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山、川、ドリル!

日曜日の早朝、俺はカイトに呼び出されて駅に向かっていた。

駅に着くと二人は同じ高級なメーカーの登山家の様な格好をしていた。

リュックも同じメーカーの色違いだ。


俺は一応富士山5というブーツとモンペルンのゴアテックス製のウエアを着ていたが、ペアで揃えている二人を見て現実を思い知った。


「おお!モンペルンか高性能の割には安くて良いよな。」

やはりカイトは見かけによらずオタク性がある様で俺のウエアをしっかり指摘してきた。


「まあ服はどうでもいいじゃないか、それより何で山なのか説明してくれよ。」


「ああ、そうだなとりあえず電車に乗るぞ。早朝の特急は次を逃すとしばらくないんだ。」


電車に乗ると二人は慣れた様子でおにぎりを食べだした。

なるほど、時間が早過ぎてこの車両には誰も居ないから簡単な食べやすい物なら食べられるのか。

それにしても二人は慣れてるな。

洋服もお揃いだし、電車の時間も把握してたし、こうして朝ご飯のおにぎりまで手際が良い。

きっと何回も二人で出掛けて一緒に貸し切り温泉でも入って楽しんでるんだろうな。

下手すると普段は誰も居ない電車の中でキスくらいはしてるかもしれない。


「おい!パンダいい加減にしてくれ。

俺は人の心が読めるんだ、忘れたか?」


「ああっすまない。」

俺はすぐに誤った。


「またなんか私達でエロい事考えてたの?

あんたも飽きないわね。」

あやねが呆れた様に言ってくる。


「でも今日はどういう目的があるんだ?」

俺はなんかカップルを見てるのも辛いし、エロ野郎と罵られるのも嫌なので話しを進めた。


「桜の木の精霊から頼まれたんだよ。

川の上流で不穏な気配を感じたから見てきてくれってな。」


「二人でデートついでに行けよ。」

俺はだんだんとめんどくさくなってきていた。


「まあそう言うなよ。

あやねの能力も上がってきてるんだ。

俺のオリジナルロボットプラモに乗せてやるからよ。」


「なるほどな、俺にオリジナルプラモを見せたかったのかそうならそう言えよ。」


プラモの世界は狭い。

女子は当然、男子にもオタクと罵られる分野なのだ。

世間はイメージを大事にする。

名前で避けられてきた俺にはそれがなんとなくわかった。


やがて電車は山の麓にたどり着いた。

ただでさえ不人気趣味の登山なのにマイナーな山だ。

日曜日でも誰も居ないだろうと思って居たが、そこはジジイとババアの楽園だった。


俺達は更に不人気な登山道に入って行く。


「おおー、俺達以外の誰も居ないぞ。

誰の心も読まなくて済む、山サイコー。」

カイトは嬉しそうに叫んだ。


カイトの読心術はカット出来ない。

常に人々の悪意を見続けているのだ。

誰も居ない山はカイトにとって癒しの場なのだろう。

カイトの様子を見て俺まで少し嬉しくなってしまった。


「ちょっと前からジジイとババアだけしか居なかっただろ。」


「パンダ、ジジイとババア舐めてるだろ。

あいつらの心こそ汚れきってるぞ。

話でしか聞いた事のなかった高度成長期とバブル期ってのがどういうものだったのか良くわかるぞ。」


「そうなのか?」


「ああ、まあその話は今はいい、これを見てくれ。」


カイトは嬉しそうにリュックからプラモデルを取り出した。


カイトはボールにキャタピラーをつけた様なもの、あやねは操縦席が剥き出しで足と手だけある様な機体。


そして俺にはドラム缶の様な機体を渡してきた。


「お前はそっち派だと思ってな。」

カイトに言われたがまったく意味がわからなかった。


後で聞いたのだが、その作品ではボール型が味方でドラム缶型が敵軍らしい。


あやねはさっそく能力を使いプラモデルを大きくする。


「さあ、早く乗って。」


俺はドラム缶型のロボットに乗り込んだ。


キャタピラーが回りだしカイトが乗ったボール型プラモデルが動き出す。


あやねのロボットは器用に二足歩行する。


そして俺のドラム缶は山の斜面を転がり登った。


「きっ、気持ち悪い…。」


幸い吐きはしなかったが、爽やかな大自然の中、山の斜面を転がり登るという奇想天外な動きが俺の三半規管を刺激した。


数十分後、俺達はいつもの桜の木川の上流にたどり着いた。


「よし、ここだ。

プラモデルしまうから一旦降りてくれ。」


そこには作りたての綺麗なコンクリート製の岸があった。


桜の木はこの川岸のコンクリートが違法建築だから調べてこいと言ったらしい。


「調べてこいも何もどうやって調べるんだ?

ただの新しいコンクリートにしか見えないぞ。」

俺は当然の疑問を口にした。


「そこはプラモデラーの俺に任せてくれ。

構造を補強する為のやり方があって、中に入ってる丸太や鉄骨の数が決まっているんだ。」

カイトが事前に調べてきた情報を俺に見せる。


いや、だからどうやってコンクリートの中にある丸太や鉄骨をチェックするんだよ……。


「すまん……。」

カイトが俺の心を読んで謝る。


俺達の話を聞いていたあやねが言う。

「要はコンクリートの中に丸太や鉄骨がちゃんと入っているかを見れれば良いのよね?」


あやねはもう一度自分の機体を取り出してコンクリートを殴り出した。


「おっおい!マジか!それはまずくないか?」

俺とカイトがあやねを止める。


「どうせ違法建築なら作り直しじゃない。

それにもう壊しはじめちゃったから今更やめても遅いわ。」

ロボットのパンチで少しずつコンクリートが壊れていく。


「これ堅いわね。

いくら不思議な力で強化しててもプラスチックの拳が削れていくわね。」


あやねの言葉に今度はカイトが壊れる。


「あやね!このドリルを使うんだ。

新しく加工の仕方を覚えたダイキャスト製だ!」

カイトはあやねにドリルを渡す。


ドリルを装備したロボットは器用にコンクリートを壊していく。


「やはりロボットにはドリルだな。」

カイトはご満悦だ。


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