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魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~  作者: 虎柄トラ
第四章 魔導書実装編

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恋する乙女山河まつり

 シノマツリを無事ギルドメンバーに迎え、僕達の家であるギルドハウスに招待した後、僕達はそれぞれ昼食をとるためログアウトした。


 40分後……再ログインした僕は人形のように沈黙し動かずソファーに座っていた。


 前回、一番最後だった事もあり誰よりも早くギルドハウスに戻ったはずだった。だけど、ギルドハウスにはもうすでに先客がいた。


 タクトがギルドハウスに着くよりも10分以上前。


 新規メンバーのシノマツリは居ても立っても居られず、ギルドハウスに戻っていた。


 酒場集合前にソロダンジョンに挑み、難なくゴブリンファイターを一撃で塵にしたシノマツリはどんな魔法を創ろうか考えていた。


 シノマツリが持っているスキルポイントは現在6ポイント。属性違いならスロットを3つ、同属性ならスロットを2つ。


 テーブルに魔導書グリモワールをガバっと開き、顎に手の乗せ右手に持ったペンをクルクル回し、ブツブツとひとり呟く。


「火よ、全部燃やせ……氷雪に…………う~ん、これも違うかなぁ~」


 ページに魔法を書き込んでは消してを繰り返す。


 魔法づくりに没頭していたシノマツリは、ギルドハウスにタクトが来ていた事に気づいていなかった。


「青い水が流す……綺麗な水…………清流、清流!これにしよう、それで、それで!!」


 やっとペンが進み始めたシノマツリはそのまま一気に思いついた魔法を書き込んだ。


「清き清流が全てを洗い流す……そうあなたという存在全てを……さようなら。うん、これでいこう!!」


 オリジナル魔法が完成したシノマツリはペンを置き、両手を上げグ~っと背筋を伸ばす。


 タイミングを見計らったようにミルクコーヒーがシノマツリの目の前に置かれる。


「お疲れ様、シノマツリ」


「わ~い、ミルクコーヒーだぁ!!」


 シノマツリは早速ストローに口を付け、一気に喉に流し込んでいく。


 ズズズズズズ……。


「はぁ~、おいしかった~!ごちそうさまでしたぁ!!」


「本当に美味しそうに飲むね」


「だって、ミルクコーヒーはマツリの大好物だもん!」


「知ってるよ。まつりちゃんは昔からそれ好きだもんね」


「うん!あっ……」


 今頃になってシノマツリは誰と会話しているのか理解した。


 そしてシノマツリは気づいた……気づいてしまった。自分の隣にずっとタクトが座っていた事、さらにギルドハウスには自分達しかいないという事に。


 シノマツリは先ほどまで砕けた話し方から急変し敬語になる。


「ミルクコーヒー差し入れ、ありがとうございます」


「いえ、どういたしまして……」


 タクトはその急激な変化に困惑していた。


 『シノマツリ』と呼ばずに『まつりちゃん』と呼んでしまったからか、それとも自分の大好物を知っている事に対して、気持ち悪いとか思われてしまっているのではないかと思考を巡らせる。


 だが、実際はその真逆。これはタクトに自分の想いを気づかせないための彼女なりの工夫。


 シノマツリこと山河まつりは物心がついた時から、ずっと紫乃月拓斗の事が好きだった。最初は兄の聖陽と同じで家族として好きだと思っていた。だが、山河まつりが10歳になった頃、それが全くの別物だと気づく。


 そう山河まつりは紫乃月拓斗の事を異性として好きだった。だからこそ、気づかれてはいけない今の関係が崩れてしまうかもしれないから。


 ただそのシノマツリ自身の言動によって、自分の好きな人がいま隣で頭を抱えているのだが、その事に本人は気づく気配はない。


 その後もタクトはあれこれ悩みながらも話しかけるが、シノマツリは相も変わらず淡々と返事するのみで、会話とは到底よべないような状況が続いた。


 大好きな人と同じ空間でしかも常に隣に居てくれる事が、嬉しくてたまらないシノマツリ。それに反してこの状況をどう打開しようか悩むタクト。


 シノマツリはチラッと横に目を向ける。


 あ~、ゲームの拓斗お兄ちゃんもカッコいい!!じゃっな~い!それよりひとりでブツブツしゃべって、変な子とか思われてないかな?大丈夫かな??


 シノマツリの脳内ではそれはもう大変な事になっていた。


 そんな恋焦がれる女の子に更なる追い打ちがかかる。


「まつりちゃん、お誕生日おめでとう。毎年ケーキでって言ってるから、もしかしたらこういうのは迷惑かもしれないけど、この世界にようこそって言うのも含めて、受け取って貰えると嬉しいんだけど……」


 タクトは気恥ずかしそうに言葉を紡ぎ、シノマツリに誕生日プレゼントを手渡す。


 誕生日プレゼントはシノマツリの瞳と同色の髪留めリボン。


 髪留めリボンを受け取った瞬間、シノマツリの記憶は上書きされた。


「あ、ありがとうございます……」


 シノマツリの脳内ではもう大変を通り越し大暴走していた。


 拓斗お兄ちゃんから誕生日プレゼント貰ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!手も触れちゃったぁぁぁ!!リボンの色もシノマツリと同じ青色のを選んでくれてる!!どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!本当に本当に嬉しいんだけどぉぉぉぉぉ!!!!拓斗お兄ちゃんだいしゅき~~~~~!!!!


 さすがに今回のサプライズはシノマツリも感情を完全には抑えきれなかったようで、手も声も震えていた。


 シノマツリは震える手で髪留めリボンを装備する。


 ツインテールの根元に巻いていたヘアゴムが消え、スカイブルーのリボンに入れ替わる。


「ど、ど、どうですか?似合っていますか??」


「うん、似合ってる。可愛いよ、まつりちゃん」


「か、かわ!かわわわ!!かわいい!!!!」


 自分から似合っているかとタクトに聞いた以上、こういう返しがくると想定していたはずのシノマツリだったが、実際に言われるとその衝撃に耐え切れず慌てふためいてしまう。


 シノマツリは火照った顔を隠すため顔を両手で覆う。そのシノマツリが取った行動が逆にタクトを不安がらせる結果となり、余計に自分の首を絞める事となる。


「まつりちゃん、大丈夫?」


「まつりに近づかないでえぇぇぇぇ!!!!」


 顔を覗こうと近づくタクトを全力で拒むシノマツリ。


 ギルドハウス中にシノマツリの叫び声が響き渡るのだった。


 シノマツリの『シノ』は紫乃月の紫乃から取っている。それに自分の名前である『まつり』を足して『シノマツリ』となっている。またカタカナ表記にしている理由はタクトがカタカナ表記だから、それに合わせただけという単純なもの。

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