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傭兵貴族は気ままに過ごしたい  作者: 夏風
ルルティアナ編
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04 ルルティアナの本音

 体を厳重に縛られ、膝を突いて首を垂れている男たちの前で、仁王立ちのベルハザードが彼らを見下ろしている。

 拘束されている男たちは、今回のルルティアナ拉致に関わった者であり、故郷を失ったアウラたちを攫って奴隷にした件にも関わっていた。

 その主犯格である頭目の小男は、ベルハザードの眼前で恐怖から小刻みに体を震わせていた。

 恐怖に震えながら沙汰を待つ彼らに、ベルハザードは切り裂くような冷たい視線をそのままに重く響く低い声で告げた。


「お前らは一線を越えた」


 ただ一言、だが、その一言だけでベルハザードの前に膝を突かされた者たちは己が運命を察した。



「お手間を取らせてしまい、申し訳ありません」


 救出された(実際には助けは必要なく、単独でも切り抜けられたが)ルルティアナは、視察の際に滞在する宿へと、先に護衛とともに戻されていた。

 そこでベルハザードの帰りを立ったまま待ち続け、彼が部屋に現れるや否や即座に頭を下げた。ちなみにベルハザードとルルティアナは宿に配慮し、部屋数を圧迫しないよう同行する騎士なども含め、最も広い一部屋しか取っていない。そのため、ルルティアナは周りの目を気にすることなく、ベルハザードの帰りを待ち構えることができたわけだ。


「いきなりどうした?」


 部屋に入るなり、ルルティアナに謝罪の言葉と頭を下げられ、ベルハザードは目を丸くした。

 ルルティアナの力をよく知るベルハザードには、自分の助けが無くとも如何様にも切り抜けるだろうことはわかっていたが、それでも無事な姿を見て安堵したのは確かだ。信頼することと心配することは別なのだから。

 彼にとっては血の繋がりは無くても、家族であるルルティアナを助けるのに理由など必要なかったし、礼や詫びなど余計必要なかった。

 だからこそ、何も特別なことなどしていないと思っているベルハザードには、何故自分に感謝と謝罪をルルティアナがしているのか思い至ることができなかったが、彼女にとってはそうではない。


「私が不甲斐ないばかりにこのような失態など……申し開きのしようもありません」


 ルルティアナは頭を下げたまま、謝罪の言葉を重ねた。

 彼女は怖かったのだ。ベルハザードが自分に失望しているのではないかと。彼がどんな顔で、自分にどんな目を向けているのかを見ることができなかった。


 ベルハザードは顔を上げずにひたすら謝罪を続けるルルティアナに。思わず溜息を漏らした。

 これにルルティアナの体が小さく跳ねる。

 彼女の心の中では『失望しないで』『見捨てないで』という思いが渦巻いていた。

 乱暴に頭をかいたベルハザードは少しバツが悪そうに彼女に声をかける。


「俺の方こそすまなかった。助けが必要ないことはわかっていた。それに俺が来れば気にするだろうことも」


 ベルハザードの言葉に、ルルティアナは下げていた頭を弾かれたように上げた。


「そんな! 感謝こそすれ、逆恨みのようなことなど」

「だが、実際に自分を責めているだろう?」


 ルルティアナは言葉が出てこなかった。彼の指摘はまさにそのとおりであったからだ。

 心の中に『やはり、失望されていた』という恐怖も似た感情が湧き上がり、体の前で組んだ手が指先から冷えていく感覚を覚えた。

 そんなルルティアナの様子に、ベルハザードは表情を緩ませる。


「どうせルル……ルル(ねぇ)のことだから、俺が幻滅しているとか思ってるんだろ? そんなこと無いよ。拾ってもらった時から散々、世話になってるんだ。これぐらいでそんな風に思わないさ。それに――」


 ベルハザードは一旦、そこで言葉を区切ると、ルルティアナの目に自分の視線をまっすぐ向けた。それから眉尻を下げてはにかむような笑顔で後の言葉を続けた。


「家族を、特別な人を助けるのに、理由なんて必要ないだろ」


 淀みなくはっきりと言い切られた彼の言葉に、ルルティアナは衝撃から目を見開いた。

 彼女は自分の心が彼の言葉を聞いて歓喜に震えていることを実感する。


 だからこそ、問わずにいられなかった。


「私ではダメなのですか?」

「ルル?」

「私ではあなたの隣にいられないのですか!?」


 それはずっと言えずに心の内に抱えてきた、ルルティアナの本音だった。

ご覧頂いている皆様、ブクマ登録・評価などをして下さる皆様のおかげで意欲が保てています。

誠にありがとうございます。

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