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5話 僕ら②

そして正式入隊の日がやってきた。

初日は見回り業務を2人1組でおこなわれた。

僕は戦力面としてはやはり当てにされていないのか、隊長であるビヤンさんと組むことになった。

間近で改めて見ると迫力があった。

体つきも自分とは違い、鍛えられている事が一目でわかる。

僕がこの人に襲われたら、1分と持たない事は分かる。


2人で見回りに出る。

これに関しては非常に幸運だった。

そして調べた内容や話を聞くにこの人はアリスを連れてきた人であり、アリスが魔女として処刑される場にも立ち会ったと聞いている。

アリスについて間違いなく一番良く知っている人だ。

だからこそ、すぐに聞くのでなく、人柄を理解したいと考えていた所だった。

基本的にはビヤンさんが前を歩き、僕が着いていくという形式だった。

僕は不純な目的の為とはいえ、給金は出るし、仕事だという事もあり真面目にこなした。

僕はきょろきょろと周りを気にしながら歩いた。

異変に気付くのは僕には難しいかもしれないが、素人ならではの気づきもあるかもしれないと考え、できる事を全力でこなした。

そんな僕の姿をみたからなのか、ビヤンさんは少し笑っている。

「どうした?きょろきょろ見ても何か見つかったか?」

「いえ、ただ歩いているだけじゃ、僕は何も気づけないかなと思いまして、せめて視覚情報くらいは人より入れておこうかなと思いまして」

「面白い奴だな、まあ好きにやったらいい。見回りは大事な仕事だけどやり方は色々ある。他の人と組んだときにやり方を見て合うやり方を見つけていきな」

「はい、ありがとうございます」

ビヤンさんは僕の事を気に入ってくれたのか、仕事の事は色々教えてくれた。

見回りの際の注意点や時間配分などを分かりやすく説明してもらいながら予定よりもゆっくりと見回りを終えた。

その後は書類の整理がメインで、予想をしていた内容とは大きく違う1日だった。

しかし、本来の目的から考えると大きな前進をした。

何故なら本日の仕事は歴代の魔女として処刑された人間の記録整理だったから。

国としてもアリスへの対策か新たな魔女が生まれる事を防ぐ為、もしくは両方なのかもしれないが、過去を見直す事から始めるようだ。

資料を読んで僕の率直な感想だが、魔女として処刑された彼女、彼らは皆、冤罪に思えた。

共通点は社会的弱者、前後に犯罪歴もなく、ただ不満が高まった地域で生活していた弱者達だ。

体が不自由であったり、低い身分の人間が対象だった。

噂通りの内容だったが、噂以上の情報はなかった。

アリスの情報も目新しい物は全くなく、突然変異にしか思えないというのが今日の時点では僕の結論だ。

そして最近のものは無いようで、アリビオのものは無かった。


この1週間は毎日、同じ内容になっている。基本的には2人1組で見回りをしている時以外は過去に魔女とされたもの達の情報を整理していくのが仕事だった。

兵士というからには戦うのが仕事だと思っていたが、鍛錬の時間こそあれ、机に向かっている時間の方が長かった。

その中で1つだけ発見があった。それはアリビオの情報が手に入った。

アリビオは数少ない例外の1人だった。

基本的には魔女は自然災害や飢饉が起きた地域で国が選んで連れていくのが一般的だった。

アリビオは逆に住んでいた地域で住人からの密告で選ばれた魔女だった。

そして密告は意外と多いが、実際に魔女として連れていかれるのは少数だという事が分かった。

条件が厳しく、基本的には魔女と認定される事がないようだ。

何故、アリビオが魔女として認定されたのか、それは身内からの密告というのが大きな理由だと読み取れたが、明確な基準などは調査からは見つからなかった。

あくまでも僕らは支持を受けて魔女を捕まえにいくだけの駒だ。

そこまでの詳細な情報は与える必要はないという事だろう。


それから暫くして初めての魔女の連行任務の日がやってきた。

今回は近隣でアリビオと同じく密告からの連行という事だ。

少なくとも地域集落全体での抵抗が無い事がわかっている為、少数で向かう事になった。

人員はビヤン隊長にソルテさん、そして僕だ。

僕は一番実戦経験が無い事で、今回のチャンスを得た。

簡単な仕事からさせていこうという考えだろう。


僕は緊張のあまり一睡もできなかった。

今回はほぼ確実に戦闘行為に至る可能性はないと聞いてはいるが、武装して出るのは初めてで、万が一はある。

そう考えただけで寝れなかった。

訓練でも周りに差をつけられて、何もできない。

一般人相手でも僕は何が出来るのか不安でしょうがなかった。

しかし、それでも時間は進むし、仕事も進めないといけない。

僕は2人の後をついていく形で進んでいく。

2人とも余計な事は一切口にしないので、僕も自然と黙ってついていく。

村に着くと、すぐに察した村人が案内をしてくれた。

入り口での待機を命じられた。

そしてその指示に少し安堵し、僕は2人の分を含めた馬を紐で繋ぎ、村を見渡した。

非常に小規模な村だ。いや村というよりも集落に近い。

事前に聞いた情報では水難等で故郷を離れざるを得なかった人達が集まって、土地を開拓し作られた新しい村だと聞いたが、まさにその通りだと感じる。

家も真新しく、簡易的な物が多い。

人も皆、警戒しあっているように思える。魔女狩り部隊が来ているとはいえ、人の集まりが無さすぎる。

僕らを見る目は皆、敵意に満ちていると聞いていたが、今回に限り歓迎の意思が強そうに感じる。

それ程、今回の魔女はアリス同様に本物なのかもしれない。少なくともここにいる人達に信じさせる何かはあるのかもしれない。


僕は考え事をしながらも周囲を見張っているとある男が近づいてきている事に気が付いた。

背は少し平均よりも高いが男性にしては華奢で猫背のせいか頼りなさげな印象を与える男性だった。

30歳前後だろうか、僕と同じくらいか若干年上だろう。

足取りが重いながらも、明確に僕に向かって歩いてきている。

「どうかされましたか?」

僕が先手を打って声をかけると男は少し歩みを早め、僕の前まで来た。

「あ、いえ」

何か手に持っている、手紙の束のようだが、文字でびっしり埋まっているようだ。

僕の視線に気づいたのか、男性は意を決して僕へ強い視線を送る。

「私の事を知っていますか?」

出てきた言葉は全くの予想外な言葉だった。

何て答えたら良いか言葉に詰まってしまい、僕は思わず黙ってしまった。

男性も言葉をどう続けたらよいか迷っている様子だ。

「いえ、すみません。失礼ながらお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「私はカブロンと言います」

名前を聞いた瞬間にある男性が思い浮かんだ。

報告書で見た特徴と一致する部分もある。

そして僕に対して向けられた言葉の意味も理解できた。

「アリスの・・・」

旦那様と口にしようかと思ったが、言って良いものか悩み口ごもってしまった。

「そうです。元旦那です」

「現在はこちらにいらっしゃったのですね」

「はい、流石にあんな事が起きてしまっては、私も元の村にはいられませんでした」

「そうなってしまいますよね」

「子ども達も迫害の対象になってしまうので、僕は慌てて村を出ました。そしていくつかの村を渡り歩きましたが、ここに辿り着く事ができました」

「ここでは普通に生活が送れているという事ですか?」

「はい、ここでは私の事を知っている人も少ないですし、何より魔女の影響で追われている人が集まった村でもありますから」

「ああ、それは良かった。あなたが悪いわけではないのに、大変な思いをされたのでしょう」

「いえ、私も妻の異変に気づく事が出来ませんでした。そして何より魔女の隠れ家を結果的に作ってしまった訳ですから」

「それは、今ではアリスを魔女だと完全に認めている訳ですか?」

「あなた達が何を言うのですか」

「これは失礼しました。ただ身内の方は最後まで納得されない方もいらっしゃるので、そして私はあなたの時は同席出来ませんでしたが、報告の中で最後まで旦那様は抵抗されたと記載があったので、もしかしたらと思ってしまいました」

「私も初めは認めたくはなかったです。でも現在の状況で認められないほど子どもではありません。子ども達に何も魔女としての教育がされていなかった事が認められただけでも幸いです」

「それで、今回は私たちにどのような要件で近づかれたのですか?」

そう、悪い記憶にあえて近づくという事は余程大きな用事があるはずだ。

僕は1人の内に見れる物が無いか、焦り要件を進める。

「すみません。今回はこちらをあなたにお渡ししたくて、持ってきました」

「僕にという事でしょうか?失礼ながらあなたとは初対面になりますが、どうして僕にでしょうか」

「いえ、正確に言うと誰でも良かったのですが、あなたは兵隊さんらしくなかったので、一番受け取ってもらえる気がしていたので、あなたが1人になるのを待っていたのです」

手渡された物に目を通すと手紙というよりも日記のようだ。

何枚か簡単に目を通していくと、意図が分かった。これはアリスの日記だ。

「ありがとうございます。悪いようには絶対にしません。私はクラジと言い、まだ入ったばかりですが、必ず有効活用します」

「よろしくお願いします。私では気づけなかった、魔女の秘密がわかるかもしれません。ただ内容が内容なのであなた以外に渡しても処分されてしまう可能性が高いと思って、あなたに託しました。アリスを倒して下さい」

男は一礼し、去っていった。

僕は他の2人の目に入れさす訳にはいかない為、内容を早く確認したい気持ちを抑え、日記をしまった。

その後は周囲を見渡しつつも、2人の戻りを待った。


30分もしない内に2人は戻ってきた。

2人の間には初老の男性の姿が見られた。今回の魔女、いや通報のあった魔女疑惑の男だろう。

「お疲れ様です」

「ああ、特に問題はなかったか?」

「問題ありません」

「そうか、こっちも特に問題はなかった。早く戻ろう」

ビヤン隊長はそういうと帰りの支度を始める。

ソルテさんは男を見張りながらも周囲への警戒も怠っていない。

普段は優し気な雰囲気が強いが、仕事となると流石に長い経験があるようで、顔つきも変わってくる。

僕はソルテさんの分まで急いで帰り自宅を始める。

男は終始無言だ。どうして疑惑にあがったのか、そして抵抗もしないのか僕は気になってしまうが、何も話さないという事は聞いても無駄だろう。

帰りも行き同様に集中し、自分に出来る事をしながら、必死に着いてった。


城に戻るとビヤン隊長とソルテさんは魔女候補を収容している施設に直接向かい、僕はフェデルタさんに任務の完了報告をするように指示を受けたので、直接城に向かった。

戻るとちょうど見回りから帰った所のようで、すぐに姿を見つけた。

ヴェーラさんも一緒にいる。

「終わったのか?」

「お疲れ様です。はい。現在は隊長とソルテさんで収容所に連れて行っています。僕はフェデルタさんへ報告するよう指示を受けていたので、先行して戻らせて頂きました」

「お疲れ。分かった、初めての遠征で疲れただろう。今日はもう家に帰っていいぞ」

「ありがとうございます」

僕は一礼し、3人分の馬を戻すと、武装を解き、片づけて家に向かった。

思っていたよりも疲れているようで、中々足が進まない。

何とか家に戻ると日記を読みたい欲求があったが、それ以上に寝不足や1日気を張っていた事。

そして今日の出来事に対しての疲れが一気に押し寄せて、睡眠をとる事を優先した。

久しぶりに投稿してみました。

PCがまた壊れたりとバタバタしています。

しばらくは時間がたっぷりあるので、色々書いて勉強したいです。

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