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indexFの惨劇  作者: シケモク
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お母さん

わたしは、ずっと暗いところにいました。


暗くて、寒くて、重たい場所にいました。


お腹が空いて泣いていると、『お母さん』はいっぱいわたしを叩いてきました。頭も、お腹も、足も、いっぱいいっぱい叩かれました。


叩かれるのは最初はとても痛かったですが、いっぱいその日が続くと、いつの間にか痛いのもお腹が空いたのも分からなくなって、わたしは、ずっと目をつむっていることにしました。


ずっと横になったまま目をつむっていると『お母さん』は足の先で、ツンツンとわたしのおでこを突きながら「おい、しんだのか?」と言っていました。それでも、わたしは目をつむっていました。


いつの間にか、眠っていたのだと思います。


次に目を覚ました時には、知らない人がいっぱいいました。


いえ、わたしにとっては『お母さん』以外はみんな知らない人です。


その人たちは、わたしをどこかに連れて行こうとしました。「どこに行くの?」と聞きたかったですが、喉が痛くて声が出ません。「もう大丈夫よ、もう大丈夫よ」と言いながら、その人たちはわたしをおんぶしてお家を出ていきました。


『お母さん』はどこにもいませんでした。


連れて行かれたのは『施設』という場所で、お家よりもとても広いところでした。わたしより少し大きいくらいの子がいっぱいいました。そこでご飯を食べたり、眠ったり、お喋りをする練習をしました。


わたしは『お母さん』の事を聞きましたが、施設の人たちは「あの人はあなたのお母さんなんかじゃない」「あの人はとても悪い人なの」と言っていました。


『お母さん』は『お母さん』でしょ。と思いましたが、どう伝えたら良いか分からずわたしはそのまま黙ってしまいました。


しばらくして、施設の人から「おともだちを作りましょう」と言われて『幼稚園』というところに連れて行かれました。


お日さまが上っている間、わたしは幼稚園にいるようになりました。


「おともだち」のみんなはとても元気で、かけっこをしたり、かくれんぼをしたりしていましたが、わたしはずっとひとりで絵本を読んでいました。


お昼の時間はみんなでお弁当を食べます。


みんなのお弁当は『お母さん』が作ってくれたものです。わたしのお弁当は『施設の人』が作ってくれたものです。


みんなの『お母さん』はとてもやさしい人です。夕方にお迎えにくると、ナデナデしたり、抱っこしたりしているのをわたしは見ています。


わたしの『お母さん』はとても悪い人です。わたしの事を叩いたり、けったりしていたのをわたしは覚えています。


みんなはいつも、『元気な良い子』と言われています。だから『お母さん』もやさしいんです。


わたしはそうじゃありません、いつもひとりで絵本を読んでます。喋らないで、ジッとしています。


だからわたしの『お母さん』は悪い人なんです。


だからわたしは、きっと『悪い子』なんです。




お絵かきの時間になると、みんなは『家族』の絵を描きます。お日さまと、お家と、家族の絵です。わたしはいつも、寝ているわたしと背中を向けている『お母さん』の絵を描きます。


わたしは勇気を出して、おともだちに「家族ってなあに?」と聞きました。みんなは少し不思議そうな顔をして「大好きな人だよ」と答えます。わたしにはよくわかりません。


先生にも聞きました。先生は「ずっと一緒にいる、とても大切な人だよ」と教えてくれました。


「じゃあお母さんも家族なの?」と聞くと「そうだよ」と言っていました。


でも、わたしの『お母さん』はもういなくなってしまいました。


わたしには『家族』はいません。




ある日、絵本を読んでいると、「いっしょに遊ぼう」とおともだちに声をかけられました。わたしが困った顔をしていると、おともだちはわたしの手を引っ張ってお外に連れて行きました。


いつもひとりで絵本を読んでるから、遊んであげてね。と先生がおともだちに言っているのを、わたしは知っています。わたしはべつにひとりでも平気なのに、おともだちはグングンわたしの手を引っ張っていきます。


おともだちは4人いました。おとこの子もおんなの子もいました。


おとこの子が、オニごっこををしようと言いましたが、わたしはかけっこが苦手です。


おんなの子が、「じゃあ“おままごと”にしましょう」と言いました。


わたしは“おままごと”がなんなのかよく知りません。おとこの子たちはイヤそうな顔をしていましたが、結局それをすることになりました。


“おままごと”はみんなで『家族』になることでした。


「じゃあ、キョウコちゃんがお母さんね」と言って、アケミちゃんがわたしの人差し指にクレヨンでマークをつけてくれました。親指にマークをつけたのは、『お父さん』のオウスケくんです。


わたしには『お父さん』がはじめからいません。でも、『お母さん』と『お父さん』が仲良しなのは絵本を読んで知っています。


オウスケくんは「仲良しのあかしだよ」と言って、わたしの左手の薬指に輪っかをはめてくれました。お外に落ちていたのを偶然拾ったものでしたが、わたしはとてもうれしかったです。オウスケくんの顔も少し赤くなっていました。


アケミちゃんもコウちゃんもリョウヘイくんも、それぞれの指にマークをつけます。


わたしに『家族』ができました。


わたしは『悪い子』ですが、これからはわたしがみんなの『お母さん』です。


わたしは、これからもみんなが『良い子』でいる事を約束しました。




私はあなたたちのお母さんだから。


どんなに離れ離れになっても、どんなに時が流れても


あなたたちは私の大切な「家族」




最後まで読んでいただきありがとうございました。感想など頂戴できたら大変嬉しいです。

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