天国と地獄の愛を繋いだ銀の指輪2
タイトル
「天国と地獄の愛を繋いだ銀の指輪?」
そんなきっかけがあってから勝と留美は急速に接近して気付くと付き合い出していた。留美の友達は「勝さんとその三人の男達がグルだったんじゃないの?」と疑ってみたり「留美とは釣り合わないよ。だって、彼って留美より十センチ近く低いじゃない。ハイヒール履いたら彼との背が釣り合わなくてカッコ悪いよォ!」、「留美は美人なんだからもっと良い男見つかるよ」といろいろ言われた。
留美も言われるまでもなく、勝と留美の背の高さの十センチの差を気にすることは多々あった。
留美はどちらかと言えば、男の肩に頭をもたげて甘えたい性格であったが、留美の方が大きいと、勝に肩をもたげることが出来ない。
留美はスラリとした背で美人でもあるので人の目を惹く。それに比べて勝は男としては背が低い。
そんな二人が一緒に歩いていると、道行く人が留美の美貌に目を惹かれ「何であんな奴が……」と露骨に噂しているのが聞こえてくる。
それでも留美は勝を好きだったし愛していた。留美は友達が言う通りに別れるなんてことは考えられなかった。勝と別れてしまったら自分がどうにかなってしまう気がした。
勝も背の高さの違いを気にしてシークレットブーツなど履いて八センチ程背を高くしてデートした時もあった。そうしても勝より留美の方が少し高かった。
留美は背の低い自分にコンプレックスを抱いている勝を見て、背の高さの違いを気にするのは止めようと思った。背の違いがあろうと、勝は自分に合わせようとしてくれている。
背の高さの違いよりも大事なものがある。勝は留美を愛していたし、留美も勝を愛していた。それだけで充分だ。それ以上求めてしまうのは贅沢というものに違いないと留美は思っていた。
それで留美は勝に「お互いに背の高さが釣り合わないとか、人が言うこと気にするの止めましょう!私は背の高さに関係なく勝が好き。愛してる」と言った。
勝は何も答えなかったが、それ以降、勝もシークレットブーツなど履くこともなく、自然体のまま付き合うことになった。
勝も留美も違う大学の学生である。勝は商学部経営学科、留美は外国語学部英語学科に在籍していた。
勝は二十歳、留美は十九歳、二人とも大学生ということもあり、デートの時間はあるのだが、デート資金に行き詰まることもあった。そこで、一目を気にせずいちゃつける場所であり、お金の掛からないデートを好んで行く様になった。それがピクニックであった。
付き合い始めて三ヶ月経っても勝と留美はラブラブで今日もピクニックに来て、勝は留美に甘えて食べさせてもらった。そして眠くなると留美の膝の上で眠ってしまうのだった。
勝の前髪がそよ風に揺らめいていた。留美にとっては、自分の膝の上で安心してすやすやと寝息を立てて寝ている勝の頭を撫でてあげるのが好きで、そんな時幸せを感じる瞬間でもあった。
「あ、起きちゃった?」留美は勝の頭に手を触れていた手をどけた。
「起きてたさ!ただ目を閉じて、留美の顔を見ていただけさ!」
「もぉぅ、勝ったら!目を閉じていたら私の顔なんて見えるはずないでしょ!」留美は勝に甘えた声で突っ込みを入れた。
「見えるさ、目を閉じていても留美の顔だけはちゃんと見えるさ!こうして目を閉じた方が留美の綺麗な顔だけ見えていいもんさ!」
「もう、勝のバカァー!」
留美が勝の頭を軽く叩いた。
留美は勝の顔が真顔になっているのに気付いた。真剣な顔で下から留美の顔を見つめていた。
「何よ!どうしちゃったの?いきなり真剣な顔しちゃって……!勝には真剣な顔は似合わないぞ」と勝の額をポンと指で弾いた。
「留美、結婚しないか!」
「えっ?」留美は勝の言葉が聞き取れなかった訳じゃない。あまりにも唐突な言葉に、言葉の意味が思い浮かばなかった。
「留美、結婚しようよ!」
「な……な、何言ってんのよ!私達まだ大学生じゃない!そんないきなり冗談にもほどがあるわよ!」
留美は勝の突然の告白に、困っていたがやっとのことで返事をした。
「冗談じゃないよ。それにいきなりでもない。ずっと考えていたことなんだ。僕達が学生と言ったって、学生結婚って言葉があるじゃないか!今、結婚が無理なら婚約したい。留美といつも一緒にいたいんだ!」
勝は留美の膝の上からガバッと起き上がり、留美の顔を間近に瞬きもせずに見つめていた。
「そんな、急に何を言い出すかと思ったら。今だって、勝のアパートに何度も行ってるじゃない!」
勝の真剣さに留美はちょっと引いて、勝から顔を背けた。
「でも留美はいつも帰っちゃう」
「仕方ないでしょ!私は親と同居してるんだから。泊まりなんて許されるはずないわ!」
「だからさ、結婚していつも一緒にいるんだよ。好きな人と一緒にいたい。そう思うことって何か間違っているかな?」
「間違いじゃないけど……」
「間違いじゃないならどうしてダメなの?留美は僕と一緒にいたくないの?」
「私だって一緒にいたいけど……」留美は返答に困っていた。
「けど?」
「ちょっと考えさせて!そんないきなり言われてもすぐには決められないわ」
留美は一旦返事を保留し、決断を持ち越すことにした。
「そうだね、分かったよ。あまりにも突然だったしね、留美が気持の整理が出来るまで待つよ。でも、これだけは忘れない欲しい。僕は本気だよ」
留美は、勝の目をずっと見ていられず、顔を背けた。勝の一途なまでの瞳を見ているのが何故だかとても辛かった。
留美も勝のことを愛している。出来れば一緒になりたいと思う。でも一方で冷静になろうとする自分がストップをかけていた。
「一時の感情に流されてはいけない!」と囁く声を頭の中で聞いていた。
それから一週間経っても、留美は勝と結婚とか婚約に決心出来ずにいた。かと言って断ることも出来ない。だが、留美はさらに勝のアパートに入り浸る様になった。勝に告白されて、勝の真剣な目を見て、勝が自分を好きでいてくれることで安心した。
この一週間の間に、勝と初めて体で結ばれた。今までもキスは何度かしていたが、勝がそれ以上要求しても留美は拒んでいた。
留美としては心のどこかで、勝が自分に対して本気ではないのではないかといった疑いの心を抱いていた。
だが、勝にプロポーズされて勝の気持と勝に惹かれていく自分の気持に気付き、勝が留美を求めるのに対して、留美は最初はおずおずと怖がりながらではあったが、自然に心も体も開いていた。それは、勝が留美にプロポーズした三日後のことであった。
いつもの様に留美は勝のアパートに来ていた。食事を終わって、二人でテレビを見ていた時、勝が体を寄せてきて留美の手を掴んだ。勝の手は汗ばんでいた。
留美が勝の顔を見ると、勝の顔は興奮している様でほんのりと紅くなっていた。勝は「いいのかい?」と訊いてきた。勝の優しい言葉とは裏腹に、留美の手を握っている勝の手は強く握り締められた。
留美は恥ずかしさに少し俯き加減になりながら、コクリと小さく頷いた。カァと頬が熱くなるのを感じた。
勝は留美の頷くサインに黙って、留美を優しく引き寄せ抱き寄せながら、留美のことを気遣いながら押し倒した。
「電気を消して!恥ずかしいから」
留美が言うと勝は慌てた仕草で蛍光灯の線を引っ張り電気を消した。程よい薄暗さが勝と留美を優しく、そして暖かく包み、二人をより一層興奮させた。
二人が炎の様に熱く燃え上がって溶け合って一つになる素晴らしい一瞬を共有し、勝と留美はさらに深く相手にはまっていった。二人はとろける様に激しく一つになった。
まるで水の中で溺れるがごとく、快楽の水の中に入って、抜け出そうにも抜け出せない。また、抜け出したくない。そんな甘く蜜の様に濃い感覚に捕らわれた。
勝と留美は体を重ねることによって、より深くお互いを知り、より深く自分の心に相手の存在を刻み、また逆に自分の存在を相手の心の中で躍らせた。