01 厄介事は思わぬところからやって来る
首都メルゲニクにある宮殿の中で開かれている夜会の会場では、その煌びやかさに似つかわしくない不穏な空気が漂っていた。
この場で最上位に位置するのはステイクホルムの第二王子レイノルドである。彼は別件で参加できなかった国王夫妻及び王太子エゼルバルドに代わり、この場を任された次第だ。
彼には婚約者がいる。
由緒正しいマスティア侯爵家の令嬢で、剣にも魔法にも秀でた才女として名高いアリシアは、輝く金色の髪と透き通るような碧眼を持ち、その見目の麗しさと女性らしいプロポーションから、世の令息令嬢の羨望を集めていた。
そんな彼女であるから、地位もあり、容姿も整ったレイノルドの婚約者となっても、周りからのやっかみは全くと言っていいほど無かった。
政略で決められた婚約のため、燃え上がる様な恋情では無かったが、二人の仲は着実に深まっているように周りからは見えており、順調――そのはずだった。
ところがレイノルドは今回の夜会で婚約者であるアリシアのエスコートを放棄したばかりか、彼女ではない別の女性の肩を抱き、彼女と相対している。その顔に嫌悪を滲ませて。
「私はアリシア・マスティア侯爵令嬢との婚約を破棄する!」
婚約者であるはずの二人が相対している、しかも、王子は別の女性を侍らせているという状況に周りは、良からぬことが起きるのではないか――と危惧していたが、まさにそのとおりとなってしまった。
件のマスティア侯爵令嬢ことアリシアには、婚約を破棄されるような問題は見当たらない。彼女は自身に厳しく、地位や才能を鼻にかけることなどはなく、丁寧で柔らかい物腰をしている。
それだけに周りは何故レイノルドが、彼女との婚約に不満を持っているのかわからなかった。
突然の婚約破棄宣言にも動揺することなく、アリシアはレイノルドに一歩近寄り、彼の意思を問う。
「殿下、婚約破棄とはどういうことでしょうか? 私は何も聞かされておりませんが、陛下や私の父は存じ上げていらっしゃいますか? それよりもこのような場で口にするような内容とは到底思えませんが」
婚約者の思わぬ仕打ちに対し、アリシアはただただ高位貴族の令嬢らしく、感情を露わにしないよう淡々と冷静に言葉を重ねた。
しかし、どうやらこれがいけなかったらしい。
「王族に向かって口答えするとは不敬だぞ! アリシア・マスティア侯爵令嬢、ステイクホルム国の第二王子レイノルドの名において王都からの追放を命じる!」
これには当事者であるアリシアだけでなく、周りで聞いていた者たちも驚愕のあまり、目を見開いていた。
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