05 一段落
これぐらいのノリだと楽なんですけどねぇ~
翁はスラっとした体躯に、きっちりとした紳士服を着こなすまさに、初老の紳士と呼ぶに相応しい外見をしている。
真贋を見極める力に長け、相手の言葉の真偽を見抜くのだとか。
「翁、この度は本当にありがとうございました」
座長とともに返済に訪れたベルハザードは翁に深々と頭を下げた。
翁が貸付してくれなければ、アウラは今も行方知れずのままだっただろう。
それどころか手酷い扱いを受けていたかも知れないし、身の安全もわかったものではない。
間接的とはいえ、翁もまたベルハザードにとって掛け替えのないアウラの命の恩人であり、彼が礼を尽くす当然の相手だった。
翁はベルハザードの心情を知ってか知らずか、人の良さそうな微笑みを浮かべている。
「ふぉっふぉっふぉっ、お役に立てたのなら何より。こちらとしても、今や国一番と名高いベルハザード様とより強い繋がりを得られた上、王家の方々をはじめ、有力貴族にこの名を売れたので僥倖でした。先行投資の判断は間違っておりませんでしたな」
国一番とは何の事だ――と、ベルハザードは疑問に思ったが、翁が上機嫌に笑っているので、こちらも笑い返すことにした。
今回の事でベルハザードが王太子エゼルバルドに協力を仰いだことが知れ渡り、それに付随する形で翁の評判も知られることとなった。
曰く、善良で慈愛に溢れた金貸し。
これまで『金貸し』のイメージはお世辞にも良いとは言えなかった。
商売であるため、情に流されては立ち行かなくなるのは当然の事なのだが、あまりに非道な行いをする者や騙して尻の毛まで毟り取る輩もいたので、翁の評判はうなぎ上りだ。
この一件以前にも翁の噂は広がっていたが、それでも先入観を拭いきれるものでは無かったため、今回は本当に大きな波紋を呼んでいる。
しかしながら、残念な事に肝心の奴隷商の捕縛は叶わなかった。
探りを入れ、怪しいと踏んだ場所へとベルハザードたちが踏み込んだ場所に、奴隷商の姿は無かったが、商品として売られるところだった奴隷たちを保護することはできたのが、不幸中の幸いだった。
この国では奴隷を持つことは禁止されていない。
だが、それはあくまで正式な手順を踏んだ場合のみである。
奴隷になれば、当然様々な面で不都合が生じるが、代わりに自分と契約した主の庇護下に置かれることが約束されるのだ。
奴隷は人の尊厳を踏み躙る行為だと言う者もいる。
しかし、生存能力に乏しい者たちにとっては生きる道になることもある。
尊厳で腹は膨れないし、雨風は防げないのだから。
事の次第をエゼルバルドに報告したベルハザードは、ルルティアナとともに転送陣からリンドリオルへと戻ってきた。
借金の返済を済ませ、奴隷商の捕獲こそできなかったが、それなりの打撃を与えることができたベルハザードは上機嫌だった。
「ルル、ありがとな。最後まで手伝ってくれて」
「いえ、若様のサポートも役目ですから」
いつもと変わらない表情と声音で答えたルルティアナとは対照的に、ベルハザードは満面の笑みを浮かべる。
「ベル! おかえりなさい」
「アウラ、わざわざ待っててくれたのか?」
「う、うん……」
ベルハザードとルルティアナが邸の前に差し掛かると、彼の姿を見つけたアウラが駆け寄ってきたので、ベルハザードが問いかければ、アウラは顔を赤らめ、もじもじしながら肯定する。
その反応があまりに可愛くて仕方が無いベルハザードは、彼女の肩に手を回して邸の中へと入っていく。
焦がれた幼馴染との生活を思い浮かべ、浮かれていたベルハザードは、複雑な表情で二人を見るルルティアナの姿に気付かなかった。
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