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リンネの複雑な乙女心

「えいっ!てやっ!」

「まだまだ甘いぞ!」


 イオの家に厄介になってから。

 毎日イオ相手に戦闘訓練するのが、リンネの日課になった。

 わざわざ地下に、イオが特訓場を作ってくれたのだ。

 リンネは、魔法界の上位になってから。

 人に教える事は有っても、教わる事は無かったので。

 ここでの毎日が新鮮だった。


「体や武器に魔法を掛けるのは、相手に攻撃を当てる寸前だぞ!その方が、相手に読まれない!」


「分かった!」


「それと、次の攻撃へ繋げられる様に!掛ける魔法の順番も、常に頭に入れろ!」


「おう!」


 リンネは前から対魔法だけでは無く、対超能力や対科学の対策も立てていた。

 それが通じないと分かったのは、イオのお陰。

 魔法だけの力に頼り過ぎていた。

 ゴリ押しではダメ、頭をフル回転しないと。

 それをイオが教えてくれた。

『イオの思いに応えたい』と、リンネは訓練にいそしんでいた。

 その一方で。

『それにしても、気付いてくれているのだろうか?』とも思っている。

 リンネも女の子。

 髪型をポニーテールへと変えたのに、イオからの反応が無い。

『戦闘に、長い髪は邪魔だから』との理由だけでは無く、『女の子として見て欲しい』。

 愚直な性格のリンネ、彼女なりの精一杯のアピールだった。




「毎日特訓なんて、凄いねー。」


 リンネに対して、エリカが素直に感心する。

 アイも負けじと得意がる。


「私も毎日研究してるぞ、えへん。」


「変な研究ばかりして音がうるさいから、イオに研究室へ追放されただけじゃないの?」


 余計な事を言うエリカ。

『違うもん!こっちの方が集中出来るからだもん!』と、アイは反発するが。

 部屋をややこしく改造したので、同居人から抗議が出て。

 同じく地下に、研究所を作って貰ったのだ。

 アイはジトッとした目で見ながら、エリカに言う。


「エリカは良いの?お兄ちゃんに構って貰えなくなっちゃうよ?」


「ふーんだ。いつもイオに突入してるもーん。」


 エリカは毎日、イオに抱き付こうとしては。

 華麗にスルーされているのだ。

『やり込められてはたまらない』と、エリカがアイに言い返す。


「あんたの方こそ、どうなのよ?研究所にこもってばっかだと、イオと話す時間なんて無いんじゃないの?」


「ご心配無ーくー。ちゃんとスキンシップは取ってるもんね。」


「ふーん。」


 怪しむ目付きで、アイを見るエリカ。

 そんな2人の様子を、遠くから見ているアーシェは。

『私が一番、イオに近いんですからね』と、余裕の笑みを浮かべる。

 穏やかな時間だった。




 その頃、マギクメギトでは。

 イオの討伐部隊が組織されていた。

 イラついていた、大臣のメリル卿は。

 面倒臭くなって、町諸共もろともイオを消し飛ばそうと考えていたのだ。


「流石にそれは、やり過ぎなのでは……。」


 部下がそう忠告するも、全く取り合わない。

 ニヤッと笑いながら、メリル卿は言う。


「あんな町、元々無かったのだ。消えても構わんだろう?」


 部下達は、こんなメリル卿に飽き飽きしていた。

『王の怒りに触れなければ良いが』と、内心ではハラハラしていた。

 そして遂に、討伐部隊約100名が。

 アンナの町へ向かって出発した。

 しかし、それを見送る者は少なく。

 部隊も本当は、嫌々ながら。

 そこまで、メリル卿は嫌われていたのだが。

 本人だけが自惚うぬぼれのせいで、それに気付いていないのだった。




「そ、そんな……!」


『マギクメギトの大部隊が、アンナの町へ向け進軍している』と言う知らせを聞いて。

 リンネは真っ青になり、そしていかった。


「正気か!大臣は何を考えている!」


「メンツだろ。プライドが高そうだからな。」


 イオは淡々と、そう返す。

『私はどうすれば……!』と、リンネは真剣に考え込む。

 そこへポツリと、イオからアドバイスが。


「お前だけにしかれない事が有るだろ?説得するんだよ。」


「私の言う事なんか、聞いてくれるだろうか……。裏切り者である私の……。」


「大丈夫。リンネは前より強くなった。守れるさ、きっと。」


 そう言って、ポンと軽く頭を叩くイオに。

 リンネは勇気付けられた。

 そうだ、私だけだ。

 説得出来るのは。

『遣ってやろう』とリンネは、腹をくくった。




 後1日でアンナの町へ着くと言う距離で、大部隊はキャンプを張った。

 皆暗い表情で、夕食を取っている。

 本当は攻撃なんかしたく無い、しかし……。

 人質同然に家族を国へ残して、今更止める訳には行かなかった。

 その時。


「みんな、話を聞いてくれ!」


『聞き覚えの有る声だ』と思い、その方向を皆が見ると。

 そこには、リンネが居た。

 驚く、部隊の皆々。


「い、何時いつの間に!」


「待ってくれ!話がしたいだけなんだ!」


 リンネの懸命の頼みに、部隊の者達は取り敢えず聞く振りをした。

『いざとなれば』と、戦闘態勢を取りながら。


「私達が戦っても、得る物は何も無い!だから、大人しく引いてくれないか!」


 リンネは必死に説得する。

 余りの形相に、部隊員も気が緩んで来た所で。


そそのかされるな!」

「こいつは裏切り者だぞ!」


 部隊の中から、そんな声が上がる。

 大臣の仕込みだった。

 こんな事も想定して、自分に忠実な部下を部隊へもぐり込ませていた。


「待て!待ってくれ!」


 リンネが止めようとするも。

『こいつさえ消えれば!邪魔だ!』と、仕込みの兵士が彼女へ襲い掛かる。

 リンネに向かって、水鉄砲や火炎放射を繰り返した。

 ……仕方が無い!

 応戦するリンネ、ここでイオとの特訓の成果が出た。

 リンネは素早く、それ等をかわすと。

 魔法を打ち消す様な魔法を足に掛け、仕込みの兵士に叩き込んだ。


「ぐわっ!」


 兵士はその場に倒れ込む。

 最小の魔力で、次々と兵士を倒して行くリンネ。

 流れる様に。


「何をやっている!お前達も戦わないか!」


 仕込みが、部隊の者達へ。

 そうけしかけるも。

 以前とは比べ物にならない、リンネの圧倒的戦術差に。

 皆、動けなかった。


 《かくなる上は!お前達共々、ここで朽ち果てろ!》


 急に、メリル卿の声が空から響くと。

 部隊が張っているキャンプの頭上に、直径50m程の火球が現れた。


「約束が違うでは有りませんか!」

「我々の身の安全は、保障してくれるのでは!」


 仕込みが驚くも、既に遅かった。


 《そんなの、知った事か!お前達の代わりは、幾らでも居るわ!》


「そ、そんな……。」


 仕込みは全員、地面へへたり込んだ。

 しまった!

 直接大臣が仕掛けて来るなんて!

 私じゃ防げない!

 悔しがるリンネ、死を覚悟した。


「済まない、イオ。力になれなかった……。」


 《死ねええええぇぇぇぇぇ!》


 メリル卿の怒声で、火球が落ちかけた時。

 リンネの背後から聞こえた声は。




「頑張ったな、リンネ。後は任せろ。」




 ……イオ!

 パアッと、リンネの顔が明るくなる。

 イオがピンと、右手人差し指を立てると。

 クルッと宙へ円を描き、こう呟く。


「適当に圧縮圧縮、と。」


 すると火球が、直径1m程の大きさまで一瞬で縮んだ。

『返すよ、ほれ』と、イオが。

 ヒュッと投げる様に、また人差し指を動かすと。

 火球がパッと姿を消して、上空からメリル卿の叫び声が。


 《ぐわああぁぁぁぁっ!熱っ!熱つつつつーーーーっ!》


 そして直ぐに、奴の声は消えた。


「リンネ、良くやったな。」


 イオはリンネの頭を、そっと撫でる。

 リンネは泣きじゃくっていた。


「私、私……。」


 イオは、大部隊の連中をにらみ付け。

 大声で、こう言い放った。


幼気いたいけな少女を泣かすなんて、サイテーだな。」


「わ、我々も好きでこんな事を……。」


 連中は皆、狼狽うろたえた。

 仕込みの兵士達にも、イオは怒鳴り付ける。


「そこの、煽って来た奴等!これで分かったろう!お前等が仕えるに値する奴か、あの大臣は!」


 仕込みはまだ、ショックから立ち直れないでいた。

 イオが、部隊の者達へ促す。


「まあ、この後。王が奴に、何らかの処分を下すから。安心して国に帰るんだな。お前達の無事は、俺が保証するよ。」


 リンネがまだ、泣き止まない中。

 イオの言葉を信じて、大部隊は引き返す準備を始めた。

 イオがリンネに笑い掛ける。


「辛かっただろう。でも、お前は守ったんだ。みんなをな。」


 そこで思い出した様に、イオがリンネに。


「そういや、髪型変えたんだよな?似合ってるぞ。」


「こんなシーンで掛ける言葉か?」


 リンネは、泣き笑いに変わっていた。

 ああ、遣ったんだ。

 私は守ったんだ、守れたんだ。

 リンネはそれが、誇らしかった。




 大部隊が国へ帰還し。

 部隊長が報告しようと、大臣の元を訪れると。

 既にその姿は無かった。

 留守を預かっていた大臣の部下に、『どう言う事だ?』と尋ねると。

『それがさ……』と、部下が話し出した。

 概要は、こう。

 高笑いしていたメリル卿の真上に火球が現れ、真面まともにそれを食らった。

 火傷やけどを負ったメリル卿だったが、命に別条は無かった。

 しかし大臣の独断専行に、王もとうとう激怒。

 地下牢に大臣を更迭した。

 が、次の日に。

 見回りの兵士が牢を見た時には、大臣の姿は消えていた。

 今は、共に居なくなった一部の部下達の行方を。

 全国で追っている。

 部下の話は、以上。


「彼の言う通りになったのか……。」


 ここまでお見通しとは、感服する他無い。

 そう、部隊長は思った。

 その後、王の下へ直接呼ばれ。

 状況を報告した部隊長。

 その時彼は、王へこの様に進言した。


「彼を敵に回すのは、やはり得策では無いと思われます。」


「相分かった。検討しよう。」


 王が告げると、ススッと部隊長は下がった。

 こちらの目論見もくろみ通りとなったな。

 感謝致すぞ、救世主よ。

 邪魔な大臣を追放する口実を与えてくれて、王は有り難かった。

 王も、これ以上の戦は望んでいなかったから。




「リンネ、今回は大活躍だったんですって?」


 イオから話を聞いたアーシェは、嬉しそうだった。

 その彼は絶賛、リンネをベタ褒め中。


「ああ、格好良かったよ。」


「良いなー、私も褒められたいなー。」


 羨ましそうなエリカ。

 対して、食い気満載のアイ。


「どうせなら、『リンネ偉いねパーティー』しようよ!」


「リンネにかこつけて、思いっ切り食べたいだけでしょ?まあ作りますけど。」


 呆れ顔のアーシェ。

 その中で、リンネは思う。

 私、少しは成長出来たのかな……。

 でもそれはきっと、イオが居てくれたからなんだ。

 イオに対する感謝と愛情で一杯の、リンネの胸の内。

 そこへ不意打ちの様に、アイがリンネへ。


「でも、『自分がリードした』なんて思わないでよね!お兄ちゃんは渡さないんだから!」


「ひっ!」


 思わず情けない声を上げてしまう、リンネなのだった。

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