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傭兵貴族は気ままに過ごしたい  作者: 夏風
ルルティアナ編
32/42

02 冷静に対処する

 ザインバッハ辺境伯領は他領に比べて狭い。

 主都である迷宮都市リンドリオル、辺境伯領内の食糧事情を一手に担う穀倉都市ゼルプス、傭兵や冒険者を育成する養成都市ノッド、様々な魔道具の開発と生産を行う生産都市ナハイの四都市しか領内には存在しない。

 それでも、辺境伯領は他国でも有名であり、自由判断権による交易も盛んなため、人の出入りはかなりのものがある。

 魔石を活用した豊かな土壌に育まれた穀物や畜産、他では見ない希少な魔道具の数々と商人の好奇心を刺激して止まないものが、この地にはわんさとあるのだ。


 主都リンドリオルの警備は万全であり、生きるのに必要な食糧を扱うゼルプスも同じく警備が厚い。ノッドはその性質からよそ者に敏感なきらいがある。

 そんな中でもナハイは最も警備が緩いと言えるだろう。それでも他の領地と比べれば、厳重なのだが。


「ここは……?」


 ルルティアナは薄暗い部屋の中で目を覚ました。

 腕や足に抵抗を感じて目を向けると、ロープでしっかりと縛られている。

 これだけでも自分が何者かに拉致されたことは想像に難くないが、ルルティアナは少しずつはっきりしてきた頭で記憶を辿った。


 ――巡回していたら、頭に痛みが走ってそこから記憶が無い……不覚だわ。


 ルルティアナは定期視察と巡回のため、ナハイを訪れていた。

 ナハイは他の都市と比較して警備が()()()()()。これは領内に侵入してくる不穏分子が、自然と集まりやすくするためだ。

 良からぬことを企てようとする輩を一網打尽にするための罠なので、定期的な巡回は欠かせない。

 いつものルルティアナなら決してこんなヘマはしないのだが、違うことに気を取られていた彼女は不覚にも、罠にかけて然るべき相手の手に落ちてしまったというわけだ。


 だが、彼女は迷宮都市で辺境伯の娘として前線に立ち続けてきた猛者であり、この程度の状況などは窮地でも何でもない。

 ルルティアナは魔力で作った刃で音も無くロープを切断して手足の自由を確保した。


 ――拘束するのに魔法を制限しないなんて……素人もいいところね。


 そこまで考えた後、ルルティアナは、そんな素人集団に捕まったのか――と、自己嫌悪に陥り、がっくりと肩を落とした。

 気を取り直して部屋に一つしか無い扉の前まで移動し、感覚を研ぎ澄まして扉の先の情報を探るが、向こう側からは物音一つしない。


 ――攫った人間に見張りも付けないとか……素人以前に私をなめているわね。


 それなら思い知らせてあげる――と、ルルティアナは魔力による身体強化を施し、扉の外へと飛び出した。



 魔力灯の薄明りの下、焦りの色が混じる短い声と硬いものが割れるような音がした直後に、男が壁に激突した。

 男は自らの足で壁に突撃したわけではない。ルルティアナの拳による一撃により、吹き飛ばされた結果だ。彼女の足元には他にも三人の男が無様に転がっている。


 ルルティアナが監禁されていた部屋は地下にあり、陽の光が差すことはなく、灯は点々とある薄暗い魔力灯のみである。

 そのため、隠密行動も得意としていた彼女に、この環境はとても有利に働いた。

 奪われていた装備一式も、すぐ近くの部屋の中で見つけて取り返すことができた。無造作に放り置かれており、特に壊れている部分も足りないものも無かった。


 荒事の専門家とも言えるザインバッハ辺境伯ウォーレンの娘であるルルティアナが、このままやられっぱなしで引き下がるわけが無い。

 自分が拉致されたということは他にも被害者がいる可能性がある。そういった人たちを救出するため、部屋という部屋を検索していった。もちろん、報復を兼ねて道中の敵はことごとく排除した。


 ルルティアナは救出と報復も目的としていたが、それ以上にもっと大きな不安が彼女の中にあった。それはベルハザードに見限られること。


 ――こんな程度の奴らに後れを取るなんて……ベルに失望されちゃう。


 ルルティアナにとってはそれが一番の懸念だった。

 ただでさえ、彼がずっと捜していた幼馴染が見つかっただけでなく、最近は彼の周りに魅力的な女性が集まっているのだから。


 そうして、ルルティアナは地下の検索を終え、階段を上がった先にある部屋の前まで来ると、扉の先が騒がしいことに気付く。


「お前らルルはどこにいる!?」


 扉の先から聞こえてきたのは、ルルティアナが失望されないか懸念していたベルハザードの声だった。

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