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堕落

作者: 緑陰

己の生がいかに堕落したか。一度虚無に落とされたものは、二度とそこから「完全」な意味でもとに戻ることはできない。もとに戻るということは、小児の純粋無垢な心に戻ることに他ならない。ただ、一度虚無に落ちたものにとって、そこから這い上がるということは自らの虚無に対する恐怖感を超えるために価値を創造するということにほかならず、それはすなわち恐怖によって築かれた小児の心である。そのような状況に陥ったわれわれは、自らの美しき美貌が描かれた肖像画に対して嫉妬するのと同じ心情をもつ。永遠に保存される美、純粋無垢な快楽を楽しむその姿、肖像画として私たちの頭に残るあの姿はそうやって私たちをのろい続ける。そして私たちを狂乱させる。美しい小児であったことーそれは今では、自らを蝕むものでしかない。ああ!なぜき奴らはそれに気づかないのか!少年は自らの黒ばんだ足をを見ながら(そう、彼はまだ10を少し出た年齢であった)、なぜなら自分しか本当の生の快楽を享受できていないからだ、と自らに言い聞かせた。少年は床の上に身を置いた。外からは、小さい子供たちの刹那的な笑い声が聞こえる。そう、刹那!なんて美しいのだろうか。ただ目の前の快楽に浸るその純粋さー原始的な生き方そのものである!それはまた、「秩序」にしがみつきたいがために目の前のことに情熱をそそぐ、精神の救いようもない快楽主義者たちとはまったく本性が異なる。そうだ!私は一度は経験したではないか、そのような心を!少年の口はふと微笑を携えた。ただ、その唇は蒼ざめていた。少年は、やけに悲観的な考えを持ちながら、少年であるが故に自己正当化を無意識的にする。少年は、自らの胸までもがすでに黒ばんでいることには気づかず、そのまま戸を出て、「本来的な肉体の原始的な生き様」を実現するため、(彼は昨今読んだ小説から海をまず思い浮かべた)最寄り駅へ向かった。快楽主義者たちめ!今に見てろ!少年はそう心の中で憎悪の叫びをあげながら、みずからの言葉に優越感を味わいながら電車を待った。やがて、全く無音のまま電車が来る。そして少年は、電車の窓に映る自らの肉体ー顔も黒ばみ、足は硬直し、髪もほとんど落ちてしまったその姿を見た。少年は奇声をあげながら電車の窓を右腕で壊そうとした。電車はその少年の一連の行動をあたかも存在しないように無視し、そのまま発射した。通り人も、少年の存在にきずかない。ふとすると、少年は急に周りが見えないことに気付いた。それも当たり前だろう。少年の顔は消えてしまったのだから。少年の黒ばんだ体は次第に大地に溶け込み、憎悪と嫉妬という彼にとっては唯残された人としての心すらも残せず、無へと帰したのである。ただ、一言だけ付け加えると、もしその少年の美しい肖像画がその少年の最後を見届けたら、その画は叫ぶであろうー「少年は私を超えた!少年は最高の幸福者であった!なぜなら、少なくとも彼は私に近づかんとする意志をもっていたから!」と。

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