猿蟹合戦異譚〜さるの知vsカニの知〜(蟹味噌と猿脳)
猿が、何処かで仕入れた噂話に
『蟹は美味いらしいぞ、塩で茹でて喰うと格別らしい』
というものがあった
「なんと、それなら一度味を見てみたいものだ」
と、
その時から思うようになった
ある日、おにぎりを持った蟹の子が、テクテク横歩きをしているのを
柿の木の上で見かけた
「蟹汁におにぎり、これは中々のご馳走ではないか」
猿は、にんまり笑って蟹の子に声をかける
腹の中では、
『もう少し大きくなってからの方が食い出がありそうだが、偶々今日は腹も減っているし、
贅沢は言うまい』
と、思っていた
「蟹の子、蟹の子
そのおにぎりと、この柿の種を交換しようぞ」
蟹は、木の上の猿を仰ぎ見て
「これは…、私のおにぎりではありませぬゆえ…」
と、煮え切らない
蟹の子が煮え切らなくても、猿は蟹を煮て喰いたい
「そう言うな…、柿の種は、中々良い物でな…」
猿は、スルスルと木から降り、
隠し持っていた木の枝で、蟹の子を叩き殺そうとしたその時
「蟹の子、よくやった」
野太い声とともに、猿の身体には万力で締め上げられるような痛みが走った
「ウギ、ギ、ギ…」
片腕を上げたままの体制で、拘束された猿は呻き
自分の身体を締め上げる、太い4本のトゲトゲした足だか腕だか分からない物を見た
「この腕は、ちと邪魔じゃの」
『ジョキン!』
という音と共に、切り落とされる
「ウギャ、ギャ、ギーヤーア〜」
猿は意識を失った
「風の噂での、猿の脳味噌は珍味と聞いた」
野太い声が
『ムチャ、ムチャ…』
と、咀嚼音の合間に聞こえる
「…うーん、わたしにはまだ、この味は分かりませぬ」
高めの声は蟹の子だった
「…、お前はまだ幼いが、歳を取り、深海に居を構える頃には
嫌でも、深海の果てで骸となった物を食さねばならぬのだぞ?」
宥めるような、野太い声と
「…死肉も、海の水の中では、結構食べられると聞いております…」
シャキッと答えるからには、何事か同種族の大人たちにも聞かされているのだろう
「…そうか!心強いことよ」
野太い声の主が、優しくなった
「…さて、鮮度の良い猿の脳味噌、美味であった
囮に使って悪かったな、蟹の子よ」
労う声に、蟹の子は誇らしげに応える
「とんでもございません!大王様のお力になれた事、子々孫々に誉でございます!」
「うむ…」
満足気に頷く蟹の王は、辺りに深海の気を纏い
「小さきものたち、息災での」
と、声をかけると
ワラワラと蟹の子たちが這い出て来る
「「大王様もお元気で」」
「さらば」
蟹の王は、そう告げると深海に戻って行った
「…さて、埋めようぞ、埋めようぞ!」
蟹の子たちは、穴を掘る
「…うーん、これは…微妙な味…」
好奇心にかられて、猿の頭蓋にハサミを突っ込んで、残った脳味噌を口にした1個体が言う
「どれどれ」
「ワタシも」
と、かしゃかしゃと我先に頭蓋にハサミを突っ込むが
口にした途端
「…?…」
という顔になる
「…だが、大王様は満足しておられた!」
「そうじゃ、そうじゃ」
と、皆満足に言い、再び穴掘りにせいをだす
猿一匹、蹲って埋められる程の穴を掘り、猿を運び入れる
「…大王様が、これをと…」
何かをおうせつかった又別の蟹の子が、差し出す
それはまだ、樹齢1年程の柿の苗
蟹の子たちは、意味は分からねど大王の言いつけを守り
空洞になった猿の頭蓋に差し込んだ
そして、柿の苗が埋まらぬように丁寧に土をかけ
土から突き出た苗を囲んで歌うのだった
『…はーやく伸びろよ…?』
「あれ?続きは何であったか?」
皆が首を傾げる
ゴニョゴニョと誤魔化す
しかし、次の歌詞は声高らかに歌う
『…頭をハサミでちょん切るぞ〜!』
クスクスと笑い合いながら
『はーやくのびろよ(チョキチョキチョキ)
頭をハサミでちょん切るぞ〜!』
蟹の子たちは歌い続けるのだった
蟹が美味いのに異存はありませんが
(漫画の主人公も柿より蟹のが美味いと言っていた)
搾取とか意地悪ではなくて、食うか食われるかになったら
どんな感じだろう?
と思い、書いてみました
蟹の大王のイメージは
タカアシガニか、ほぼ『ヒルコ』ですが
知識も力も大王級にあります