コント
A「へー、こんなところに新しい店出来てたんだ。イタリアンかな? ちょっと入ってみよ」
(ドアを開ける音)
A「すいませーん」
(駆け寄ってくる店員、B)
B「申し訳ありません、うちの店で人生相談などは受けつけていないのですが」
A「違うから」
B「はい?」
A「いや、普通の客だから」
B「あ、失礼しました。ちょっと暗くて、疲れているご様子でしたのでてっきり人生に迷っている方かと」
A「あ、そう。気遣いは嬉しいけどいきなりこられると気持ち悪いからね」
B「ご予約はされてますか?」
A「予約とか必要なお店だった?」
B「あ、大丈夫ですよ。ただ、お席のほうがカウンター席しかご用意できなくて……」
A「いいよいいよ、1人客なんだし」
B「いやー、僕が嫌なんですよね、客に覗かれて仕事するの」
A「知らないよ。じゃあなんでカウンター作ってんのよ」
B「え? お客さん、僕から見えちゃいますけどよろしいんですか?」
A「いいよ別に」
B「あ、はい。かしこまりました」
(A、席に着いてメニューを見る)
A「じゃあー……このランチセット」
B「本日のランチセットはハンバーグセットになっております」
A「そんでサラダはイタリアンサラダ」
B「あぁ、これイタリアンじゃなくてニタリアンサラダです」
A「…………え、イタリアンじゃなくて? なんなの、その、ニタリアンて」
B「僕の名字が谷田なんです。だからニタリアン。ぶっ、ふふ、ふふっ……」
A「あー……、そう。しょーもないダジャレね。それでいいから」
B「わかりました。パンとマイムはどちらになさいますか?」
A「なんて?」
B「ランチセットのパンとライスはどちらになさるのかなと」
A「ああ、なんか違う言葉が聞こえた気がしたからさ。ライスにして」
B「ライスのほうは弱ライスと中ライスと強ライスのどれになさいますか?」
A「なにその格ゲーみたいなの。それはライスのサイズなの?」
B「米の研ぎ方の強さになります。しゃがみ弱弱立ち中強が決まると3割削れますね」
A「普通にやったのでいいから」
B「ちなみにライスのほうはコンボを決めていけばチャーハンになることもありますがよろしいですか?」
A「それ痛める違いだからね。ダメージ出しても炒められないから。普通のライスでいいから。普通にコンボとかないからね」
B「あ、はい」
A「そんじゃ、それだけで。頼むね」
B「かしこまりました。あー、イーガー○ーテル!」
A「待った」
B「なんです?」
A「それ○将さんだよね? あの有名なチェーン店の」
B「僕、○将が好きでリスペクトしてるんです」
A「止めたほうがいいと思うよ」
B「そうですか?」
A「うん、普通に怒られると思からね、丸パクりは。個人店でも」
B「まあ、そうですね。餃子定1つ!」
A「待って待って」
B「はい?」
A「頼んでないからね。それだともう完全に○将さんだよね」
B「好きなもんで」
A「うん、好きなのはわかったから。今頼んでるのはランチセットだから。ハンバーグだったよね?」
B「あ、はい。すみません」
A「ちょっとちゃんとやって。お願いしますよ」
(B、カウンター裏ではなく奥に引っ込む)
A「……ここで作るんじゃないのか」
B「お待たせしました。まずこちら、ニタリアンサラダです」
A「へー、なんか色々乗ってんね。色合いもオシャレじゃん。映えるってやつか。これ、葉っぱで隠れてるのなんなの?」
B「あ、お気づきになられましたか? こちら、キャベツに隠れているのは餃子となっております」
A「……餃子」
B「はい」
A「みずみずしいサラダの中に餃子」
B「はい」
(しばし沈黙)
A「ちょーっと、イメージしてたサラダと違うかな!」
B「そうでしょうー?」
A「してやったりみたいな顔しないでくれる? あんま嬉しくないから」
B「自信作なんですよ」
A「あ、そう。メニューのほうにちゃんと餃子入りって書いとくとさ、いいと思うよ」
B「前にも言われたんですよね、それ」
A「だろうね、純粋にサラダを食べたい人はまず避けるだろうからね」
B「そういうもんですか」
A「そういうもんだよ。もういいからメイン出してよ、メインのハンバーグ」
B「わかりました」
B「お待たせしましたー、こちらニタリアンハンバーグになります」
A「おっ、なんかスープに浸っていい感じじゃないの。
……(咀嚼)……
うん、美味いね。なんかハンバーグっぽくない味だけど、ちょうどよく味が染み込んでて煮込みハンバーグになってんね。あっ、ニタリアンだから煮たりってことか? ははっ」
B「やだな、そんなつまらないダジャレみたいなことしませんよ」
A「お前もさっき言ってたんだよ」
B「ニタリアンハンバーグは普通のハンバーグですから」
A「え? これ煮込みってやつじゃないの?」
B「先ほどサラダを出すときにスープ出し忘れちゃったんで、なんとかしようと思ってハンバーグにスープかけちゃいました」
A「おまっ、なにしてんの?!」
B「だって出し忘れてたらネットにろくでもないこと書き込みそうな顔してるんだもん」
A「だもんじゃねえし、そんな顔もしてねえよ。どんな顔だってんだよ。つーか、スープぶっかけてくるほうがよっぽどクレームくるわ」
B「お気に召しませんでしたか?」
A「美味いから腹立ってんだよ」
B「ありがとうございます」
A「ありがとうございますじゃないよ。褒めてるわけじゃないからさ」
B「そうだ! お客様!!」
A「いきなり大声でなんなの」
B「すっかり忘れてましたけどナイスのほうお持ちします!」
A「ライスね。うん」
B「こちらになります」
A「一応聞くけど、これは普通にライスね?」
B「? そりゃそうですよ」
A「ならいいけど」
B「それと、こちらがトッピングのハンバーグの皮になります」
A「待って待って」
B「なんですか?」
A「え、何? ハンバーグの皮って?」
B「ああ、ご存知ありませんでしたか。この食べ方が今流行っていまして、うちでもやってみようと」
A「へー、そう。聞いたことないな」
B「ハンバーグを一口ほどの大きさに切って」
A「うん」
B「それを上手に皮で包んで食べるんです」
A「うん?」
B「お好みで餃子のタレとラー油につけると」
A「完全に餃子だよね、それ。今もう餃子のタレって言っちゃてたね」
B「言っちゃってましたか」
A「言っちゃってたよ。わかったよ、これ食べるからさ。静かにしててくんない?」
B「ふふ、静かにしちゃってます。ぷっ、ふふ」
A「どこに笑うとこあったよ」
B「あ、お帰りですか」
A「ほら、代金」
B「はい、ありがとうございます。こちらお釣りです」
A「おう」
B「それとこちらポイントカードでして、ご注文にハンバーグが含まれたお客様にお配りしております」
A「へー」
B「ハンバーグ1品で1ポイント。ポイントを30ポイントを貯めると、なんと!」
A「なに? 餃子?」
B「その場でハンバーグ10品と交換できます」
A「そこは餃子でいいだろ」