2話 僕②
意気込んで志願してみたものの、実は武芸の経験は全く無かった。
それでも採用してもらえたのは、余程頭数が必要だったのだろう。
採用後の説明会にはそれなりの人数が集まっていた。
それぞれ目的はあるだろう。明らかに身分や出身も様々な人間が集まっている。
僕のような戦と無縁そうな者から、明らかに傭兵家業のもの、犯罪者ではないかと思ってしまうものまで幅広く揃っている。
僕は思わず周りを見渡していると、いかにも前科のありそうな風貌の男と目が合ってしまった。
慌てて目をそらすが、彼はどんどん僕に近づいてきた。
少し、距離を置こうとすると、声をかけられた。
「君も志願者かい?」
「はい」
「俺も同じだ、縁があったらよろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
話をしてみると意外と普通な印象を受けた。
間近で見ると前科があるというよりも、戦場をいくつも経験しているのではないかという印象だ。
やはり自分は場違いなのかもしれないと改めて思ってしまった。
説明会は非常にシンプルな物だった。
正規の隊員が選ばれた人間の名前を呼んで、自分の配属される部隊と隊長を把握するだけのものだった。
次々と名前が呼ばれていく、自分の上官が誰になるのか不安に思いながらも、待ち続けた。
元々魔女狩り部隊の人間の評判は最悪に近い物だった。
国の兵士の中でも、酷く高圧的で独善的な人間の集まりという評判がほとんどだった。
実際に間近で見ると評判も中々信頼できるものだと感じていた。
僕は仕事柄、人を見る事に慣れていて、人柄などの判断には普通の人よりは長けていると自負している。
前に立っている人達は多くの人達は選民意識が高く、人を見下している印象を強く受ける。
次々と人が減っていく中、自分の名前が呼ばれない事に気づき、少し焦りを覚えた。
採用されたという話事態が間違えだったのかもしれないと思っていた所で、自分を含めて4人を除いて、全員が自分の配属先に呼ばれ消えていってしまった。
周りを見ると、先ほど話しかけてくれた男もいた。
それ以外の人物を見ると、戦場慣れしていそうだが、どこか嫌味な印象を受ける男と、僕と同様に戦場とは無縁そうな女性の2人しかいなかった。
実際に配属先が与えられなかったとしか思えないと思っていた所で、2人の男が歩いてきた。
前を歩く男は身長も横幅もそれなりにある、いかにも実践を潜り抜けてきた印象の男、もう1人は平均的な身長ながら、やはり体に厚みがあり、鍛えられているのがわかる男だ。
一目でわかったが、正規の兵士だろう。
「あー、困惑してるよな」
前を歩く男が少しにやつきながらさらに距離を詰めてきた。
困惑している僕たち4人の前で2人は立ち止った。
「今回は俺達の部隊に入ってもらう」
「たちと言う事は他にもいるのですか?」
僕は思わず聞いてしまった。
言葉を素直に受け取ると、一番正規な部隊に配属されると捉えてしまったからだ。
きっとこの2人以外にも人がいて、僕らはそこに配属されるのかと思ってしまった。
メンバーを見てもあまり役にたたなそうなメンバーだ。
弾除けくらいの役割に思われているのだろう。
そう考えるのが自然だろう。
「いや、ここにいるメンバーが全員だ」
「え?」
「戸惑っているようだが、ここにいる人間が全てだ」
僕以外も皆戸惑っているようだが、このままでは話しが進まないと考え、僕は思わず挙手してしまった。
「どうぞ」
「それはどういう事ですか?6人1組で何ができるとも思えませんが?」
「そんな事はない。俺たちの部隊は正式な隊員がいた頃から人数編成はさほど変わっていない。元々5人前後の部隊だ」
その言葉で僕は気づいてしまった。他の3人を思わず見るが、まだ納得できていない様子だ。
それはそうだ。
今回の募集は魔女の討伐兵のはずだ。
けれど僕の予想が当たっていれば間違いなく今回僕が配属された部隊は魔女狩りの実働部隊だ。
そうでなければこの面子、この人数。
なにより僕が採用された理由がようやく納得がいった。
「魔女狩りの部隊ですか?」
「そうだ、俺はビヤン。アリスを連れてきて魔女にした部隊の1人だ。ここにいるフェデルタも同じ部隊にいた」
フェデルタと紹介された男は少し前にでて会釈をした。
「アリスの討伐も大事だが、国は第2のアリスを出さない事も重視している。魔女がいつ次に生まれ、国に歯向かうか分からない、だからこそ俺たちにも戦力が増強される事になった」
ビヤンと名乗る男は少し言いだし辛いのか、話を一度切り、一息ついた。
「通常の討伐隊よりもこちらの方が適性があるものを集めてもらった。それが君たちだ。どうするかは任せる。報酬は変わらないが、仕事はより複雑だ。他の志願兵同様に1日猶予があるから、ゆっくり考えてくれ」
その後は主な仕事について話をされた。
基本的には警備の仕事がメインなようだ。
国の最もエリートな警備隊とは違い、都市外がメインだが、それ程危険性はない。
求められているのは、生き残る能力。何か危険があったら、対処よりも報告する事が最優先される。
そういう意味では僕以外のメンバー、特に傭兵歴の長そうな2人がいたので、そこを期待されているのかもしれない。
もう1つの任務が魔女の報告が上がった際に、連れてくる事、これが最大の仕事だが、危険度はそれ程高くない。
以前は多少の抵抗があったと聞くが、アリスの脅威が生まれた今では、進んで協力してくれる人の方が多くなってきているようだ。
僕が期待されているのは、こちらなのかもしれない。
全ての話が終わり、今日は一度家に帰ることになった。
帰り道を歩いていると、後ろから足音が聞こえた。
「よう、同じ所で働けそうだな」
説明会の前に話しかけてきた男だった。
「そうですね。改めましてクラジです」
「そういやお互い名前も聞いていなかったな、俺はソルテ、よろしくな」
初めに見た印象よりも、やはり気さくで優し気な印象が強まった。
笑みを浮かべると、どちらかというと優し気な印象の方が強い。
「よろしくお願いします。という事はソルテさんは魔女狩り部隊に入る事を決めたんですね?」
「ああ、むしろ願ったり叶ったりだ」
「金銭的な報酬よりも別に目的があるんですか?」
「まあな。お前もそうだろう?」
「・・・わかりますか?」
「そりゃそうだろう。お前ほど似合わない男はあの場にいなかったぞ」
多種多様な人間が集まっていたが、僕ほど武という言葉と程遠い人間はいなかったのは間違いない。
「まあ、その辺りはお互いに色々あるだろう。とりあえず俺は参加するつもりだ。よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
彼は挨拶を済ませると、急ぎ足で去っていった。
翌日、僕は迷わず入隊の意思を伝えにいった。
そこで受けた説明によると正式な活動は翌月からとの事。
今月は後4日で終わるが、明日からでもと意気込んできた分、若干肩透かしをくらってしまった。
一般人の数合わせが必要なほど急を要するものかと思っていたが、入隊は月初という通常の入隊時期は守られるようだ。
帰り道に同じ隊に配属される予定の男が見えた。
「こんにちは」
男がこちらを見ると少し笑みを浮かべてくれた。
「ああ、何ていったっけ?同じ隊の子でしょ?」
「僕はクラジです。ティランさんでしたよね?」
「ああ、ここに居るって事はお前も決めたのか、まあ無理はするなよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
印象としては小馬鹿にされているのか、心配されているのか微妙な印象だ。
昨日から見ていると経験からくる余裕があるのか、または根本的なものなのか、上から目線で話している事が多い印象だ。
少し苦手なタイプだが、何とか付き合っていくしかないだろう。
ティランを見送って、僕も帰ろうと考えていた所で、再度見知った姿を見かけた。
ソルテさんだ。
向こうも僕に気づいたようだ。
こちらに向かって歩いてくる。
隣には確か同じ隊に配属される女性も一緒にいた。
「お疲れ様です。これで皆一緒に活動できるみたいですね」
「ティランさんも来ていたのか?」
「先ほどまで一緒にいました」
「なんだ勿体ない、ちょうどヴェーラさんと合流したから、2人は間違いなく来ているだろうと思って探していた所だったんだ」
ソルテさんの隣にいたヴェーラが少し前にでて会釈をする。
僕も慌てて会釈を返した。
「クラジです。今後よろしくお願いしますね」
「ヴェーラです」
少し素気ない印象だ。
もしくは僕が警戒されているのかもしれない。
「2人とも良かったら親睦会を兼ねて簡単に食事でもどうかな?」
「僕は是非」
「私も予定はないので大丈夫です」
「良かった、じゃあ中途半端な時間だから簡素な所で良いよね」
そういうなりソルテさんは同意もないまま、どこかに向かっていった。
調和や場の雰囲気を大事にしそうな印象だったが、意外と強引な面もあるのかもしれない。
そしてそこは頼りになるなという印象を受けた。
ヴェーラも特に不満がないのか、何も意見せずに着いていく。
僕も置いて行かれないように着いていった。
ソルテさんが先導し、僕とヴェーラが並んで着いていく形だった。
年齢的にも失礼ながら僕とヴェーラは同じくらいだろうが、ソルテさんは一回り以上離れている印象だ。
これが自然な形だろう。
連れてきて貰ったお店は特徴のない軽食屋という印象だ。
いや、しいて言えば不人気のをつけたくなるほど、人がいなかった。
ソルテさんは入るなり、僕らに奥の席に入るように言い、店主と話をし始めた。
顔なじみのお店のようだ。
何となくアウェイな感じがして嫌だなと思ってしまう。
普段の仕事では僕は常に自分の優位な場所にいる事が多い為か、少しでも慣れない環境に飛び込むのが臆病になっているのかもしれない。
親睦会と言っていたが、どうしても隊の中での序列を決める意味合いも含まれているのではないかと勘ぐってしまう。
ほどなくしてソルテさんが戻ってきた。
「悪いな。メニューも適当に頼んできたけど良かったか?」
僕とヴェーラさんは、ほぼ同時に頷いた。
「良かった。まあ単刀直入に聞くが、正直どう思っている?」
何となく試されている気がする。
凄く広い意味での質問だ。
正直に答えた方が良いのか、それとも誤魔化した方が良いのか迷ってしまう。
ソルテさんは正式な軍人でないはずだが、それも建前で、こちらの本音を探る為に受験者側にいただけなのかもしれない。
僕が答えられずにいると、ヴェーラさんも同じように黙り込んでいる。
沈黙がしばらく続いた。
「悪い悪い、聞き方が悪かったな。それにフェアじゃなかった」
「え?」
「俺は魔女狩りの正体を知りたくて志願したのだけど、お前らも同じだと思っていたが、違うか?」
「僕は同じです」
少し間があり、ヴェーラさんも手を挙げた。
「私も概ね」
「だろう。だから魔女は本当にいるとおもっているのか?」
再度沈黙が続く。
今度はソルテさんも何も言わない。
僕は沈黙に耐えかねて口を開いてしまった。
「僕はそれが知りたい。その為だけに今回志願しました」
反応がない。
どう続けたらいいか自分でも分からず、目をつぶった。
アリビオの顔が浮かんだ。
そして確信している思いがある。
彼女は魔女ではない。
いや、少なくとも悪い人間ではない。
それは、僕がこれまで培った人間観察能力からも自信がある。
当初の目的を自分で見直す意味でも、目を開き、言葉を続けた。
「目的はアリスと対面し会話がしたい。世間も本人も認めている魔女と対面し、真実を見つけたい」
そう、僕はアリスを退治し、魔女の騒動を終わらせたいんじゃない。
魔女の真実を知りたいんだ。
魔女がいるのかもしれない、アリビオも実は魔女なのかもしれない。
それでも良い。
ただアリビオの真実を知りたい。
その為にはまずは会える状況をつくるんだ。
アリスと対峙し、魔女の真相を知る。
その武器を元に魔女として捉えられているアリビオに面会を申し込む。
それが僕のできる、罪滅ぼしであり、何よりアリビオと再度会う為に必要な事なんだ。
7月は散々な月でした。
PCが壊れて書けない日々が続きました・・・(仕事が忙しかっただけですが
内容は酷いのは自覚しているけど、やっぱり楽しい。
妄想好きだし、それが歪でも不完全でも形になるのは面白い。
もっと書きたい物は多い、少しでも向上したいなと日々思っています。
読んでくれている人はいないと思いますが、次はお盆中には挙げる予定です。
ここまで読んでいただいた方がいらっしゃれば、何よりの喜びです。
本当にありがとうございました。