幕間その5
ザインバッハ邸では、迫真の気合と金属がぶつかり合う戦闘音が響き渡っていた。只今、鍛錬場では模擬戦を絶賛実施中なのである。
アウラとシェリルのペア対ルルティアナとアリシアのペアによる模擬戦だ。なお、ミスティスは戦闘スタイルが大きく異なるため、今回はベルハザードとともに見る側に回っている。現在、模擬戦を行っている四人は、シェリルが武器の特性上、やや接近戦において不利ではあるが、先の戦いで見せたとおり、しっかりと近い間合いの戦いもこなせるため、他の三人に決して見劣りしていない。
ちなみに魔法主体のミスティスではあるが、接近戦もそれなりにできる。それこそ、国家傭兵団の猛者にも見劣りしないのだが、やはり、彼女の本領は魔法による広範囲攻撃などにあるので、今回は外れてもらった。
ミスティスは少し不満そうな顔をしていたが、ベルハザードから「見ることも重要な鍛錬だ」との言葉を受け、しっかり模擬戦の様子を観察している。
――超接近戦型のアウラと中遠距離型のシェリルはよく連携が取れているな。相変わらずルルティアナは戦況に応じて柔軟に戦い方を変えているし、それにアリシアもうまく対応している。ただ、やはりというか、アリシアはスタミナが足りていないな。
ベルハザードは模擬戦を見ながら、各人の動きの癖や戦い方から今後の方針を導き出す。
模擬戦の班分けは、魔法は苦手だが双刀による高速連撃の超接近戦を主体とするアウラ、魔法剣弓を用いた近接を捌いて距離を取って中遠距離から攻撃を叩きこむシェリル、この役割がはっきりと分かれた二人と、やや接近戦寄りながらもどの間合いでも器用に戦えるルルティアナ、魔法と剣術を組み合わせた近中距離を間合いとするアリシア、という万能型の二人で組ませた。
アウラたちの方は役割がはっきりしている分、円滑に連携が取れている。一方で両者ともどの間合いでもそれなりに戦えるアリシアたちの方は表面上連携が取れているが、アリシアが気を回しているのもあって、動きが鈍るのが早い。
そうして崩れたところを狙われ、模擬戦は決着した。
「本当に帰らなくていいのか?」
模擬戦の後、軽食にアウラたちを誘い、彼女たちが水浴びから戻るまでテラスで一人、先程の戦いの改善点を洗い出していたベルハザードの元に、アリシアが他よりも早く姿を現した。
アリシアに席に座るよう促しはしたが、特に会話も無い空気に負けてベルハザードが彼女に問いかけた。
「はい」
「侯爵はともかく、夫人と弟は心配していたぞ? 二人との仲は悪くないんじゃないのか?」
「そのとおりです」
「なら――」
「いいのです。このままで」
ベルハザードが言葉を口にしようとしたところで、アリシアが被せるように自身の考えを伝えた。そして、今度はアリシアが顔を俯き気味にして「私がいてはお邪魔ですか?」と、彼に問いかける。
「別にそんなことはない。ただ……二人からの手紙を読んでいる時の顔が、すこし寂しそうだったからな」
「よく見ていますね」
「それぐらいできなきゃ、俺はとっくに迷宮の肥やしになってたさ」
見られたくない姿を見られたアリシアが少し責めるような目でベルハザードを見れば、彼は冗談めかして軽く笑った。
それからベルハザードは真面目な顔に戻ってアリシアに自分の考えを伝える。
「侯爵が厄介なら、ザインバッハ辺境伯としての力を使えば何とでもなる。変に恩義を感じているなら、そんなものは必要ないんだぞ?」
「わかっています。確かにそれが全く無いかと言われれば、そのとおりですが、それでも、私がここにいるのは自分の意思です」
アリシアは自分がここに残る決断をした理由を訥々と話す。
父の駒にされるのに辟易していたこと。
母と弟に迷惑かけたくないこと。
そして、自分がいかに狭い世界の中にしかいなかったこと。
「私はもっと色々なものを自分の目で見てみたいのです」
「……危険だとしても、か?」
「はい。きっとその価値があると思いますから」
そう言って微笑むアリシアの表情は、どこか晴れ晴れとしていた。
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