01 彼の名はベルハザード
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迷宮内であるパーティが、獰猛な魔物と戦闘を繰り広げていた。
七人のパーティの内、二人は負傷して戦える状態になく、キャスターとヒーラーの魔法力も底を突きかけていた。
しかも、他にも戦闘に気付いた敵が、こちらに近づいてくる音がする。
このままでは全滅する――そう直感したリーダーが、仲間に撤退の指示を出そうとした時、背後から仲間の短い悲鳴が聞こえた。
振り返ると、退路は既に敵によって塞がれている。
そして、その動揺した隙を突かれた前衛の一人が、強烈な一撃を受けて昏倒してしまう。
じりじりと壁際に追い詰められる絶体絶命の窮地、ここまでか――と、死を覚悟したその時だった。
敵の一角が血飛沫を上げて倒れていく。
そして、物音に振り返ると、自分たちを苦しめた巨大な魔物は首を斬り落とされ、頭を失った胴体が仰向けに倒れた。
「よう。間に合ったか。運がいいな、お前ら」
身の丈ほどもある特大剣を肩に担ぎ、不敵な笑みをこちらに向ける男がそこにいた。
彼の名は、ベルハザード。
迷宮都市の管理を任されているザインバッハ辺境伯家の次期当主にして、バケモノ級の実力者だ。
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「ったく、命は一つしかねえんだから、無茶すんじゃねえよ。助けに駆り出されるこっちの身にもなれってんだ」
「ホント申し訳ない」
迷宮で九死に一生を得たパーティリーダーは何度もベルハザードに頭を下げていた。
ベルハザードはあれから満身創痍の七人を守りながら、迷宮から脱出し、地上に戻っていた。今はギルドからの救援要請の達成報告をするために、その救援対象だった七人と一緒にギルドを訪れている。
「はい。確かに確認しました! ベルさん、いつもありがとうございます!」
「レニーちゃんよ。毎度、思うんだが、ちょっと人使いが荒すぎねえか?」
「何を仰います! ベルさんじゃなきゃ、余計に被害が拡大するところでしたよ!」
「いや、そうかも知れないが、俺はこれでも国家傭兵団の頭なんだぜ? 安請け合いする俺もどうかと思うが、うちにも実力は十分なのが揃ってるんだから、俺個人を指名するんじゃなくて、傭兵団に依頼を――」
「だって、単価は高くても、ベルさんなら一人で済むから、最終的に安上がりなんですもん」
「やっぱりそれが主な理由か!」
「きゃあ、暴力反対」
ギルドの受付では、おふざけとすぐわかるような茶番が繰り広げられている。
それを見て、周りの冒険者やギルド職員が呆れたような笑い顔で二人を見ていた。
茶番も終わり、報酬を受け取ったベルハザードにレニーが言葉をかける。
「ベルさん、ありがとうございました。また、よろしくお願いします!」
「おう! 困ったことがあったら声かけてくれよ!」
なんだかんだ文句を言いながらも、しっかりと依頼を受けて遂行し、憎まれ口を叩きながらも、結局は気前良く返事を返す。
そんな彼の事を貴族は嘲りを込めて、彼の人柄と力を知る者たちは畏怖と尊敬を込めて、こう呼んだ――『傭兵貴族』と。
不定期投稿になりますが、よろしくお願いします。