01 傭兵団への要請
ステイクホルムの国領に接する広大な森林地帯の中には、エルフの里『グレイスフォレスト』がある。
ステイクホルムとグレイスフォレストは種族の違いはあっても、友好的な関係を築いており、今日においてもその関係性は変わらないどころか、水と魚と言われるほどに益々繋がりを強くしていた。
ここでも、やはりと言うかリンドリオルが絡んでいる。
それと言うのも、良質な魔石や武器の素材を求めて迷宮を訪れるエルフをはじめとする他種族を排することなく、自由に出入りを許しているからだ。
ヒューマンとは比較にならない程、エルフは魔力操作に優れている。
さすがに魔力適正が段違いの魔族と呼ばれる『ルリン』には劣るが、それでもこの世界の種族の中では、ルリンの次に来るだけの適性を持つ。
そんなエルフたちは自分たちが扱う武具に魔力を付与し、効果的に使う手法を好んでいる。
ただ、普通の金属では魔力負荷に耐えられず、崩壊してしまうのだ。
それゆえに魔物から採れる魔石をはじめとする各種素材、一般的な素材から造られた武具であっても、一度迷宮に取り込まれた物は瘴気を帯びることで魔力との親和性が向上する。鑑定と浄化の必要はあるが、ただの鉄の剣であっても、魔力を帯びた剣になり、かつ魔法付与を行っても十分に耐えられるようになるのだから、その価値は労力と困難を補ってなお余りある。
そう言った情勢もあり、リンドリオルにはヒューマン以外にも多くの他種族がいるわけで、当然エルフも数多く訪れている。何なら故郷に戻らず、居を構えた者もいるぐらいだ。
なので、エルフを目にすることが珍しく無く、彼らと常時臨時の別を問わず一党を組み、依頼を受けることは、さして珍しいことではない。
だが、さすがに国家傭兵団への要請となると話が別だ。
冒険者への依頼がおおよそ個人から大きくても町程度を対象とするのなら、傭兵団への要請は主要都市から国家程度の規模が対象となる。
水面下で秘密裏に実行する必要性のある小規模作戦でも、要請がかかることはあるが、それはあくまでも特殊な事例である。
つまり、国家傭兵団に要請が入ったと言うことは、平たく言えば『戦争』だ。
しかも、国と国の境界を接するエルフの里からの救援要請とくれば、これだけでもただ事ではないのだが、今回、救援要請の使者として遣わされたのが、『ダークエルフ』を束ねる長の娘の一人『シェリル』だったのだから、ベルハザードたちは驚きを隠せなかった。
「私は族長の三の娘、シェリルと申す。此度はステイクホルムが有する、勇猛と名高い国家傭兵団のお力をお借りしたく参上した」
「承知した。顔を上げて楽にしてくれ」
シェリルの挨拶口上を受け取ったエゼルバルドは、彼女に立ち上がることを許す。
エルフは一つの王族と二つの部族から成り立っている。
エルフには通称、白エルフと呼ばれる『ライトエルフ』と黒エルフと呼ばれるダークエルフがいる。
その昔、両者は覇権を争っていたこともあったようだが、それによって森が荒れ果て、これではいけないと、双方の部族から歳の合う男女を選りすぐり、婚姻を結んで王家とした。
それ以来、エルフの里であるグレイスフォレストは豊かな森の恩恵の下、繁栄を謳歌している。
だが、それを狙う不届き者がいた。
北の蛮族として有名な『ドレーブル』だ。
過去にグレイスフォレストからの救援要請を受け、ステイクホルムは騎士団を派遣している。その事も両国の友好関係に寄与していた。
そして、今回、またしてもその蛮族が森への侵攻を始めたのだ。何とも諦めが悪いことだ。
ちなみにこの場にエゼルバルドが何故いるのかと言うと、王城に届いた要請に対し、『詳細は王城よりも貴国と近いリンドリオルで伺う』と、返答したのだ。
エゼルバルドが何の先触れも無く、転移陣で飛んできたのを見たベルハザードたちの驚きようは想像に難くない。
加えて何の悪びれも無く、この振る舞いである。
「もちろん、我が国としても貴国の危機を見過ごす気は無い。要請に応じよう」
「! 感謝する」
「というわけで、ベル。後は頼んだよ」
「……はいはい。王太子殿下の命、しかと承知しました」
ベルハザードは気の置けない仲であるエゼルバルドに半ば呆れながらも、この国の王太子へ臣下の礼を取り、命令を受けたのだった。
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