01 聖女襲来
――聖女ルナリア――
ステイクホルムが擁する聖女の中でも、特に神聖力に優れ、その力は歴代の聖女の中でもトップクラスとされている。
ピンクブロンドの髪に神秘的な銀色の瞳、華奢で可憐な容姿に楚々とした佇まいだけでなく、そこに慈悲深さも合わさり、実に聖女然としていた。
元々ルナリアはある伯爵家の娘だった。
ところが魔物の氾濫に天災が重なり、一気に領内の状態は悪化、伯爵家は困窮し、没落まで秒読みというところまで落ち込んだ。
そんな折、領内を立て直しのために奔走する父に兄と同行した際、運悪く魔物と遭遇してしまう。
咄嗟に父は二人の子どもを守ろうと、腕の中に隠した。
四足獣型の魔物の牙が父の背に突き立てられようとした刹那、目が眩むほどの光が辺りを包み込み、魔物は断末魔を上げて跡形も無く消え去ってしまった。
目を疑うような光景に呆気に取られていた父が我に返り、大切な我が子に目をやって驚愕した。
娘であるルナリアの体がぼんやりと光に包まれ、茶色だったはずの瞳の色が銀へと変わっていた。
聖女ルナリアの覚醒である。
この出来事から半月後、聖女の素質を見出されたルナリアは、首都メルゲニクにある神殿に預けられることとなった。
家族は反対していたが、最終的には生家への援助と引き換えにルナリア本人が進んで同意した。
彼女には兄がいて、五人の弟妹もいる。
両親と伯爵家を継ぐ兄に弟妹、それに領民の未来を考えた選択だった。
ルナリアは伯爵家が持ち直した今でも、自分が得た報酬で仕送りを続けている。
とまあ、実に聖女に相応しい少女なのだが……
「というわけで、ベル。私の調査に同行しなさい」
ザインバッハ辺境伯邸の応接室でソファに腰かけ、尊大な態度でベルハザードに命令しているのがルナリアである。
貧乏伯爵家から神殿に移り、それまでは質素倹約を旨として自分のことは自分でやり、満足に何も買えなかった彼女は、周囲に傅かれ、潤沢に物を与えられ、ちょっと何かすれば褒めそやされ、天狗になっていた。
そんな態度を取っていれば、人心は離れるわけで――ある時、ルナリアは浄化に赴いた先でミスを犯し、窮地に立たされた。それを護衛として同行していたベルハザードに助けられた過去がある。
他とは違い、自分に対しても厳しく接する彼に当初は苦手意識を持っていたルナリアだったが、この一件によって考えを改めた。
ただ、ルナリアは彼を前にすると素直になれず、つんけんした態度になってしまう。その度に自己嫌悪に陥るわけなのだが。
「ルナリア。俺を愛称で呼ぶのは、まあよしとしよう。ただ、命令される謂れは無いぞ? というか、家格で見れば同じ伯爵でも“辺境伯”ってことで、そこには明確な差が――」
「そんなの関係無いわ」
――いや、関係大有りだろ!
ベルハザードは思わず眉を顰めた。
隣ではルルティアナが平静を装いながら、細かく肩を震わせている。どうやら、笑いを堪えているようだ。
ベルハザードは溜息を堪えてルナリアに問う。
「承知しました聖女様。喜んで同行させて頂きます」
「わかればいいのよ」
ルナリアは満面の笑みを浮かべて頷いた。
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