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魔法が存在しない世界でパリィ無双~付属の音ゲーを全クリした僕は気づけばパリィを極めていた~  作者: 虎柄トラ
第一章 正式サービス開始編

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漆黒のアバターセット

 僕達は自分が取り出した段ボールを一斉に開けた。


 僕の段ボールの中に入っていたものは、顔から足先まで全てを漆黒で覆い隠す布や革で仕立てられた忍者や暗殺者のような出で立ちのアバターセットだった。


 このアバターセットはあくまで見た目を変更するためだけなので、着心地は僕がいま装備しているレザーアーマーそのもの。強いていうならばオプションとして、口元を覆い隠す黒い薄手のマフラーが付いていた。このマフラーは口元を隠す動作をすると装備して、逆に首元に降ろす動作をすると外す事が出来た。


 口元が隠れるのが嫌ってだけならば、別に首に巻いていればいいじゃないかと思うかもしれないが、このマフラーはバカみたいに長いのだ。その長さたるや足元から30cmぐらいしか浮いていない。僕の身長を考慮してもこのマフラー薄手とはいえ3mは優に超えている。


 街中を歩き回るとかぐらいならまだそれでもいいかもしれないが、こんなものを付けてダンジョンで戦闘などすれば、すぐにどこかに引っかかって戦闘どころではないだろう。カッコいい……カッコいいけど、戦闘にはあまりにも不向きなデザイン。


 サンのアバターセットは全体は銀色の金属で出来ているが、肘や膝などの関節部分だけは金色の金属で作られたプレートアーマー。もちろんバイザーを上げ下げ出来る銀色のアーメット付き。それ以外に特にいう事がないぐらいに、本当に色合いだけが変化したプレートアーマー。ただ本人は大満足していたから特に問題はなかった。


 今回で一番見た目が変化したのは修羅刹だろう。このゲームを運営しているスタッフに修羅刹のファンがいるのではないかと疑ってしまうほど、ひとりだけオリジナリティが爆発していた。


 修羅刹のアバターセットは虚無僧こむそうそのものだった。ただそれだけならばまだ僕達と大差ないのだが、虚無僧が頭に被っている天蓋てんがいに『修羅』の二文字が、そして肩からぶら下げている尺八に『刹』の一文字が達筆な文字で刻まれていた。もちろん天蓋は着脱可能となっていた。


 修羅刹の尺八も僕のマフラーと同じオプション扱いらしいが、こちらは僕のマフラーのように特定の動作のようなものがないようで、装備したり解除したりは出来ないようだ。ただ天蓋を頭部装備の要領で見えないようにすると、尺八も一緒に消えていた。


 あと言うまでもなく修羅刹は尺八を演奏する事など出来ない。あくまで虚無僧っぽいだけである。


 僕は着替え終えたところで何か取り忘れていないか、空っぽになった段ボールを確認した。すると段ボールの底に一枚の手紙を見つけた。


 修羅刹やサンの段ボールにも同じものが入っていた。僕は早速手紙を開けて何が書かれているのか読んでみた。


「えっと、なになに……タクト様、クローズドベータテストご参加ありがとうございました。こちらのアバターセットはタクト様のデータを基に作成いたしました。今後ともアーティファクト・オンラインを楽しくプレイしていただけますと幸いです。アーティファクト・オンライン、運営スタッフ一同」


 ふたりも僕と同様の事が書かれていたらしい。それにしても僕のデータねぇ、ゴブリンにすら悪戦苦闘していた戦闘初心者用には到底思えない見た目なんだけど……。


 僕は再度ふたりのアバターを確認した。確かにサンは重装備を好んで装備していたし、戦い方も回避なんかせずに全身を金属でガッチガチにかためたプレートアーマーで敵の攻撃を受け、その後一撃で倒す事もあったから、サンのアバターセットはまだ納得できた。


 問題は修羅刹のアバターセット。これはどういう意図でこうなったのか全く見当がつかなかった。それに修羅刹にだけなぜ自分の名前が刻まれているのかも意味が分からない。ただ天蓋については少しだけあれかな……という心当たりはあった。


 それは修羅刹がゴブリンを拳でボコボコに殴っていた時の一度見たら決して忘れる事が出来ないあの笑み。あれほど嬉しそうに微笑みながら、殴り続ける姿は本当に狂気そのものだった。つまりはこの天蓋はそれを隠すため用のものではないだろうか。


 そういや、コタロウの服装も店舗で見た事ないな。着物自体は普通にあったけど、あんな背中に鮮やかな桜花が描かれたものなんて売ってなかった気がする。まぁ僕が見つけられていないだけかもしれないが、もしかしたらコタロウもクローズドベータテストをやってたのかも。


 各々新たな姿に生まれ変わった僕達は、ついにダンジョンに向かうため準備を整える。とはいってもお金も何もないので、あの酒場で三人で決めたどう考えても、僕が一番不利であろう競争についての再確認するだけなのだが……。


「タクト、サンふたりとも。いまから拙僧達は好敵手!誰が一番最初に100階層に到達出来るか競争よ!!」


「あー、分かってるって!最初に言い出した俺様がもちろん最初にクリアしてやるぜ!!」


「僕もやれるだけやってみる」


 僕とサンは普通に返事をしたが一部おかしい箇所がなかったか、あいつ自分の事を『拙僧』とか言ってなかったか。それにライバルをわざわざ好敵手とか言ってたし……。


 僕は手を挙げ「はい、ひとつ質問いいですか?」と修羅刹に問いかけた。


「なにタクト?」


「いや、なんつうか……その『拙僧』ってのがちょっと気になって、どうした急に??」


 僕からの問いに修羅刹はすぐさま天蓋をかぶっては顔を隠したまま話し出した。


「いやね……このアバター手に入ったから、わたしもコタロウさんみたいに一人称を変えてみようかなって思ったんだけど変だった??」


「どっかのやつも自分の事を『俺様』とか言ってるし別に変じゃない。ただいきなりの方向転換にビックリしただけで、修羅刹は修羅刹で好きにこのゲームを遊べばいいよ。な、サンもそう思うだろ?」


「あー、そうだぜ。VRMMOってのはもうひとりの自分を作って、その世界を楽しくプレイするのが醍醐味だいごみなんだからよ。別に気にする事はないぜ。それよりも、さらっと俺様に毒を吐いたタクトの言葉の方がダメージくらったわ……」


 僕達の言葉を聞いた修羅刹はゆっくりと天蓋を外した。その先に見えた修羅刹の顔は、まだ恥ずかしさが残っているのか頬を赤らめていたが、とてもにこやかな表情で僕達に微笑んでいた。


 いつもなら一切気にならないはずなのに、なぜかその時だけ純粋にただ『可愛い』と思ってしまった。それから数秒間僕は修羅刹から目を離す事が出来ずにいた。


 はっ!?と我に返った時……横目でニヤニヤしているサンに気づいた。僕はすぐさまマフラーを装備して口元が見えないようにすると窓に視点を移し、何事もなかった素振りをした。焦っていたためとはいえ、いきなりマフラー装備したら怪しすぎるだろと、雲ひとつない青空を数秒間眺めた後にその事に気づいた。


 怪しさ満点の行動ではあったが、ちゃんと引っかかってくれたようで修羅刹の視線をマフラーに向けさせる事に成功した。


 とりあえず……山河はあとでぶん殴っておくとしよう。


 あと、アバターセットが入っていた段ボールは手紙を読み終えると同時に、最初からそこに何もなかったかのように跡形もなく消えていた。

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