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3話 僕ら

僕の発言後に中々誰も発言がない。

少し怖くなってきたが、ここから発言を続ける必要が僕にはない。

僕がするべきことは情報を集める事、そして協力者を集める事だ。

正規の軍人である2人は難しいだろう。

そしてティランさんも難しい印象だ。

そうなると、この2人の協力は目的達成の為に必要だ。

最低限、どこまで協力できるか探る必要はある。

そのまま発言を待っていると、口を開いたのはヴェーラさんだった。

「私も同じ目的です。魔女の真実が知りたい」

正直な印象、腹の探り合いだろう。

3人とも目的は同じように見えるが、僕を含めて本音を言っていない。

否定的な意味で真実が知りたいのか、それとも興味本位なのか、それとも肯定的な意味で知りたいのかによって意味合いは変わってくる。

基本的には否定的だと思われるが、僕は別にどちらでも良い。

理想を言えば魔女なんて本当はいない、アリビオも無実で帰ってくるのが理想だ。

しかし、魔女は存在し、アリビオも本当に魔女なら、誰に否定されても僕は着いていきたい。

以前のように手紙でも送れれば本人から話しを聞きたいが、アリス事件以降は外部から完全に遮断されてしまっている。

武力行使で出来ない以上、僕は別の方法で本人と会うしかない。


再度沈黙が続く、これ以上は誰かが踏み込まないと会話が続かない。

正直、ソルテさんがどんどん踏み込んでくるかと思っていたが、司会役に徹するつもりらしい。

やはり僕らの最終試験官なのかもしれない。

だが、リスクを冒してでも進まないといけないだろう。

「僕は知人が魔女として現在捕まっている。そして、たぶん国も僕の事は把握していると思う」

「どうして?」

ヴェーラは純粋に疑問に思ったのか初めて僕に反応してくれた。

「僕の目の前で捕まったんだ。僕も身分照会を受け、関係性なども質問されたからね」

「なるほど」

「だからって訳ではないけど、真実が知りたいんだ」

「それは助けたいって事?」

難しい質問だ。

どう答えたらいいか迷っているが、時間が空いた以上与える印象は同じだろうと考え、正直に口にした。

「そうなるね」

再度、間が空いてしまう。

ソルテさんが全く会話に入ってこないのが、気になってしょうがない。

「私も基本的には同じ。ただし私の知人はもう亡くなっているけど・・・」

「それって、魔女としてってこと?」

「そうね」

「それでも知りたいの?」

「うん、あの娘は魔女だとは今でも思えない。皮肉にも魔女狩り部隊に配属されるからね、同じ境遇の人達に会える。自分の眼で見て、話を聞き、自分なりの結論が出せればそれでいいわ」

「それで何が得られる?」

ヴェーラは目を瞑り少し俯き考えている。

そういえばヴェーラをよく見たのはこれが初めてかもしれない。

最初の印象は特徴がないのが特徴だと思うくらい、印象に残りにくかった。

改めて見ても特徴という特徴はない。

しいて言えば若干長く伸ばした髪がボサボサで、がさつな印象を受けるくらいだ。

顔も若干丸顔ではあるが、特に太っても痩せてもいない。

目も奥二重で大きくも小さくもない。

人に特徴を伝える時に困るタイプだ。

「納得かな」

そんな余計な事をかんがえていたら急に声が届き、僕も顔をあげる。

表情を見ると、自分でも困惑しているようだ。

嘘をつけないのか、それともこの表情も演技なのかは分からないが、個人的には信用できそうな印象だ。

「納得、そう納得したいの」

「納得の為に命をかけるの?」

「それがないと前に進めないの」

沈黙が続いた。

僕もそうだが、ヴェーラも全ては話すつもりはないようだ。

ほぼ初対面のこの場で全て話すような軽率な人間であれば信用出来ないが、これ以上踏み込めないなら、この話題を続ける意味もないだろう。


「僕は今までは金貸の家に生まれて、それだけしかしていないのですが、お二人は今まではどういった事をされてきたのですか?」

僕はこれ以上目的の話はしないという意味も含めて話題をかえた。

「俺は若い頃から傭兵稼業しかしていない。まあ真っ当な護衛業から今回みたいな汚れ仕事まで幅広くやってきたよ」

「私はクラジさんと同じように経験はないです。今までは辺境の村で家業の農業しかやってきたから、クラジさんよりかは力はあるかもしれないですけど」

「あれ?いきなり酷くないですか?」

「つい雰囲気から全く戦いとか競争とは無縁そうな印象でしたので、すみません」

「確かにクラジ君はいかにも向いていなそうだな」

「2人とも酷いですよ」

その後は少し打ち解けられたのか、自分達が普段どんな生活を送っていたのか、文化の違いなどを語り合った。

2人とも思っていたよりかは、僕と合うタイプなのかもしれない。

全く別の世界を生きてきた人達だが、その中でも根本は一緒だ。

必死に生きてきた。

ソルテさんは、奥さんに少しでもいい暮らしをさせてあげる為にも、若くして傭兵業に身を置き、必死に戦果をあげて独立する。

自分の傭兵団をつくりあげた経験がある。

上手くいくことよりも失敗が多かったと言っていたが、それでも何とかなってきたと笑っていた。

話の節々から奥さんの事が本当に好きなんだろうなというのが伝わってくる。

話をしてみて嘘をつけないタイプなのだろうなと思ってしまう。

今思うと始めに黙っていたのは、緊張していたのと、年長者として厳格な空気を作ろうと気張っていたのかもしれない。

素は陽気で冗談の大好きで、何より気の優しい人柄が隠せない。

こんな人が傭兵業をやっているというのは僕以上に似合わないという印象だ。

そして何より衝撃的だったのが、僕と境遇が似ているという部分だ。

奥さんが魔女として連れていかれたという事だった。

奥さんの無実を証明する為に、魔女とは何であるかを証明する為に、今回志願したのだと言う。

今回の志願兵はもしかしたら、近い境遇の方ばかりなのかもしれない。

ヴェーラも友人が魔女にならなければ、一生農家として誇りを持って生きていただろう。

話をしてみると大人しそうで、無個性そうだなという当初の印象は全く違い、意外と気が強く、男性相手でも物怖じしないタイプだった。

故人の為に魔女になんて囚われず生きれば良いのにと思ってしまうが、譲れない何かがあるのだろう。


食事を兼ねた懇親会は予想よりも長くなったが終わり、外に出ると完全に日が落ちていた。

ソルテさんは近くな事と店主と知り合いという事で店舗で別れ、ヴェーラと僕は店を後にした。

暫く歩くと別れ道に差し掛かる。

ヴェーラは立ち止まる。

明日は予定もない事と相手が女性という事もあり僕は送っていこうと思っていたが、立ち止まるという事は別れの挨拶をするつもりなのかもしれない。

「どうしたの?送っていくよ」

先手をとらせないように、僕は慌てて口にした。

ヴェーラにも慌てていたのが伝わってしまったのか、少し笑っている。

「大丈夫ですよ。暗い道にも慣れていますし、距離もないから。このくらいは1人で帰れないと見張りの仕事もこなせなくなっちゃいます」

正論で返されると意見を通しにくい。

ただ、こんなに暗い道を1人で帰してしまうのが、何となく嫌だった。

「それはそれ、目的の為にも危険を回避する可能性を高めるのは悪い話じゃないと思うけど」

正論には正論で勝負するしかない。

論点をずらして、錯覚させて納得してもらうしかない。

「うーん」

ヴェーラは意外にも悩んでくれた。

「あくまでも目的は魔女の正体でしょう?見張りの仕事をする為でも、魔女狩りをする為でもないでしょう?」

「そう言われたら仕方がない、じゃあ送ってもらうわ」

笑って、歩き出した。

距離もないからと言っていた通り、30分程歩いたら、小さな灯りが見えた。

城下町からほど近い農村と聞いていたが、村というには規模が大きい。

ほとんど城下町から出ない僕は、以前一度だけ訪れたアリスの出身である農村を思い浮かべていたので、驚いてしまった。

「どうしたの?」

「いや、お恥ずかしい話、世間知らずなもので、農村って、一箇所しか知らなくて、イメージより遥かに大きくて驚いていた」

「そんな顔してた。何か嘘をつけなさそうな人ですよね」

「そうですか?」

「そんな印象です。ここで大丈夫です。今日はありがとうございます」

ヴェーラはそう言うと、頭を下げ、小走りに去っていった。

去っていく姿を見送り、ふと気づく。

そういえばアリビオも農村出身だということを、そして自分はそれが何処かも知らない事に気づいた。

本当に僕はアリビオが好きなのだろうか?住んでいる場所にすら興味を持たず、それどころか知っている事の方が少ない。

少し優しくされた事で喜んで錯覚していただけなのではないか?

もし、本気ならば、少なくとも調べていただろう。

僕は職業柄人を調べる事には一般の人よりかは長けている。

出生や思想も無実に繋がる武器になるかもしれない。

僕は常に情報を武器に戦っていたはずだ。

そんな僕が情報を収集しないなんて、おかしい。

目の前で知り合いが攫われるような形でいなくなり、吊り橋効果で、魅力を感じているだけなのかもしれない。

確かに毎日に退屈していた。

比較的裕福な家に生まれ、不自由なく過ごしてきた。

刺激が欲しいと常々思っていた。

周りにおかしくなったと思われない、いや思われても理由があり、同情される立場を利用して刺激に飛び込み、知的好奇心を満たしたいだけなのかもしれない。

アリスが現れた時に僕は確かに興奮した。

この先どうなるのか不安に思いつつ、どこかワクワクしていた。

僕は本当はアリビオでなく、魔女という存在、そしてアリスに恋しているのかもしれない。

そんな事を考えながら、僕は自分の家に向かって歩みを進めた。


翌日、僕はまず後悔した。

どうしてもネガティブな人間なので、ついつい悪い方に考えてしまう。

特に自分や自分に向けられた感情に関しては悪い方向に考える習慣が根付いてしまっている。

今回は人に向けて発信しなかっただけ良かったが、この問題に関しては自分で整理しないかぎり何度でもよぎってしまう。幸い入隊まで今日を入れて4日ある。

自分にできる事をして覚悟を持たないと欲しいものは絶対に手に入らない。

2人に触発された部分もあるが、自分にとっての根幹をこれを機会にはっきりしようと決めた。

まずはアリビオについての感情を整理する為に、家を出て真っすぐ歩みを進めた。


投稿後以外ではほとんどアクセスのない作品ですが、昨日今日で合わせて5つアクセスありがとうございます。

もしかしたら前回の後書きでお盆中にと書いたので、様子を見に来てくれた人もいたのかなと妄想してしまいました。

もしそんな奇特な方がいたら、何よりの幸せです。

次は月内には挙げる予定です。

書いてはいるのですが、お盆中に書き換えたくなって現在修正中です。

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