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異世界温泉道中紀〜ゼロから始める温泉旅館の開業方法〜  作者: なつみかん
第一章 温泉英雄の誕生
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村長との会合

そろそろ、この世界の全容を記していこうと思います。

バブリア村の特徴はなんと言っても、隆々と聳える巨大な3本の岩石だろう。

俺はその連なる壮麗な岩を初めて見た時、オーストラリアのエアーズロックを想像した。


高1の頃、父に連れられて訪れたオーストラリアは日本とは全くスケールが異なり、街を行き交う人々、その街並みも一つとして同じものはなく、多種多様であった。

それはその国の自然にも言えることで、俺は無神論者だが、オーストラリアの自然の雄大さがあまりにも桁外れであったため、「神の御業でしか、なし得ないだろ」と思ったしまったほどだ。


そして、俺はその時の感動をバブリア村のシンボルによって想起させられた。


そう感動したのだ。

あの日見たオーストラリアの景色を思わせるような巨大な岩に、しかし、この村はどうやら俺をそれだけの情動で済ませる気はさらさら無いらしい。


「あの岩の中に人が住んでるんだよ」


その京介さんの発言に俺は自分の耳を疑った。


(あれ、おかしいな?今、あそこに人が住んでるって言ってなかった?)


俺は京介さんの話しを聞き直したが、どうやら本当の事だった。


その理由の一つが、岩の表面に規則的に開いた無数の穴である。


離れた場所からではよく見えないが、巨大岩へと繋ぐ大通りを通れば、その岩肌が次第に認識できるようになった。


長方形にくり抜かれた穴は凡そ屈めば大人も通れるような大きさで、目を凝らすと、奥で人が行き交う様子が窺えた。


その光景はまさにトルコの世界遺産の一つ「カッパドキア」の洞窟状に掘られた岩のようだった。


「凄い!」


死ぬまでに1度は訪れたいと言われる世界遺産の景色をオレは余すことなく、瞳孔に焼き付けた。


見ているだけでトリハダが立つような神秘的な場所に一体どんな人がどんな生活を送っているのかと憧憬を抱いた。


この村では一般的である赤土で作られた簡素的な住居に囲まれた大通りを抜けると、とうとう巨大岩の前に到着した。


目の前でみると、その並外れた規模が如実に伝わった。


普遍的な神々の遺産と人類の叡智が融合することで、これほど絶対的な建築を生み出せたと思うと、俺は感嘆した。


そういう意味ではトルコのカッパドキアも似ているところがあるのかもしれない。


自然哲学が発展したヒューマニズム期では自然のような非合理、不条理なものを排斥、統御してきた。

やがて、人間の知恵や技術が絶対的、合理的なものであると唱え始めた。


その近世ヨーロッパの変革、発展があったからこそ、現代の様々な事象、事件が解明されているわけだが、一方で自然をコントロールしてきたが故に、現代人はとある問題に苦悩している。


それこそが目下、様々な影響を及ぼしている地球環境問題である。

地球温暖化により溶けた氷河が及ぼした海水面の上昇。

スプレー缶ガスなどのフロンの増加が引き起こしたオゾン層の破壊。(オゾン層が無くなると有害紫外線をもろに浴びることになり、皮膚ガンを発症する危険性がある)


最近ではこのような問題がかまびすしく、論じられているため、ボールディングの「宇宙船地球号」ような主張が唱えられているのである。(地球を一つの船と見倣し、そこに存在する生物、資源を限りある共有のものであるとした考え)



そのような混沌とした情勢に生きる俺だからこそ、この自然と人々の融合を体現化させた建築が理想的なものであると感じたのである。


そんな事を考えながら巨大岩を見上げていると、上の穴からひょっこりと顔を覗かせ、俺たちを見下ろす男性がいた。


すると、ここに来るまでずっと黙っていた父がその男性に向けて大声を上げた。


「jmjgpmuwpjm wtjwm?」


父が喋ったのは言うまでもなく、この村の言語だ。

昨日の夜に聞いたことだが、父と京介さんはこの村に何度も出入りをしているらしく、その間にこの村の言語を覚えたそうだ。

ちなみに、サシャが日本語を喋れるのも、日本語の授業講師を父達に懇願した彼女の勤勉さと才能の賜物であるからだ。


(しかし、料理にしか興味の無さそうなサシャが日本語の勉強を自ら学ぼうとするとはな……)


想像出来ない彼女の心情に俺は理解が追いつかなかった。


(本人に聞いてみた方が早いな)


オレは自分の中でそのようにまとめると、父と男性との折り合いが付いたようで、岩の中に入るように言われる。


正面の入口を抜けると、天にまで続きそうな螺旋階段が伸びていた。


屋上を見上げると、そこは吹き抜けになっていて、強い日の光がかなり眩しかった。


また、螺旋階段にはそれぞれ横に人が通れるほどの長方形の空間があり、一つ一つが部屋のようになっていた。


中世西欧のような建築様式ということもあり、どこか既視感を感じたが、どこまでも続きそうなほど伸びる螺旋階段が筆舌しがたい不思議を感じさせた。


すると、階段の最上層部の空間から女性が現れた。


その刹那、その女性がなんとマンションの高さはあろうその場所から落ちたのである。

いや、正しくは降りたのである。


ストっと見事な着地で俺達の前に見参したのは女性にしてはやや高めの身長をした褐色肌の女性だった。

顔は何か布のようなもので覆い隠して見えなかったが、サシャと同じ露出度の高い服装を着ていたため、その抜群のスタイルから相当の美人だと判断した。


余談だが、ここに来る途中ですれ違った女性は首にアクセサリー等を付けている人もいたが、皆、肌をかなり露出させた同じ服装をしていた。


その女性は先ほどのダイナミックアクションが嘘であったかのように冷静に要件だけを伝えた。


「村長のソニア様がお待ちです。お連れ致しますので、私の後ろに付いてきてください。」


そう言い、彼女は螺旋階段を登り始めた。


俺はこれからのことを考えると陰鬱になった。


なぜなら、このアホみたいに続く螺旋階段を最上層まで登りつめなければいけないのだから。


4人の階段を上がる足音が空虚な螺旋階段の中心部の空間に木霊する。


どれぐらい歩いたかは覚えていない。

ただ、先程よりペースが落ちているのは確かだ。

そんな俺を気遣ってか、村長の使いの女性は俺を心配してくれた。


「大丈夫ですか?お辛いようでしたら少し、歩幅を落としますが?」


彼女はそんな事を清々しい顔で言った。

ここはサシャの家のように外とは異なり、かなり涼しかったが、流石に高層の階段を登るとなると、身体に応えるものがある。


しかし、村長を待たせていると言うので、遅れる訳にはいかない。


「ソニア様は寛大なお方ですから、理由があるならば遅れても大丈夫だと思いますが。」


身体的に疲労した俺にとってはまさにその言葉は神の慈悲のように聞こえた。


(あぁ、なんて心の広い人達なんだ)


使いの人は俺に気を遣ってくれ、また村長さんは寛大な人ときた。

どっかの誰かさんとは大違いなようだ。


そして、俺はその気遣いを丁重に遠慮させて頂き、何とか最上層まで頑張ることにした。


疲労を紛らわすため、俺は使いの人にいくつか質問をした。


「すみません。お名前を伺っても宜しいでしょうか?」


彼女は短調な声音で答えた。


「ナターシャです。」


オレは改めて、ナターシャさんに質問する。


「ナターシャさんはあの高さから落ちてどうして、無傷でいられるのですか?」


すると、彼女は常識外れな事を言った。


「はて?怪我をする要素がどこにもみられないのですが」


何言ってんだこいつ?と言った感じで、さもあたり間のようにナターシャさんは述べた。


俺はそんなナターシャさんが言っている意味がよく分からなかったので、もう1度聞くことにした。


「普通の人だったら、あの高さから落ちたら死にますよ!?」


そんな俺の言葉にやっと得心がいったのか、今の俺でもわかりやすく、説明してくれた。


「この村の女性はあの高さから落ちて死ぬほどやわではありません。なんたって、ロドンを1人で仕留められるぐらいですから。

むしろ、男達の方が力はかなり劣っています。」


俺達の国の常識が通じないことに呆然とした。

男と女には歴然とした力の差があるからこそ、スポーツ等では男子、女子と競技が分かれているのだ。


しかし、この国では男より女の方が力では圧倒的に勝っており、あの悪魔牛を1人で仕留められるのは常識だという。

また、この国での男性の扱いは一応平等ということだが、前述の通り女性の方が圧倒的に力があるため、狩猟よりも採集や家事、炊事に仕事を割り当てられるらしい。

サシャだけが規格外だと思っていたが、どうやらこの村の女性全員に当てはまることらしい


(待てよ。この村の男性って結構、筋骨隆々な人が多かった気がするんだけど)


述べてはいなかったが、巨大岩に向かう道で、もちろん男性の姿もそれなりに見た。

その体は確かに筋肉がしっかりと付いていて、背も高く、いわゆるガタイのいい男が多かった。

一方で女性の方はというと、特に筋肉等はそこまで発達しておらず、むしろサシャやナターシャさんのように引き締まった細いスタイルの女性ばかりであった。


(強さに筋肉や体格の大きさは関係ないのか?)


本当にこの村の情報についてはまだまだ知らないことが多いようだ。


しばらく階段を登るとようやく、最上層に辿り着くことができた。


そして、ナターシャさんはとある部屋に俺たちを連れ込んだ。

そこは部屋ではなく、通路だった。

螺旋階段の先にはさらに通路が続いていたのだ。


通路の壁には光を取り込むために窓枠が掘られていた。


また、窓枠と窓枠の間の壁には絵の様なものが描かれており、古代エジプトの壁画を彷彿とさせた。


奥に進むと、広い空間が見えてきた。

その広間の前に女性と男性が平形の剣を腰に携えて、正面の俺たちを一瞥した。


そして、何事も無く、中へと通される。


(あの人たちは見張りのようなものだろうか)


中へ入ると、そこには誰もいなかった。


俺は少し戸惑ったが、父と京介さんが何やら笑いをこらえている様な顔をしていたので、その異様な状況に困惑していた。


しかし、ナターシャさんは平然としていた。


(なんで、こんな場所で笑おうとしてるんだ?)



すると、後ろの方からハッハッハと大胆だったが艶のある美声で笑う声が聞こえた。


俺は「なんだろう」と思い、後ろへ振り返った。


すると、先程の通りすがった見張りの女性が後ろにもう1人の見張りの男性を引き連れてこちらに歩み寄ってきた。


俺は彼女たちに対してただ、村長との応接間で見張りがよくここまで不敬を働けるものだと返って、感心していた。


しかし、その考えが間違えであったと俺は気づいた。


「どうだヨーイチロー、キョースケ。

私が見張りの格好をしていたことに気づいたか?」


燃えるような赤髪を長く伸ばした彼女はニヤリと笑みを浮かべていた。




































作中で記述した通り、この村では男と女の間に明確な社会的差は存在しません。


ですので、男でも村の重役、警護、門番等に就くことが出来ます。

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