02 出発前に
新たな迷宮が生まれる時、そこには大量の瘴気が湧く。
湧いた瘴気が周囲の生態系を侵食し、生物を魔物へと変貌させるだけでなく、他の地の魔物も呼び寄せる。地質を変化させ、来るものを拒むかのように構造をも複雑化させる。
おそらくは瘴気を生み出す『核』と呼ばれるものを守るための自衛行動なのだろう。
今回、ルナリアが訪れた理由は、ザインバッハ辺境伯内に新たな迷宮が誕生する前兆を察知したからである。
主都リンドリオルからは離れているおり、近くに村など無いことが、幸いでもあり、難点でもあった。
領民への被害は抑えられるが、拠点にする場所の確保が困難で補給も見込めなくなる。
胎動期の迷宮とはいえ、周囲に人がいなかったことでどれだけ成長が進んでいるかわからない。度合いによっては長期間の任務になる可能性もあった。
「ルル、物資と人員の最終確認を」
「既に九割ほど終わっているからすぐよ」
「わかった。ミスティス、魔法士たちの状態を確認してくれ」
「はい」
「シェリル、哨戒兵たちの持ち場と伝達手段、それと携行品の再確認をしてくれ」
「任されたわ」
矢継ぎ早に指示を出すベルハザードと、彼の指示をルルティアナたちが受けて忙しなく動くのをぼんやりと見つめるアウラの姿があった。
ベルハザードからの手ほどきを受け、戦闘に関してはかなりの自信を付けていたが、未だにこういった準備に何が必要かわからず、手を出せないでいる。
「私って役立たずだなぁ」
「辛気臭い顔してるんじゃないわよ」
「ひゃっ!」
ベルハザードから「まだ見て覚えるだけでいい」と言われ、準備を進める仲間の中に入れない自分の不甲斐なさから、気分が落ち込んで溜息を漏らしたアウラの背後からルナリアが声をかけた。
完全に油断していたアウラが短い悲鳴を上げる。
「ちょっと……何もそんなに驚かなくてもいいじゃない」
「ご、ごめんなさい。聖女様」
アウラは慌てて立ち上がり、頭を下げた。
それに少し不服そうな顔をしながらも、「まぁいいわ」と、ルナリアが彼女の隣に腰を下ろした。
状況が飲み込めず呆然と立ち尽くすアウラに、『いつまでそうしているつもり』と、声に出さずとも表情からルナリアの言わんとすることがアウラにはわかった。
続けてルナリアが自分の隣に座るよう手で示したので、アウラは恐縮ながらも腰を下ろす。
「あなたがベルの言っていた幼馴染の『アウラ』さんね。確かに可愛い顔してるわ」
アウラは自分のことを値踏みするように上から下へ、また上へと視線を動かしたルナリアに眉を顰めた。
その反応がまるで面白いと言わんばかりにルナリアが笑む。
「素直ね。でも、心の内を隠す努力も必要よ」
「……どういう意味ですか?」
いきなり褒められたかと思えば、苦言を呈されてアウラは困惑の色を浮かべ、ルナリアに問う。
「そのままの意味よ。彼の隣に居続けたいのなら弱点にならないようにすることね……私も譲る気は無いけど」
アウラは「これで話は終わり」と言って、一方的に話を終わらせ、自分から離れていくルナリアの背を複雑な思いで見つめることしかできなかった。
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