05 うちは厳しいよ
これでアリシア編は終了です。
今回は割と平和?な展開で終わりました。
今回の婚約破棄騒動は、エゼルバルドを良く思わない勢力を牽制するために計画されたことだった。
レイノルドは第二王子という立場もあり、エゼルバルドの身に何かあった時のための王位継承者として、勉学などに取り組んでいた。
同時に優秀な兄に似て聡い彼は思い至る。能力が遜色のない程度にあると、周囲に知られてはどちらを担ぎ上げるかで、王家に忠誠の篤い派閥と自身の利を最優先とする派閥で国内を二分しかねない。
その危険性を考え、下手に自分の能力を知らしめるわけにはいかないと、レイノルドはあえて凡庸な振りを続けてきたのだ。
レイノルドは自分のことを何と言われようと気にしなかったが、婚約者となったアリシアには申し訳ない気持ちを常に抱えていた。
――優秀な兄に凡庸な弟
そう言われ、アリシアは『はずれ』を引かされたと、陰で嘲笑されていた。
アリシアとレイノルドは婚約を結ぶ前からの顔見知りである。それだけにレイノルドの変化に気付いたアリシアは直接、彼に尋ねた。
そうして彼の思惑を知った時、「婚約を白紙にしても構わない」という彼の申し出を断った。
レイノルドは凡庸であることが広まれば、自分を担ぎ上げようとする動きも無くなるだろうと思っていたが、そうはならなかった。
凡庸であれば傀儡には適しているであろうし、婚約者のアリシアは名実ともに優秀だ。民からも慕われている。
それだけに私欲の塊たちは諦めなかった。
加えてアリシアの父、マスティア侯爵も性質が悪かった。
レイノルドが周りを諦めさせるため、婚約破棄騒動を起こした後、侯爵は実の娘であるアリシアを他国の貴族に嫁がせようと画策していたのだ。婚約破棄をされ瑕疵のついた娘は『政略の駒』として役立たずだと判断したらしい。他の家から唆された部分もあるようだが。
王子妃教育を受け、国内の剣術や魔法技術に精通し、民に慕われるカリスマも持つ人物を国外に放つ。実に危険なことだ。
とはいえ、普通に保護しただけでは、マスティア侯爵や彼を煽った連中の横槍がある可能性が高い。そうなれば、建前上は中立の立場にあるザインバッハ辺境伯家としては、アリシアの返還を求められれば、応じざるをえない。
そのため、ベルハザードは一計を案じた。
アリシアは迷宮に足を踏み入れて窮地に陥り、彼らに救出される――言い換えれば、迷宮の中で手に入れた戦利品と同義となるわけだ。
ザインバッハ辺境伯はリンドリオルにある迷宮を管理する役目を負い、迷宮内で入手したものの完全所有権を認められている。
それは『物』だけでなく、『者』も対象となる。
それゆえにアリシアを取り返しにきた者たちをベルハザードは門前払いにした。王家から認められた権利を盾にして。
「ザインバッハ子息様、ありがとうございました」
「マスティア侯爵令嬢、そんなに畏まらないで下さい」
「私からも礼を言わせてくれ。それと、これから世話になる」
厄介者どもを追い返した翌日、二人はベルハザードの執務室を訪ねてきた。
レイノルドは表向き騒動の責任を取り、辺境伯領で迷宮管理に従事することになっている。
本当の理由は弟の身を心配したエゼルバルドからの依頼で、ベルハザードが彼の身柄を引き受けることになったのだ。
友の弟とはいえ、忖度する気は無い。本気で一流の冒険者にも引けを取らないほどに鍛え上げる気でいる。
ベルハザードは彼の教育係兼護衛として、ゲーニッツとウルスラを指名した。これによって二人は傭兵団の仕事から一時的に解放され、色々な場所へ出向かなくてすむと大喜びだった。
そして、アリシアはというと――
「ザインバッハ子息様、私はあなた様の戦利品。どうぞ“アリシア”とお呼びください」
「それは建前で――」
「建前でも事実は事実です。さあ、どうか」
「……わかった。アリシア。それなら俺から一つ頼みがある」
「なんでしょうか?」
「俺もそんな堅苦しいのは好きじゃなくてな。“ベルハザード”で構わない」
ベルハザードの申し出にアリシアは少し逡巡した後、顔を上げて微笑んだ。
「わかりました。ベルハザード様」
その微笑みは美しく可憐な花のようだった。
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