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8話 魔女と僕

僕らは前泊予定の村まで到着した。

ここは魔女が拠点としている廃城と目と鼻の先だ。

先行している部隊からの情報では現在もアリスは廃城にいるという。

予定通り戦いはおこなわれるという事だ。


僕は見張り役を命じられ、アリスが拠点としている廃城とは逆側にソルテさんと2人で向かった。

いつもは誰と歩いても歩幅を合わせてくれるソルテさんも、今日はいつもよりペースが早い気がする。

「いよいよだね」

「そうですね」

「明日で全てが分かるはずだ」

ソルテさんは自分に言い聞かすように言う。

僕は頷きつつも、不安の割合の方が圧倒的に高い。

「ソルテさんは、明日で全てが終わると思っていますか?」

「うん、終わって欲しいなとは思っているよ。そろそろ疲れてきたからね」

「そうですね。僕らだけでなく、国が疲れて切っていると思います」


日付が変わる頃まで見張り番の仕事は続いたが、何も起きなかった。

ここまでの移動の中でも、奇襲をかけられる可能性が高い場所はいくつもあったが、一つも起きなかった。

奇襲をかける余裕すらないのか、もしくは籠城戦に絶対の自信を持っているのか、あるいは勝ち負けとは別の所に意図があるのかもしれない。

交代の時間がきて、僕らは寝床に向かった。

「今回はどうなるかな」

「何か不安要素があるのですか?」

独り言だったのかもしれないが、僕は反応せざるを得なかった。

「不安要素は多いだろう」

「まあ分からないものを分かる為に僕らは向かっているんですからね」

「珍しく良い表現だな」

「僕は腹をくくりました。どんな結果になっても真実の一端でいいから知りたいです」

「うん。明日は頑張ろう」

「はい」


僕らは、再び足を進める。

僕もソルテさんの気持ちは良く分かる。

この先に求めていた物、いや真実すら何もない気がする。

魔女という存在なんて結局は何も分からない気がしてきた。

分かる人すらいないのかもしれない。

それでも参加した戦いだ、役割もある、国の命運がかかっているのも事実だ。

もう止まれない。

止まれないのなら前に進む事でしか生き残る道はない。

ここで失敗したとしても何かを持ち帰って、前に進むしかない。

気づいたら、僕はソルテさんよりも半歩前を歩いていた。



翌朝、僕らは城に向かった。

主力とはいえない立場だが、後方の部隊に配属され、門が開いた後に攻め込む役割だ。

廃城で門も老朽化している為、簡単に破れるという見込みだった為、それなりに早い段階で役割が回ってきそうだ。

周りを見渡すと多種多様だが、不安に満ちた空気が漂っている。

正規の軍勢が何度も敗れた相手に寄せ集めで挑むという、一般的な常識から考えると無謀な事に挑戦しようとしているのだから当然だ。

魔女狩り部隊の仲間を見ると、ビヤン隊長とフェデルタさんはいつも通りだった。

場数の差か覚悟を決めている様子だ。

ソルテさんは昨日よりも若干興奮している様子だが、覚悟は決めているようで、いつも通りの足取りだった。

ティランさんは、全く落ち着きがなかった。

自信家で経験もある筈なのに、不安が大きいのか僕と同じように周りを見渡してばかりいる。

目が合った際には慌てて逸らすあたり、本当に余裕が無い事が伺える。

ヴェーラは少し俯いているが、周りの歩幅に合わせるように必死になっていて、それどころでは無いのかもしれない。


「どうした?」

一通り見渡していたら、気づかなかったがビヤン隊長が横に来ていた。

「そうですね。どうしても色々考えてしまうので」

「そうだろうな。ティランの奴も普段は大口叩く癖にお前と同じくらい挙動不審になっているよ」

「声が大きいですよ」

ビヤン隊長は笑いながら、背中を叩いてくる。

「大丈夫だ。ここで文句を言えるような肝が据わっている奴なら、あんなに落ち着きがない様子を晒さないからな」

「そういう問題ではないような気がしますが」

「あいつも戻ったら部隊の恥さらしみたいな行動を注意しないとな」

「じゃあ僕もですか?」

少しリラックスできたので、普段通りの軽口を叩けた。

「お前は落ち着きがないが、不安と言うよりも観察しているように見えたぞ」

「そうですか?」

「ああ、落ち着きすぎて気味が悪い」

「まあ、もうここまで来たら、下手に慌てたり、不安に陥るだけ自分の生存率を下げますからね、絶対に生き残って手に入れたい物を手に入れたくなっただけです」

僕はビヤン隊長の眼を見て答える。

「ああ、やっぱりお前は頭が悪くはないな」

「ありがとうございます」

「魔女に会いたいのか?」

「ええ、何としてでも」

「乱戦になったら、俺に着いてこい」

「良いのですか?」

「何か他にも目的はあるんだろう」

「はい」

「ただ時間はあまり作れないぞ、必要ならすぐに首を取るからな」

「分かりました。少しでも足を引っ張らないように頑張ります」

「おう」

再度、背中を2度叩くと元の位置に戻っていた。

隣を歩くフェデルタさんが興味深そうにこちらを一度覗いてきたが、会釈を返すと前を向いてしまった。


廃城付近に陣取る。

僕らは予定通り軍勢の中間地点で、第一軍が開門に成功したタイミングで一気に中に攻め込む予定だ。

話として聞いていた通り、門は老朽化しており、簡単に開きそうだ。

不安要素があるとしたら、中に人の気配があまりしない事だ。

城といっても貴族の大きな別荘に近いサイズである為、門を破ればすぐに城内に入れてしまう。それを防ぐ為に門の中には軍勢が構えていると聞いていたが、あまりにも静かだ。

声も聞こえなければ、音すら聞こえない。

何が起きているのか不安が高まる。

それは上層部も同じようだった。

予定の時間が過ぎても、何も伝達がこなく待たされていた。

不安の色はどんどん広がっていき、普段は絶対に取り乱す事がないフェデルタさんですら苛立っているようだ。

1時間が経過したタイミングでようやく軍議が終わったようで、上の人間がそれぞれ戻ってくる。

作戦は結局予定通りにおこなわれるようだ。


前線の部隊が門に向かって大きな槍が放っていく。

バリスタと呼ばれる兵器だが、生で見たのは初めてだった。

次々と放たれ、簡単に門の守りは崩れていった。

それでも相手の軍勢は出てこなかった。

前線の部隊に続き、僕らも攻め込んだ。

予定通りビヤン隊長の後ろについていく。

門の中に入った辺りで人の姿が見えた。

誰もいないかと思っていたが、やはり魔女はここにいるのだろう。


僕らも相手も次々と倒れていく。

相手は死に物狂いというよりも、死ぬ為に向かってくる。

だが様子を見ると、どう考えても一般人の中でも弱い部類の人達にしか見えない。

身体に欠損があったり、高齢であったり、もしくは異国の血が混じっているような容姿だった。

確かに数は多いが、死に物狂いで挑もうが、この国の軍隊はあの程度の相手に負けてしまうものかと疑問を抱いてしまう。

その証拠にビヤン隊長は次々と向かってくる相手を切り伏せ、前に進んでいく。

僕ですら、前を進むビヤン隊長のおかげもあってだが、簡単には切り伏せられる事はない。

城内に入っても出てくるが、同じような人員構成だった。




久しぶりの更新。

リハビリ感覚なので、少し短めに終わらせてみました。

やっぱり書き始めたものは終わらせたいなという欲求が出てきたので、書いてみました。


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