4話 僕と魔女
まず僕が向かったのは、アリビオと会っていた食堂だった。
姉はもう働いていないが、出身地くらいは分かる可能性が高いだろう。
まずは姉にあってアリビオの話を聞きたい。
そう考えた僕は姉の行方、そして故郷を探す事にした。
食堂につくが、見知った顔はいなかった。
といっても僕はアリビオと姉のエステラ以外はほとんど話した事がない。
どの人が店長かも分からないが、誰かに話しかけてみれば分かるだろう。
お店に入り、空いた席に腰をかける。
要件だけでは失礼と思い、ついでに軽食を頼むことにした。
ウエイターに注文と合わせてエステラの事を尋ねるが、入ったばかりの子のようで、面識がないようだ。
元気の良い男の子で、店長に確認してきますと、やや急ぎ足で中に戻っていった。
暫くすると注文した飲み物とサラダと一緒に先ほどの男の子が戻ってきた。
「先ほどの件ですが、店長もエステラさんの件は分からないそうです」
「出身地も分からない?」
「名前以外は何も分からないそうです」
「分かった。ありがとう」
ウエイターは申し訳なさそうに頭を下げ、戻っていった。
当てが外れた僕は早々に食事を終えると、店を後にした。
次に向かったのは友人の元だった。
彼ならエステラとよく話をしていた、出身地の話などはしているだろう。
特定まではいかないまでも、ある程度絞れるくらいの情報は手に入る可能性が高い。
友人とは久しぶりに顔を合わす事になる。
エステラが働いていた時は毎日のように一緒にお店に行っていたが、アリビオが捕まえられてからお互いに気まずく顔を合わせてなかった。
いや、一度だけ話をしていた。
志願兵の試験前に考え直すようにわざわざ来てくれた事を思い出した。
僕は煩わしいと思いほとんど相手にしなかった。
危険な事、僕には向かない、アリビオを何とかしたいなら、もっとらしいやり方があると話をされたが、ほとんど聞く耳を持たなかった。
そんな事を思い出したら、少し足が重くなった。
それでも他に手がかりもないし、いつかは顔を合わせていきたい相手という事で何とか足が重くなりながらも、彼の家に向かっていった。
家に着くと、予想以上の成果があった。
ノックをして姿を現したのがエステラだった。
「エステラさん?」
僕は思わず間抜けな第一声を発してしまった。
「クラジさん?お久しぶりです」
「どうも、どうしてここに?」
エステラは少し困った様子で、俯いてしまう。
「あいつは?」
「彼は仕事に行っています」
「ああ、そうか。思いつきで足を運んだけど、今日は仕事か」
「そうですね。彼に何か用が?」
「ああ、実はエステラさんの居場所を知らないかと思って訪ねてきたんですよ」
「私ですか?」
「そう。アリビオの事をもっと知りたくて、一番知っている人を考えたら、エステラさんしかいないと思って」
「アリビオの事ですか?」
「そうです」
再度俯いてしまう。嫌というよりも、何を話をしていいか考えているようだ。
「少し場所をかえませんか?アリビオの事でクラジさんが知りたいことは全部話をします。たぶん長くなると思いますので」
「分かりました」
エステラの後をついて歩いていく。
方向的には郊外に向かっているようだ。
1時間ほど歩き、完全に城下町から出て、人気のない場所にでた。
「ここら辺でいいですか?」
「僕はどこでも大丈夫ですが、そんなに人に聞かれてはまずい話なのですか?」
「そうですね・・・」
「まずは、一番気になる事なのですが、反応からエステラさんはアリビオが魔女だと思っているのですか?」
「私というよりも、私の故郷全体で確信に変わっています。もちろん私も含めてです」
「それはどうして?」
「そうですね。あの子を見てどう思っていましたか?」
僕が少し言葉に詰まっていると彼女はかぶせて言葉を続けた。
「少し変な子だなとは思いませんでしたか?特に眼が少し印象的だとか思いませんでしたか?」
「そうですね。目力のある子かなと思ってはいましたけど」
「あの眼は地元でも有名だったのです。あの眼で見られると断れないとよく言われていました」
少し俯き、言いにくそうにしながらも、何か言葉を発したい様子だった為、僕は黙って待った。
「魔眼なんじゃないかと半分冗談で言われていました。けれどアリスの事件以降はアリビオが魔女だという噂が信じられてきていました」
「それを身内である、あなたまで?」
「正直半分くらいです。信じたくないけど、言われてしまうと信じきれない部分が出てきてしまうという感じです」
「例えばどんな部分が?」
「最初は甘え上手な妹だなと思っていただけなんです。小さい頃から私が頼み辛い事も両親に平気で頼んで、それを両親も応えてしまう姿をよく見ていたので」
食堂での姿を思い出し、少し想像が出来てしまった。
「でも、それは年をとっても変わらない。子どものまま大きくなってしまったのか、自分の我儘って大人になるにつれ出せなくなっているじゃないですか?でもあの子は変わらなかった、それが怖かった」
「僕からみた、アリビオは我儘な印象は無いですけど、まあ少し子どもっぽいとは思いましたが」
「まだ遠慮していたんですよ」
「それは大人になっている証拠じゃないですか?」
「そうなのかもしれませんね」
「閉鎖された空間では役割が変わらない事を望まれる事もあるので、アリビオもあえて我儘に振る舞っていたんじゃないですか?」
エステラは少し考え込んでいる。
そして僕も自分の口から出ている言葉について考えている。
反射的に口から出てしまったが、自分でも話を聞いて不安に思っていた心を埋めるのに一番しっくりくる理由だった。
「そうかもしれないですね。でもあの子の両親も周りの環境も疑ってしまった。私が食堂で働いていたのは、農家として畑が機能しなくなっての出稼ぎというのは本当なのですが、あの子も来ていたのは、ただ居場所がなかったからなのです」
「それは魔女として扱われていたという事ですか?」
「そうです。今回連れていかれたのも誰かが密告したのだと思います」
「それは村の人が?」
「恐らく。アリビオがいる前では皆以前の通りなのですが、姿が見えなくなると悪口、というよりもここが魔女のようだと皆で言い合っている事が多くて・・・」
「そんな状態だから出稼ぎついでに、連れてきたってことですか?」
「そうです。以前は近郊の農村と言っていましたが、実は遠方なんです。以前は食堂の寮に2人で住んでいました」
「オリビオは何故働かなかったのですか?」
「オリビオは別の仕事をしていたようです。朝から出かけて、私が仕事の時間になると戻ってくるようです」
「何をしていたのですか?」
「それが曖昧な答えで、いつも違う事を答えるので、それが不安をよぎっていました。魔女の集会に出ていたんじゃないかと思ってしまい」
なるほど、出稼ぎにくるほど生活が苦しいのに、わざわざ妹が食堂でご飯を食べていた姿を見た時からおかしいとは思っていたが、単純に村に居場所がなかっただけだったのか。
そしてアリビオも何か仕事をしていたという事だ。
「収入はどのくらい稼いでいたのですか?」
「それもよく分からなくて、ただそんなに稼いではいない様子でした。私と同じか少し少ないくらいだと思います」
「僕が調べた範囲では魔女の集会で収入を得ているという話は聞いた事がない。収入を得ていたのなら大丈夫。アリビオは魔女じゃない」
「それは私には今は分からない。でも、村の誰かがアリビオを密告したのは確実です。お店にいる時にあの子は捕まったのですよね?」
そういえば、エステラが居ない時だったなと思いだし、頷く。
「私は村あてに仕送りと一緒に手紙で働いているお店を教えていたんです。そしてそこにアリビオもよく来ているから安心してと伝えてあったので、読んだ両親が密告者に教えたんだと思います」
「なるほど、それもあって今はあのお店にいないのか」
「そうですね。そのせいもあって私は今、仕事が首になってしまい、帰りたくないけど、他に道がないと考えていた時に彼に声をかけてもらって、何とかこちらに留まっていたんです」
「暫くはそこに?」
「そうですね。他に居場所もないので」
「また、何かあったら尋ねても大丈夫?」
「ええ、アリビオ関係の事で進展があったら是非来てください」
「うん、ありがとう。今日、話を聞けたおかげで、自分の考えもはっきりしたよ」
城下町に戻り、エステラと別れた所で家に戻った。
今日の話を聞けた事で僕は確信できた。
やっぱりアリビオが好きだ。
客観的に考えが出来なくなるくらいには好きなのかもしれない。
エステラの話では昔から我儘で、それが大人になっても変わらない。
人を上手く使って自分が楽をしていると思われている。
そしてその関係が自然と思っている人達ですら恐れてしまう眼、僕はあの場では咄嗟に否定したが、身内ですら恐れてしまうからには何かあるのだろう。
それでも庇いたいと思ってしまった。
そこで僕の中では確信してしまった。
後はどう行動に移すかだ。
アリビオが魔女であろうがなかろうが関係ない。
後はその後の生活がどれだけ良い状態で送れるよう配慮するだけだ。
村に戻れないなら、こちらで住めば良い。
僕のことを受け入れてくれなくても構わない、その時は協力くらいはしたい。
その為にはやはり魔女出ない事を証明する必要がある。
僕の考えは魔女である可能性も零ではないと思うが、高くはないという所だ。
やはり魔女でない事を証明するのが一番だ。
客観的に考えれば誰もがアリビオを魔女と呼ばないだろう。
でも身内からの密告が原因だとすれば別だ。
何かあるに違いないと思われてしまう。
そこを否定するのは容易ではない、すぐに思いついた範囲では身内に再度否定させるくらいしか思い浮かばないが難しいだろう。
その要素が僕が聞いた情報だけを元に考えると、魔女という存在が認知され、疑いが疑いを呼び、何か不満のぶつけ所として行われたとしか考えつかない。
それは国がやっている事が、小規模な村社会でも行われたと認めさせる事だ。
それは絶対に不可能な事だ。
魔女といて連れていかれた以上、魔女として認定されてしまう。
幸いなのがアリスのおかげで、魔女裁判は行う余裕がない、また拷問も一時中断し、ただただ隔離されているだけというのが、僕に精神的な余裕を与えてくれる。
それがなければ、すぐにでも行動に移さなければいけなくなってしまう。
色々考えてみたが、やはりアリスに会って、話をするしか魔女という問題の根本には至らないという結論にたどり着いてしまう。
アリスの口から魔女の定義を吐かせ、本物の魔女とは何かを定義づけなければならない。
相変わらずプロット通りにかけない自分があほらしい。
練習になってない感じがします。
まあ楽しいので良いのかな?
話を進めるのって難しいなと思っています。