にベルハザードは舌を巻いた。
どうやらそれはルルティアナも同じだったようで、彼女も目の前の光景に目を見開いている。
「ふふん。どう?私の部下は有能でしょ?」
顔を向けると、そこには得意満面のルナリアの顔があった。
ベルハザードは彼女の言葉を肯定し、思ったことをそのまま伝えると、更に得意になったルナリアは上機嫌に自分用のテントへと向かった。
迷宮調査2日目――太陽が東の空から昇り始めて間もない頃、ベルハザードたちは準備を終え、ルナリアの号令に従って迷宮調査を再開した。
この迷宮はリンドリオルの迷宮とは異なり、構造変化が起きることは無いようだ。おかげで1階は書き留めた地図により、難なく通過する。その際、ベルハザードは所々に僅かな違和感を覚えたが、先行するルナリアたちとはぐれないようにするため、そのまま見過ごすことしかできなかった。
「まさか、こんなのがいるなんて……」
脅威を目の前にしてルナリアの口からは、そんな言葉が漏れた。
迷宮の地下2階はほぼ一本道で、いくつかの脇道はあるが、どれも袋小路になっていて収穫は無かった。
そのため、一本道の先にあった一際大きな扉を潜った先に、その脅威は待ち構えていた。
「ようこそ憐れな犠牲者たちよ」
そこらの魔物とは比較にならない程の力の持ち主であるデーモンが――
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