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異世界温泉道中紀〜ゼロから始める温泉旅館の開業方法〜  作者: なつみかん
第一章 温泉英雄の誕生
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赤髪の女性

投稿が遅れてしまい申し訳ございません。

ソニアは淡然たる態度でノランを見下ろしていた。


「ノラン、やはりお前を今回の開発計画の担当主任として全権を託したい。」



「ソニア様!

それは真ですか?」


慌てた様子で疑問を投げかけたのはソニアの脇に立つラパンだった。


「ノラン殿はソニア様や村方様だけでなく、ソニア様のご友人までも彼の身勝手な計画に組み込もうとしたのですぞ!

それを承知の上での判断ですか!?」



「もちろんだ。」


「ならば、何故この様な判断を?」


ラパンの動揺が彼の焦躁りを象徴していた。

しかし、そんなラパンとは対照的にソニアは一切その態度を変えることはなかった。


「確かにノランは私達の信頼を裏切り、私の大切な友の自由までも奪おうとした。

許し難いことではある。

だが、それはバブリア村の民と未来を思っての事だった。

ならば、この男を責める理由があるか?」


「ですが、流石に全権を任せるという厚遇は……」


ソニアの毅然とした物言いにラパンは既にたじたじになっていた。



「ラパン、私達の教えの一つにもあるではないか。

上位者たる者常に民を憂い、村の繁栄のために腐心しろと

今回の決定はそれを彼の使命に反映させたに過ぎない。」


ラパンはソニアのその言葉に逡巡していた、


何故なら、その教えは彼女が幼かった頃にラパンが耳にタコがができるほど訓戒してきたものだったからだ。


理屈的に言えば、ノランがしようとしたことは上に立つ者として及第点の行いなのだろう。


だが、それは飽くまでも理屈における話であって、個人の感情としては当然許容できる事ではない。


彼らではなく、未遂であったとしても今度はソニアに何か危害を加えるような者が現れた時は、何としてでも危険因子を排除し、その者を永久に糾弾し続けるだろう。



「じぃ、今お前が懸念していることは、私でも十分理解できる。


無論、それは私を思っての事だとも……」



そう言ったソニアの姿はどこか慈愛に満ち溢れていた。

それは、彼女自身の厚情と女性本来の優しさで構成されたオーラのような物を身に纏っているようだった。



「だが、敢えて言わせてもらう。

"それでも、私はノランを蔑ろにすることは出来ないのだ"

むしろ、私は彼に謝罪と感謝をしなくてはならない。」


すると、彼女の紅く光る双眸に少しだけ影が入りこんだ。

また、その機微に気づいたのがコバとラパンそして、ノランだけであった。


「皆も気づいているが、今まで私は村の長とは名ばかりの振る舞いをしてきた。

実の無い事ばかりをして、無為に民を付き合わせてきたのだ。

だからこそ、惰性のように続く私の無駄な施策を改善する為にノランは決起をしてくれたのだろう。」


「いえ、ソニア様決してそのような事はございません。


全ては我々の不徳の致すところであり……」


先程まで、不機嫌そうな表情を浮かべていたカインが自身を卑下するソニアを必死で慰めようしとしていた。


「カイン、よいのだ。

私の思慮と行動力が不足していたのは確かなのだから。」


そして、ソニアはノランを正視し右胸に手を当てた。


「ノラン、すまなかった。

それと、私の目を覚ましてくれてありがとう……」


真摯な態度でそう伝えた彼女の目には先程のような影は残っておらず、真紅のルビーのように絢爛と輝いていた。


そして、ノランはただ黙っていた。

先の熱弁が嘘であるかのように静謐たる態度であった。


「ノラン、私は皆のために変わろう。

このバブリア村と民をしっかりと牽引しているけように。」



「はい」


彼女の決意にノランは静かにそれでいて、明瞭たる返事で応じた。


「しかし、私は先代の父のようにそれほど強い人間ではない。

時には間違えることもあるかもしれない。」


弱気な言葉だが、それは迷いからくるものではない。


「だから、じい。

私には一人でも欠けてはならないのだ。

そして、現状を打破するには不足を各々の力で埋め合わせるだけではダメだ。

むしろ、余剰が生まれほどにしなければならない。

その為にもお前はもちろん、各村方そして、ノランからも最大限の協力を頼みたいのだ。」



それは自分の能力の範囲を理解出来ていたからこその前提だった。



「非常に情けない事を言う私だが、これが最後の私の我儘だ。

どうか、私と共に歩いてはくれないか?」



「甘いです!」


そして、彼は深いため息を吐いた。



「ソニア様は本当に甘いです。

それ故に私がどれだけ苦労しているか、貴方様はお分かり頂けているのでしょうか?」


今のソニアには痛烈な諫言だったが、決してそれはラパン自身の怒りや失望から成るものでは無い。



「ですが、これが最後だと仰っていますので、仕方なく今回だけはソニア様に微力ながらお手を貸させて頂きます。」


そう、彼の言葉は結局、建前なのだ。

それを知ってか知らずかソニアは微笑した。



「ソニア様。

老廃ですが、私からもどうか貴方様のお力に添えて頂きたいと存じます。

私も2度と無知故に民を軽視したくはないのです。」


それは親と現在のしきたりに不満を抱いていた子供達を思いやり、解決に至れなかったコバには当然の重みのある言葉だった。


そして、その思いはコバだけでなく隣に座る女カノンも同じであった。


「カイン、アンタはどう思っているんだい?」


ソニアに対する返答に迷いを見せていたカインにコバは改めてそれを要求した。


「いえ、私は村長様のご意向に従うのみです。」



「そうか、みなありがう。」


そう感謝を述べた彼女の表情は実に朗らかであった。


「そして、ノラン。

アンタはどうするんだい」


コバは横目にノランへと質問を持ちかけた。


「謹んでご助力させて頂きます」


その承諾を最後に今回の事件の最終的な処理は終結したのだった……







「それでソニア様。

マスディオ山の開発についてはいかがなされますか?

マスディオ山は私達にとって神山であります。

それ故に彼の山には村の者でも不可侵が村の掟ですが……」


そのか細い声音はカノンの開発に対する不安を表面化させたように感じられた。


「掟に縛られていては私達は前進することは出来ない。

それはノランが教えてくれたことだ。

だから、従来までの古いしきたりを一新して、村の開発を滞りなく進められる条例を作りたいと思う。」


「何と、それは真ですか?ソニア様」


「カイン、お前にも多大な苦労と不安を掛けることになる。

それでも協力を頼みたいのだ。

どうか、聞いてはくれぬか?」


「分かりました。」


先はソニアの願いに応じたものの、カインには未だに迷いがあるようだった。


「ありがとう。」


そして、急ピッチで本格的な改革が行われたのだ……








数日後、ソニアが各村方を介してバブリア村の人々をあの建造物の前に集めているらしい。

サシャもそこに行くというので、俺も彼女について行くことにした。


すると、珍しく湯奈さんが「私も行く」と言い、俺達に同行することになった。


俺達と言うよりも、正確にはサシャのためだけに追行している。


その理由は「甲斐性無しのアンタではまた、サシャを悲しませるに違いない」と言うことらしい。


昨日の一件から彼女の俺に対する信用はガタ落ちだ。

まぁ、あの覗き以来信用もへったくれも無いのだが……


しかし、悲観することは無い。


何故なら彼女が以前よりも俺に話しかけてくれている気がするのだ。


(主に罵詈雑言だけど……)



それにしても、湯奈さんとサシャはやけに仲が良かった。


それは昨日までは見られない光景だった。


いつも仏頂面で、京介さんの話によると人当たりが悪い子になってしまったと言うが、彼女達の和気藹々とした姿を見ると、どうにもそれを疑ってしまう。


本当は人好きのする子なのではないかと思い、彼女に京介さんの事について触れてみようとしたが、凄く冷ややかな目で蔑視され、その後顔すら合わせてくれなかった。


偏見や先入観で人を判断するのと、京介さんの事について触れるのはNGらしい。


しかし、それだったら何故彼女は京介さんと行動を共にしているのか謎である。


思春期に見られる父と娘の不干渉的確執だろうか。


(そっとしておいておこう)


そんな事を考えていると、鮮やかな赤色の髪の女性が岩でできた壇上に上がった。


(ソニアだ。)


相変わらず、年とは思えないほど大人びた妖艶な姿をしている。




「皆、今日は急に集まってもらい申し訳ない。

同時に皆の忠誠に感謝を示したい。」


彼女の張りのある澄み切った声は後ろにいる俺達にもしっかりと届いていた。


「今日、集まってもらったのは他でもない。

それは村の現状について話したいからだ。」


すると、気のせいか人々の様子が真剣そのものになったような気がした。


恐らく、アレのことだと思う。



「目下、私達は深刻な衰退の危機に陥っている!

私達の暮しに計り知れない革新を齎した甑や鋳造技術。

それらはカランと呼ばれるこの地に一人で訪れた放浪者の遺産である事は皆も知っていると思う。

しかし、それは事実ではない」



すると、村人たちが異様に騒ぎ始めた。


「今まで私達は皆を騙してきた。

本当はカランはただの放浪者ではなく、巫女と呼ばれる女が意図的にこちらへ呼んだ異世界の人間。

つまりは異邦者なのだ。

そして、その巫女はこのバブリア村に永住し、現在もその子孫がこの地で我々共に暮らしている。

個人の為に正体は明かせないが、これらは事実なのだ。」


「そして、それを皆に伝えることなく私達は今日まで秘匿してきた。

その事で謝罪がしたかったのだ。

本当にすまなかった……」


心臓に手を当てて、そう言った彼女の声は震えていた。


気がつくと、先程までの騒がしさが一変して静寂になっていた。


すると、群衆の中から誰かの野太い声が上がった。


「そんな辛気臭い顔すんなよ村長さん!

そんな事を聞かされて驚いてはいるが、別に怒ったり、非難したりはしねぇよ!

それは皆も一緒だ。

だから村長さんよ、そんな情けない態度をとっていないで、もっとシャキッとしな!」


「何言ってんだい!

碌に子供たちの面倒すら見ないアンタが良くもそんなこと言えるね。

このバカ亭主!」


「痛!!何すんだよ母ちゃん。」


「私はアンタの母ちゃんでも無ければ飯炊きババァでも無いよ!

たく、父親としての自覚を持ちなさいよ!」


すると、静まり返っていた村人達が一斉に笑いだした。


腹を抱えて笑う者、またそれを囃し立てる者もいた。


「こんなクソ親父だけど、言ってることは間違っていないよ。

村長さん、アンタはもっと自信を持ちなさいな。

たとえ失敗しても、これでもアタシ達にはそれを受け止められる力がちゃんとあるんだから。

だから、私達をもっと頼りなよ?」


すると、ソニアは目元に宝石のような輝きを持つ雫を一滴、また一滴零し始めた。


もちろん、それはルビーではなくダイヤモンドのような光輝を放つ一滴だった。


やがて、彼女は滂沱の如くその金剛石を流し始めた。


それを後ろで見ていた俺は彼女の壮絶な人生が手に取るようにして分かった。


幼くして無理難題を課され、それを思案し、その策を毎度重ねる様にして提案してきた彼女にとっては不安でならなかったのだろう。


これは本当に村のためになっているのか、失策ではないのかと


それを裏付けるのが彼女のあの慟哭だ。


こうして、村長として一番憂慮してきた民に認められ、自分は大切に思われていると実感したのだ。


ならば、一気に感情がこみ上げ、それが決壊してしまうのも必然だろう。




彼女の気が済むまで、俺はその姿を見守り続けていた。






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