幕間その6
ルルティアナは共に行動していたベルハザードたちと別れ、一足早くリンドリオルに戻ってきていた。
ザインバッハ辺境伯邸に戻った彼女は、顔を合わせる兄弟姉妹や使用人に挨拶を交わしつつも、足を止めることなく目的地に向かって一直線に歩く。
彼女が目指しているのはウォーレンの執務室だ。
部屋の前に着いたルルティアナは、息を深く吸ってから扉をノックする。
ノックしてすぐに部屋の中から返事が来る。それにルルティアナが答えると、入室許可が返ってきたので、彼女は部屋へと入った。
「ただいま戻りました」
「ルルお疲れさん。どうだった? ……いや、聞くまでもなさそうだな」
簡単に挨拶を交わした父は娘の表情を見て、彼女が覚悟を決めたことを察した。
これまでの煮え切らない関係から、一歩を踏み出す覚悟を。
「はい。お父様がお察しのとおり、私は若様……ベルと一緒にいたいです」
「聞くまでも無いとは思うが、それは男女としてってことか?」
ルルティアナは父の問いにはっきりと頷いた。
その瞳からは強い意志を感じさせる。
以前の彼女なら同じ問いに対し、やんわりと否定していたことだろう。
だが、今はそんな様子は微塵の無い。
「そうか。別に何があったかなんて聞く気は無い。むしろ俺からすれば、『やっとか』ってのが、率直な感想だな」
「私も、以前の私が何故こんなにも悩んでいたのか、今はわからないぐらいです」
ウォーレンとの会話の中、ルルティアナはそんな軽口さえ言ってみせるだけの余裕がある。
そんな娘の様子を、ウォーレンは感慨深く思っていた。
自分の意思をしっかりと伝えたルルティアナは、机の上にある王家の封蝋が施された手紙を認めた。
「お父様。その手紙は何ですか?」
「これか? あまり良い報せではないものさ」
ルルティアナから手紙について問われたウォーレンは、顔に少し苦々しさを浮かべて手紙の内容を説明した。
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一方その頃、首都メルゲニクの聖堂では、一人の少女が女神像の前に跪いて祈りを捧げていた。
少女の長い髪は、この国では珍しい色合いのピンクブロンドだ。
「聖女ルナリア。そろそろ出発の準備をしませんと」
聖女と呼ばれたピンクブロンドの少女『ルナリア』は、組んでいた手を解いて立ち上がり、自分に声をかけたシスターに向き直る。
「確認された濃い瘴気は、これまで新しい迷宮が現れる前兆でもありました。どんな不測の事態があるかわかりません。しっかりと備えて行きなさい」
「ええ、すぐに準備します。ふふふ……ベル、待ってなさいよ」
少女の銀色の瞳は、勝気に笑っていた。
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