3.目撃の窓辺
昨日の帰りに清澄くんの言葉で何かを感じたわたし。どうして彼の言葉を聞いて胸の辺りが熱くなったんだろう。幼さの残る彼の声はとても優しくて、声をかけられただけなのに何で意識しだしちゃうんだろう。
今朝も会えると思っていたけれど、わたしが遅いのか、それとも違う道なのか分からないけど彼の姿がどこにもなくて、たった一日しか経っていないのにどうしてか気になっていた。
「はぁ~……」
「伊月さん。ため息なんかついて何かお悩みなの?」
「えっ? あ、唯奈さん。ううん、そんなことないよ」
「そうなの? でも何か気になることあったら私、聞くからね」
「うん、ありがとう」
彼女は鈴原 唯奈。わたしのクラスの学級委員。細かいことによく気づくし、声をかけてくれるんだけど、本当によく見てるってくらいに注意もしてくるから、男子はうざがってるし女子も気を付けていたりする。
やっぱり学級委員って責任感が強くなきゃ、立候補も推薦もされないよね。朝もみんなよりちょっと早く来てるし何だか大変そう。そういう意味じゃわたしには無理かな。
口うるさいからって男子たちはうざがっている。でも、顔立ちが整ってて綺麗な子だからわざと気を引いて注意を受けている男子をたまに見る。目を引くってこういうことなんだろうな~。わたしも別の意味で目を引かれてたりするんだけど、それに合わせてくれる男子はこのクラスにはいなかった。
そんな感じで、お昼の休み時間もゆっくり過ごしていたわたし。窓席で春の風を感じながら、空を眺めてふと、下に視線を落としてみると昨日の彼……清澄くんを見かけた。
転入して来たばかりの彼は早くも女子の人気者になっていて、窓から女子たちの声が彼に向けて放たれていた。可愛い系男子……それだけじゃないけれど、わたしと同じように彼の声と話し方に胸を熱くする女子が多いんだろうなぁ。
「心晴ってば、昨日の今日で好きになった~?」
「そ、そんなんじゃないってば」
「へぇ~~? ずっと見つめていたのにそんなこと言う? まぁでも、可愛いしね。珍しく純な感じっていうか、その辺の男子よりはうるさくないみたいだし。そんな心晴に教えてあげようか?」
「ん、なに?」
文乃って、何で情報が早いんだろ。でもその割には、好きな人もいないみたいだし不思議。
「彼って早くも学級委員に推薦されたっぽいよ。だから今日は朝早めに来てたみたいだし。部活もなにかやるらしいよ。まっ、それゆったらウチらも決めなきゃなんだけどね」
「そ……うなんだ。そっか、だから人気なのかな」
学級委員、かぁ。じゃあ、朝に会えなかったのはそれのせいなのかな。毎日じゃないにしても、朝に会えたら良かったのに。……って、どうしてたった一日で彼のことを気になっているんだろ。
「残念だったね、心晴」
「なにが?」
「ほら、ウチの委員って唯奈じゃん? で、隣はウワサの清澄くん。会えるのは委員同士。だから、残念だったよね?」
「や、別にそれだけじゃないし、クラス違ってても話は出来るし。と言うか、好きとかそんなの一日で分からないもん」
「そうかなぁ? でもま、マジで心晴に期待しとく! 何ならグループ入っとく?」
「ううん、それはいいよ。グループってみんなで話すし、それってあんまり好きじゃないし」
どうせ話すなら、直接話したいし……声、聞きたい。出会ったばかりの清澄くん。彼の声が、聞きたい。