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あかちゃん
グチャ
「本当に悪い子」
グチャ
肉に突き立てる刃の音が、わずか6畳ばかりの部屋に響き渡る。
「…本当に悪い子ね」
長らくカーテンが閉め切ってあっただろうその部屋は、纏わりつくような湿気と、鼻を突くような酸えた匂いが充満している。
グチャ
「どうして、こんな子に育ってしまったのかしら」
グチャ
馬乗りになり、何度も刃を振り下ろす度に、跳ね上がるマットレスから埃が舞う。
「いけないのは、この耳かしら…」
…ミチ…ミチ…ミチ…
左耳の付け根に刃をあて、ゆっくりと削ぎ落としていく。手入れのされていない頭髪と、既に渇きはじめた鮮血が刃先に絡みつく。
ブチン
だらりと垂れ下がった耳を、耳たぶのあたりで力まかせに引きちぎる。
「どうして良い子にしていられないの」
原型を留めない、グチャグチャになった耳を無造作に床へ投げ捨てる。さらに彼女はただの肉塊となった“それ”の右手を掴み、指にギリギリと刃をあてる。
「お母さんと約束したのに」
…ギリ…ギリ
あっさりと切り落とされた指を上着のポケットにしまい、彼女は穏やかな笑みを浮かべながら“それ”に言った。
「…さようなら、私のあかちゃん」