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11 朝起きたらヒロインたちがエプロン姿で「おはよう」って言ってくれたうえに手料理を食べさせてくれるなんてヤバすぎる

 俺は長いこと、朝メシなんて食べなかった。

 いつもギリギリまで寝ていて、着の身着のまま家から飛び出して仕事に向かう毎日だった。


 しかし今朝は、陽光を受けてキラキラと輝く朝食の前にいる。


 クロワッサンにベーコンエッグ、サラダにヨーグルトにオレンジジュース。

 テュリスも思わず「ごきげんな朝食やなぁ」と言ってしまうほどのメニューだ。


 そのお味は言うまでもなく、めちゃくちゃうまかった。


「うまっ、うまっ、うんまぁーっ!? こんなうまいクロワッサン、初めて食べた!

 コレ好きっ! ねえオッサン、このワッサンがマジヤバいから食べてみなって!」


 コレスコも絶賛の、焼きたてのクロワッサンは特においしそうだった。

 半分に割るとふんわりとした湯気とともに糸をひくように千切れ、あたりに芳醇なバターの香りを振りまく。


 ひとくち食べるとサクッとした皮と、中のもちっとした記事、そして豊かな風味が口いっぱいに広がって……。


「うっ……うんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 思わず朝から叫びだしてしまい、「朝っぱらからうるせぇぞコラァ!」と壁ドンされてしまうほどだった。

 そんなこともおかまいなしに、俺とコレスコはバスケットに積まれたクロワッサンを貪るように食いまくる。


「しかし、こんなうまいクロワッサン、どこで買ってきたんだ?」


「そう思っちゃうよね! しかしこれはシャイネがここで焼いたんだよ

 あーし、マジ驚いちゃった! あんなちっちゃな釜で、こんなうまいワッサンが焼けるだなんて!」


 俺の部屋には料理用のちっちゃいカマドが備え付けられている。

 冬は暖房器具がわりに使っているのだが、いちども調理用としては使ったことはなかった。


 こんなしょぼいカマドで料理なんてできるのかよ、なんてバカにしたこともあったけど、まさかパンまで焼けるとは……。

 そんなプロ裸足のパンを焼き上げたシャイネは誇ることもせず、食べ盛りの子供たちを見る母親のように、やわらかに微笑んでいた。


「よろこんでいただけて、とってもうれしいです。

 まだまだありますので、たくさんめしあがってくださいね」


「そういえば昨日の夜もパンだったけど、もしかしてそれもシャイネが焼いたのか?」


「はい、ほんとうはやきたてをめしあがっていただきたかったんですけど、おかえりになるじかんがわかりませんでしたので、やいてしまいました」


「そうだったのか……でもパン焼きなんて、どこで覚えたんだ?」


「せいじょがっこうにいるときに、パンやさんではたらくかわりにおしえていただきました」


「パン屋で!? 聖女のお前がパン屋で働いてたのかよ!?」


 いくら見習いとはいえ、聖女が働くというのは本来ありえないことだ。

 家事についても同じことで、労働というのは下賤の者がするものだという考えがあるから。


 聖女のプライドをかなぐり捨ててまで、なぜパン作りを覚えたのだろうか。

 その答えは、思いも寄らぬものだった。


「おにいちゃんに、まいあさやきたてのパンをめしあがっていただきたかったんです。

 おにいちゃん、やきたてのパンがおすきでしたよね?」


 俺のハートが、ズキュンと撃ち抜かれる。


 俺はたしかに焼きたてのパンが大好きで、家から勘当される前は毎朝のように食べていた。

 しかし落ちぶれてからは、その習慣も止めざるを得なくなった。


 なぜならば、パンというのは焼きたてのほうが値段が高く、手が出なかったから。

 日銭だと、廃棄寸前のカッチカチのパンしか買えなかったんだ。


 でもまさか、こんな形でまた大好物にありつけるなんて……。


 ……もう俺は、釘が打てそうなパンを、歯が折れそうになりながら無理やり食べなくてもいいんだ。

 妹が焼いてくれた雲みたいに柔らかい、口に入れるだけでとろけるようなパンを食べてもいいんだ。


 ああっ、妹よ……!

 お前はなんて、兄想いなんだ……!


 俺はっ……俺はもうっ……!


「ほっ……惚れてまうやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 俺の耳元でテュリスが絶叫したので、思わずはたき落としてしまった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 朝食を終えた俺たちは、さっそく出かける準備を整える。

 今日もまたレベル上げかなと思ったのだが、


「レベルが10になったから、今日は地下迷宮(ダンジョン)に突入するでぇーっ!」


 テュリスがそう言うと、俺の視界に十字のマーカーが現れる。

 どうやら、昨日レベル上げした森の奥にある洞窟が今日の目的地のようだ。


 マジハリの森にある洞窟は、勇者小学校の遠足でもおなじみの場所。

 モンスターはいるものの雑魚ばかりで、集団でのダンジョン探索を学ぶのにうってつけの場所なんだ。


 しかし、そこに俺が行くということは、公園の砂場でオッサンが遊びたがるようなもの。

 ヒロインコンビに言い出すのはちょっと恥ずかしかったが、


「マジハリのどーくつ!?

 あははははは! 小学校以来だよ、そんなとこ行くの!

 でもゴミスキルのオッサンにはピッタリじゃん! いこーいこー!」


「ついに、おにいちゃんといっしょにぼうけんできるんですね!

 おべんとうをもっていきます!」


 ふたりはおおむね賛成してくれたようだったので、正式にマジハリの森の洞窟を目的地に決定する。

 アパートを出て、昨日と同じように大通りを進んでいると、


「あ、ちょっち待って。ちょっち防具を買い換えたいから、ちょっち寄っていい?」


 コレスコが通りすがりにある防具専門店に寄りたいと言う。

 シャイネも行きたそうにしていたので、寄り道することにした。


 ふたりは防具屋に入ると、それぞれ『魔術師コーナー』と『聖女コーナー』に向かい、なにやら品定めをはじめる。

 俺は欲しいものもなかったし、そもそも買う金もなかったので、外に出てヒマを潰していた。


 昨日、話しかけた野良猫が寄ってきたので、チョッカイをかけていると……。

 しばらくして防具屋から出てきたヒロインコンビは、とんでもない格好になっていた。


 コレスコもシャイネも、さっきまで全身を覆うようなローブを身に着けていたのに……。


 コレスコは肩も胸元もあらわな真っ赤なキャミソールに、丈の短いショートパンツ……!

 シャイネはふとももがチラ見えする、膝上丈の純白ミニスカワンピ……!


 俺は「ぎょっ!?」と口に出してしまうほどに、度肝を抜かれていた。


 ど……どうしちまったんだ、ふたりとも……!?

 いくら小学生レベルのダンジョンとはいえ、モンスターのいる場所に行くのに、そんな肌を露わにした格好をするなんて……!?


 それじゃまるで、夏休みの虫採り……!

 いや、裸でハチミツ採りに行くようなもんじゃないか……!

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