02 顔合わせから迷宮へ
ベルハザードは先日報告のあった依頼を受けるため、ルルティアナとアウラとともにギルトを訪れていた。
内容が内容のため、アウラを連れてくるか悩んだが、彼女からの強い希望と経験を積むには実戦が最も効率が良いので同行を許すことにした。
「この度は依頼を受けて頂きありがとうございます。まさか、強者揃いのザインバッハ辺境伯家中でも、特に勇名を轟かせる若君に来てもらえるとは」
仰々しくこちらを立てるように美辞麗句を並べるが、目の前にいる男の言葉がどれも本心で無いことは、表情や彼の仲間の態度からすぐにわかる。
少しは取り繕うこともできないのか――と、内心で呆れながらベルハザードが挨拶する。
「ザインバッハ辺境伯家のベルハザードだ。この二人は依頼に同行するルルティアナとアウラだ」
紹介されたアウラは丁寧に頭を下げるが、ルルティアナは目礼をするに留める。
二人の姿を値踏みするように見回した男の仲間が、耳障りな口笛を鳴らす。
代表の男も下心が透けて見える顔をするが、すぐにそれを引き締めると、ベルハザードに疑問を投げかけた。
「女が二人……ですか」
「……何か問題があるのか?」
「いえ、滅相も無い。若君の力はかねがね聞き及んでおりますし、その若君がお選びになったのであれば」
「なんだ、わかっているじゃないか。二人の実力は確かなものだ。俺が保証する。貴殿の心配など不要だ」
男は面白くなさそうに、「さようですか」とだけ言うと、苦い顔をした。
その態度にベルハザードも呆れ半分といった顔をする。
それなりに身なりを整えてはいるが、態度や細かい仕草には品性の欠片も感じられない。
こいつらは明らかにならず者の類だ。
大方、どこかの不届き者が雇い入れた者たちだろう。
そうであれば、この者たちの依頼である『魔族の討伐』も、真の目的は別の所にあると考えるのが妥当だ。
この依頼が持ち込まれたと聞いた時から、不穏な気配を感じていたが、依頼者を目の前にしてベルハザードは確信を得ていた。
こいつらはまともじゃない――と。
そして、それはどうやらルルティアナも同様のようであり、ベルハザードが彼女に視線を向ければ、無言で頷いた。
魔族は邪悪な存在ではないが、滅多に人前に姿を現さないエルフ族に引けを取らない程、美形揃いだと噂されている。
それゆえに男女問わず、奴隷として人気があるのだとか。まったくもって反吐が出る話である。
――あの時、取り逃がしたのが悔やまれるな。
アウラの件の時に捕縛できなかった奴隷商。それを取り逃がしたことをベルハザードは悔やんでいた。
この件とあの奴隷商が関わっているかはわからないが、捕らえていれば何かしらの手がかりを得られたかもしれない。
後悔しても仕方の無いことだとわかっていても、悔やまずにはいられなかった。
ともかく、今は目の前の事を片付けるのに集中しなくてはならない。
ベルハザードは後悔の念を消し去ると、依頼者の男に問う。
「迷宮に逃げ込んだということだが、どのあたりの階層なんだ?」
「それが……我々にもわからなくて。迷宮に逃げ込んだのは確かなんですが」
「……それはつまり一階層から順にあたるしか無いということだな?」
「はい」
思っていた以上に面倒くさいことになりそうな内容に、ベルハザードは思わず眉根を寄せ、目頭に手を当てた。
だが、ここでどうこう言っても仕方が無い。
目的の相手の所在が分からない以上は虱潰しに探すほかないのだから。
依頼者が真っ当な者たちではないというのは分かっている。
それでも、この行き当たりばったりな展開に、ベルハザードは本当に頭が痛くなる気分だった。
彼のイライラが発露し、周りにも伝播したことで空気が冷えていくのがわかる。
「……話はわかった。ひとまず、迷宮に行くぞ」
そうして、ベルハザードたちは迷宮に逃げ込んだという魔族を探しに、迷宮へと向かうのだった。
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