ホタル
ホタル、ホタル
見たことないけど言ってみる
ホタル、ホタル
見ることあるのか分からないけど
綺麗な水辺に棲みつくホタル
日が没し月が光る頃
この小さな虫もまた光を灯す
電球では出せない淡く仄かな
それでいてどこか真っ直ぐで
力に満ちた光を闇に宿す
らしい
闇夜を舞い描く放物線
淡い残像は闇の中に溶け
同じ幾つもの光が空中を旋回する
まるで何かを求めるように
失ったものを取り戻すように
ホタルは何かに向かって飛んでいる
らしい
人々は言う
ホタルは自分の原風景だと
自分の環境がどれほど変わっても
ホタルを見ると昔を思い出している
らしい
それじゃあ僕はどうなんだろう
僕の原風景って何だろう
僕の昔の記憶を閉じ込めて
いつまでも変わらずに在り続ける
そういうものって何なのだろう
そこにホタルは居るのだろうか
画面の中の世界で僕は
何かある度に指を動かして
世界を丸ごと見ているような
全て知っているようなことを抜かして
一体何ができるというんだろう
そこから何を得るというんだろう
「速度は速く
文は短く
お金は多く
いつも忙しく
未来のために今できることを!
世界をもっと豊かにしよう!」
人間たちがパレードしている
プラカードを掲げ 止まることもなく
同じ目の人間が 同じような文言を
同じような口調で唱え歩いている
その連なりは大きな流れとなり
更に多くの人間を取り込んでいく
あっ、危ない そっちは崖だ
だが人間は誰一人それに気づかない
よく見るとその目はどれも虚ろだった
疲れ切って足を引き摺りながらも
人間は休まず パレードを続けていた
その崖は終わりが分からないほど深い崖だった
私たちはいつも震えている
なぜならとても弱いからである
人間になんか勝てないからである
人間が怖いからである
それでも人間は今日もどこかで
人間に生まれた誇りを胸に抱き
その信念を貫き 命をすり減らし
懸命に叫びながら歩いている
らしい