桜の精霊からの贈り物
俺は目を開けて辺りを見回す。
ここは薄いピンク色の何もない空間。
カイトと鈴木さんも一緒だ。
「妾が桜の精霊じゃ。」
そこにはいつのまにか髪の長い雛人形の様な着物、十二単を着た美少女がいた。
「久しぶりに良いものを見させてもらった。
其方に褒美を与えよう。」
俺は得意の心を全く開かない当たり障りのないトークでこの謎の美少女に話しかける。
「突然の事で良くわからないのですが、説明してもらっても良いですか?」
「今言った通り。
お前達の青春ストーリーに感動したから、何か褒美を与えると言っているのじゃ。」
俺は頭の中で金銀財宝、大判小判を思い描いた。
カイトは桜の精霊に言った。
「俺は人の気持ちが知りたい。
そしてあやねを守る力が欲しい。」
俺がお金の事ばかりを考えていたのに、カイトはあやねを守る力だと!
これが男子力、イケメン力なのか。
「よかろう。
カイトとやらは少し人の汚い嫉妬心に打たれ過ぎじゃ。
それに頑張り過ぎじゃ。
人の心を見てみるがよい。
あやねを守る力も授けよう。」
あやねは言う。
「私はカイトを守る力。
癒す力が欲しいです。」
「よかろう。
人を愛し愛する事は素晴らしい事じゃ。
人に遠慮する事など何もない。
二人で力を合わせて幸せになるのじゃ。」
俺はショックを受けた。
さっき桜に友情を誓った三人なのに。
二人で愛し合ってるじゃん。
俺なんか金が欲しいとか思ってたよ。
こんなに見せつけられちゃたまらない。
物だけじゃなくて力とかも頼めるのか。
だったら…。
俺は自らの欲望を解き放った。
「何でも俺の言う事を聞いてくれる美少女が三人欲しいです。」
「ほーっほーっほっほ。
お前は本当に面白いな。
よかろう、其方にも力を授けよう。」
「お前達は今日から桜組を名乗るが良い。
また会う日を楽しみにしている。」
俺は桜色の光に包まれ眩しさに目を閉じた。
再び目を開けるとそこは元いた桜の木の下だった。
「あやね、パンダごめん俺少し寝てた。」
「私も変な夢を見てた。」
「俺もだ。」
それ以上俺達は何も喋らなかった。
それぞれがあの夢の事を考えていた。
しばらくしてカイトが話し出した。
「もしかして少し寒いと思ってないか。」
カイトはそう言いながらあやねに手を近づけて、手から小さな炎を出した。
「パンダ俺達だけイチャイチャしてごめん。」
「もしかして、本当に心が読めるのか?」
「ああ、とりあえずここを移動しよう。
俺の家で良いか。」
「わかった。」
「うん。」
俺は唯一の親友とか言っておきながらカイトの家にはじめて来た。
さすが医者の家だでかい。
カイトと鈴木さんは慣れた様子でさっさと靴を脱ぎ階段を登っていく。
俺は二人の後を追ってカイトの部屋に入った。
10畳くらいの部屋に机とベッドとガラス製の棚が置かれいて、棚の中にはぎっしりとロボットが並べられている。
確かにロボットオタクだと思った。
そして俺はカイトのベッドに座る鈴木さんを見た。
あー、カイトは童貞捨ててやがるな。
ここで鈴木さんにどんな事をしたんだろう。
「ちょっと待てパンダ。
それ以上はやめろ。
俺は心が読めるんだ。」
カイトが鈴木さんのいろんな姿を想像しようとした俺を止める。
心が読める。
逆に言うと読みたくもない事も読まされるのか、結構しんどそうだな。
俺はカイトに同情した。
しかし童貞を捨てたと言う話は別問題だ。
健全な男子として仲間に報告義務があるのだ。
それは鉄の掟だ。
「わかった中二の時だ。
今はそれで勘弁してくれ。
それから鈴木さんじゃなくてあやねだ。
最悪あやねがイジメられるんだ、そこはマジで頼む。」
「俺も調子に乗り過ぎたごめん。」
俺は素直に謝る。
「ねえ、何の話し?」
あやねさんが聞いてきた。
「ああ、悪いパンダが心の中であやねを鈴木さんって呼んでたんだ。
だから注意した。」
カイトがあやねにうまく誤魔化して説明してくれた。
「中二ってのは何?」
あやねが鋭く突っ込む。
これが女の感ってヤツか中々鋭いな。
「いや、あの、それはだな。…。」
カイトが激しく動揺している。
「カイト、俺がきっかけだから俺がちゃんと謝るよ。」
「あやねが部屋に慣れた様子で入ってベッドに座ったから、俺があやねのエロい姿を想像しちゃったんだ、ごめん。」
「私のエロい姿を。
それかなりムカつくけど、少し嬉しい。
私ずっとカイトには釣り合わないって女子の間でイジメられてたから。
でも、もうやめてね。」
「ほんとにごめん。」
カイトはなんて良い子と付き合っているんだほんとに良かったなと思った。
「パンダもいい奴だよ。」
「また心を読みやがったな。
まあいい、明日からみんなの悪意に晒されまくるんだ。
俺で練習しておけよ。」
「パンダのは悪意より、エロいばっかりだがな。」
「喜べあやね、三人共通の秘密が出来た。
あやねがポエムで、俺がロボット、パンダはムッツリスケベだ。」
「まあ、桜の精霊に何でも言う事を聞く女の子を三人も願ったくらいだしね。
わかってたわ。」
「うるさい、ポエマー。
お前とこのベッドで想像してやるからな。」
「きゃー変態だ、おまわりさーん。」
俺達はお互いの悪口を言いながら笑いあった。
なんか小学生みたいな友達だ。
俺にははじめての感覚だった。
「そろそろちゃんと話進めようぜ。」
俺は心が読めるのと手から火が出たがお前達はどうなんだ?
何か不思議な力があるのか?」