幕間その4
シェリル加入後の続きです。
シェリルの爆弾発言をベルハザードとルルティアナは、きっちりと否定した。
真実、二人は婚姻していないので夫婦ではない。よく一緒にいるのは、リンドリオルの管理や国家傭兵団の采配など、お互いが深く精通しているため、自然と共にいる時間が多いだけだと説明した。
それを聞いたシェリルは、「なら私にもチャンスはあるな」と、一人勝手に納得したように頷いている。
気を取り直してベルハザードは地下を流れる下水道へと、シェリルを案内した。
説明にあった換気機構が、しっかりと機能しているのだろう。汚れた水が流れる場所でありながら、臭気はそれほど厳しくない。
地下のため陽の光こそ差さないが、魔石を利用した明かりにより、足元まではっきり見える程に照らされ、視界も良好に保たれている。
周囲を見渡せば、少し先で作業に勤しむ人影がシェリルの目に入った。
何をしているのか疑問に思い、声をかけようと近寄った時、彼女の体がビクッと小さく跳ねた後、石のように固まった。
それも無理は無いだろう。
彼女の前にいたのは、先の戦いの後、迷宮都市への移住を希望したドレーブルの民だったからだ。いくら戦いが終わったとはいえ、すぐに遺恨が消えるわけでは無い。
「若様!」
作業を続けていたドレーブルの青年が、ベルハザードに気付いて声をあげた。
こんな暗がりで誰もがやりたがらないような仕事に就いているにも関わらず、彼の声はとても明るく溌溂としている。
「お疲れさん。どうだ? 慣れたか?」
「いえ、まだまだです」
ベルハザードと作業員たちは他愛の無い話を続けている。
シェリルはその様子を先程よりも、離れた場所から見ていた。ルルティアナの背後に隠れて。
世間話をしていた彼らだったが、まっさきにベルハザードに気付いた青年が、唐突に彼に感謝を述べる。
「若様。俺たちを連れてきてくれて、本当にありがとうございました。おかげで色んなものが見れて、毎日が楽しいんです」
「そうか。ここの仕事は大変だと思うが」
「確かに臭いもあるし、体もきついけど、誰かのためになってるって思うと、苦じゃないです」
僅かな間の後、「俺たちは散々、仕出かしましたから」と、表情が陰った青年の口から後悔を滲ませる声音で吐き出された。それにベルハザードは静かな声で、「そうか」と返すだけだった。
その後、ベルハザードは生活や仕事で困っていることや要望について聞き、彼らと別れて下水道から大通りへと戻った。
ベルハザードの後ろには黙ってついてくる浮かない顔のシェリルがいる。
「浮かない顔だな?」
俯いたまま歩くシェリルにベルハザードの声が降ってきた。
それに顔を上げた彼女だったが、何と答えればいいかわからず、言葉に詰まる。
「別に焦って許さなくてもいいんじゃないか?」
「えっ?」
「彼ら自身の行いでは無かったかもしれないが、同族がやったことは決して許されることじゃない。お前たちは大切な多くのものを奪われた。変わろうと努力している姿を見たからと言って、何もすぐに許さなくちゃいけないわけじゃない」
ベルハザードは緩く口元に笑みを浮かべると、「ゆっくりでいい。折り合いがつくまで、な」と、優しい言葉をかける。
彼の言葉を聞いて、シェリルの視界が滲んだ。
思わず俯いて涙を隠す彼女の背に、ルルティアナの手が当てられる。
彼らはどこまでも温かい。
新参の自分に対しても分け隔てなく、優しさをくれる。
「ベル殿……ありがとう」
「おう。どういたしまして」
にかっと笑った彼は、まるで太陽のように輝いて見えた。
遠くからベルハザードたちを呼ぶ声が聞こえる。
声の方へと目を向ければ、アウラとミスティスがこちらに手を振っているのが見えた。
小さく笑ったベルハザードは、「行こう」と、二人に声をかけて先を歩く。
その背中に自分が惹かれていることをシェリルは気付いた。
――ああ。やっぱり好きだな。
ベルハザードの優しさに触れたシェリルは、いつまでもこんな日々が続いてほしいと、願うのだった。
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