科学部隊、遂に参戦
ここは、イオの家。
主人と居候、4人が話し合っている。
まずは、イオが。
「3つの国の内、2つまで動いたとなると……。」
「残りの1つも動くだろうな。」
そう答えるリンネ。
元気さが取り柄のエリカは、無邪気に。
「そうだね!」
「『そうだね!』じゃ無いですよ。しっかり対策を考えないと。」
アーシェは心配そうだ。
彼女に対して、イオは。
「まあ、科学兵器の方が。俺は楽だけどな。」
「「「と言うと……?」」」
3人が、イオの顔ををジッと見る。
『簡単な事だよ』と、イオは理由を述べる。
「俺の居た世界にも科学は有ったし、対策は立て易い。それに、意外と。〔読み易い〕んだ、思考パターンが。」
そしてイオは、こう付け加えた。
「科学者なんて、単純なもんさ。〔知りたい〕が行動原理だからな。」
「サイクスパーダまでしくじるとは……!」
科学の国【ケミクシーエン】の大臣の周りでは、〔慎重論〕と〔強硬論〕が渦巻いていた。
2つの国から送り込まれた、精鋭部隊を。
立て続けに破った〔救世主なる者〕、正に侮り難し。
さりとて、このまま放置する訳にも行かない。
それに。
我が国だけ何もしないのでは、他の国から『臆病者』と馬鹿にされるだけ。
『ならば』と、大臣の【フチェラスカ=ホマルダ卿】は考えた。
「取り敢えず、データが必要だ。それを分析してみないと、どうにもならん。あ奴をここへ。」
ホマルダ卿が、そう命じると。
数分後、彼の下へ。
だるそうにした、短い髪の少女が現れた。
「何だよ、大臣。こっちは研究で忙しいのに……。」
「良い研究テーマを与えてやろう。《救世主》に付いてだ。」
「今、噂のか…それは良いな!」
目を輝かせて喜ぶ少女、しかしホマルダ卿は。
こう付け加える。
「早速実測チームを組んで、現場へ向かえ。データが十分得られたら、そ奴を《殺して来い》。」
「えーっ、研究テーマを消しちゃうの?」
「不満か?」
「当然!面白そうなのに。」
ブー垂れる少女、それでもホマルダ卿は撤回しない。
あくまで抹殺を図ろうとする。
「あれは、この世界には不要だ。排除せよ。」
「えぇ……。」
別の意味で残念がる、少女だった。
ホマルダ卿に呼び付けられたのは、【アイシャル=ヴェーンズ】。
家代わりに暮らす研究所では、【アイ】と呼ばれている。
幼少の頃からずば抜けた知能を持ち、その為国の研究所で大半を過ごして来た。
所員は言わば、家族同然。
自分が遊ぶ為のおもちゃを、色々と自ら製作。
所員はいつも、そんなアイを褒めてくれた。
しかし。
みんなの喜ぶ顔が見たくて作ったおもちゃ、その技術が。
自分の与り知らぬ所で、人殺しの道具へ転用されている事を知って。
アイは心を痛めていた。
何でみんな、争うんだろう。
何故自分は、それを止められないんだろう。
みんなの役に立ちたいだけなのになあ。
アイもまた、根は心優しい少女だった。
アンナの町は、逆に落ち着いていた。
『もう、何でも来い』と言わんばかりの、皆の生活。
二度も攻められ、開き直ったからかも知れない。
魔法と超能力、2つの力が傍に居るからかも知れない。
しかし少なくとも、以前よりは生き生きしていた。
人間として生きる事を諦めていた、以前の自分には戻りたく無い。
イオの登場で、町の人達に心境の変化が現れていた。
「我々はまた、町の守護で良いのだな?」
リンネがイオに尋ねると、『ああ』との答え。
それに対し、エリカは。
「えーっ、戦わないのー?」
そう言いながらエリカも、内心では。
半分残念、半分ホッとしていた。
「イオの邪魔にならない様、お留守番です。」
アーシェが『えへん』とした顔で、エリカに言う。
「そう言う事だ。みんなを宜しくな。」
イオが優しく、エリカの頭を撫でると。
『えへへー、分かったよー』と、エリカは嬉しそう。
羨ましそうに、そんなエリカを見つめるリンネ。
戦いの後に、町を守り抜いた褒美として。
どさくさ紛れに、イオへ強請ってみよう。
そうしよう。
そんな下心を持つ、リンネなのだった。
「移動は、サイレントバギーに限るよねー。」
アイはご機嫌だった。
滅多に乗れない軍用車両の中で揺られて、ルンルン気分のアイ。
同行している所員達が、説教する様にアイへ言う。
「遊びに行くんじゃ無いんだぞ?」
「全く、肝心な所はお子ちゃまだな。」
「まあ、大臣にタメ口を聞く位だからな。」
「それだけ、アイが優秀って事だ。」
「期待してるぜ、アイ。」
「うん、任せて!」
そう返事はしたけど、ホントに上手く行くかなぁ?
アイは何処か、不安気だった。
そんなアイに所員達が、励ます様に言う。
「大丈夫だって。軍の兵士も一緒だしさ。」
「そうそう。その為に、音の出ない〔これ〕に乗ってるんだし。」
大丈夫…だよね?
そうだよね!
アイは、そう思い込む事にした。
これまでの2か国は、アンナの町に近付き過ぎて遣られた。
なら、遠くから離れて攻撃すれば良い。
それだけの設備を持って来た。
ケミクシーエンの科学力なら、それが出来る。
ピンポイントに、1人だけを攻撃する事も。
元々は、他国の王を殺害する為に研究された技術。
実戦投入は初めて、それでも上手く行く。
ここでしくじっている様では、研究して来た甲斐が無い。
皆は、そう考えていた。
索敵ポイントに、やっと到着。
レーダーなどで、町の様子をうかがう。
その結果、町の人達は皆普通に生活していた。
今回は昼。
『夜に来る』と思って、町の連中は油断している。
決行するのは、今しか無い。
『ご決断を』と、軍の幹部がアイへ進言する。
覚悟を決めた様にアイは、声を上げる。
「攻撃開始!同時に、モニタリングも!」
「対人ミサイル発射!」
バシュッ!
アイの号令で、軍はミサイルを放つ。
ミサイルは、宙を勢い良く飛んで行く。
「着弾まで3、2、1、0!」
カウント0と同時に、『ドカン!』と。
後ろの車両で、大きな音がした。
「くそう!」
「逃げろ!」
どうやら、動力部を壊されたらしい。
皆が車両から避難した所で、大きな爆発を起こした。
2つの車両の内、これで1つが破壊された。
不味い! 向こうに感付かれてる!
そう考えたアイは、軍関係者や所員達へ叫ぶ。
「みんな、気を付けて!」
もう1つの車両内に居る、分析担当の所員の下へ。
アイは慌てて駆け付け。
『どうなってるの?』と、状況を報告させる。
しかし所員は、真っ青な顔をしていた。
あわあわしながら、こんな言葉を漏らす
「目標に当たる寸前!サイレントバギーの動力部に、ミサイルがワープ……!」
え?
余りの事に、驚くアイ。
もう一度、報告し直させる。
「そんな事って有るの!?」
「分からん!でも人為的に、それを起こしたとしか……!」
「ワープなんて!私達でも、大きな装置じゃ無いと出来ないのに!しかも、ミサイル……!?」
アイが考える暇も無く、軍はプラズマ銃を構えた。
それと同時に所員が、ホーミングレールガンを発射。
しかし、レールガンは。
目標の傍で急激に、空の方へ向きを変え。
遥か彼方へ消えて行った。
何? 何が起きてるの?
状況が全く掴めないアイ、それは他の所員達も同様だった
「信じられん……。あの一瞬で、強大な電磁場を局所的に……。」
所員は皆、絶句していた。
「電磁シールドって事?嘘っ!」
アイには全く、信じられなかった。
そこに、こんな声が。
「悪かったな。」
車の中に突然、イオが現れた。
余裕の笑みを浮かべながら、ゆっくりとした口調でイオは言う。
「随分と物騒な招待状じゃないか。しょうが無いから、来てやったぞ。」
うわあああぁぁぁぁぁっ!
アイも含め、所員全員が。
もがく様に、外へ飛び出した。
その後に続いて、イオも車両から出て来る。
「このやろーーーーっ!」
軍の隊員10人が、イオを取り囲んで。
プラズマ銃を一斉照射。
ダ、ダメーー! 丸焦げになっちゃうーーー!
人が目の前で死ぬのを、見たく無い。
例え、敵で有っても。
アイが叫んだ時には、既に遅かった。
四方八方から、プラズマを浴びせられるイオ。
「打ち方、止めーい!」
軍の幹部が、そう叫ぶ。
プラズマの光で眩しくて、どうなったか肉眼では分からなかった。
きっと丸焦げか、綺麗に消滅したに違いない。
軍の連中は、そう思っていたが。
目の前の光景に、背中がゾクッとする。
そこには。
「何だ、飲み物か?有り難く頂くよ。」
ケロッとした顔で、そう話すイオ。
彼に照射されていた筈のプラズマは、勢い良く身体の中へ吸収されていたのだ。
「変な形をしたボトルは、ぼっしゅー。」
イオが上に、フッと手を掲げると。
全ての銃火器が、その手に吸い寄せられた。
あっ!
軍の隊員達は、あっさりと武器を奪われてしまった。
かくなる上は……!
隊員達は、玉砕覚悟で。
爆弾を纏ってイオへ飛び付き、起爆スイッチを押そうとした。
隊員達の、決死の思いも虚しく。
「こんな食いもんは、願い下げなんだが。」
イオの一撫でで、爆弾はサラッと消えた。
所員達は、軍にもう対抗手段が無い事を知ると。
アイへ向かって叫ぶ。
「仕方無い!アイは、データを持って逃げろ!」
「俺達が時間を稼ぐから!」
「出来ないよ、そんな事!」
アイが、悲鳴にも似た声を上げる。
それでも所員は叫び続ける。
「出来る出来ないじゃ無くて、遣るんだよ!」
「行ってくれ!早く!」
所員達は、振動刃ナイフを翳して。
『いやあああぁぁぁ!』と大声を上げながら、イオの身体に突き立てた。
ガキンッ!
『うわあっ!』
逆に所員達が吹っ飛ばされる。
軽く文句を言う様に、イオが告げる。
「だから。『そんな食いもんは要らん』って言ってんだろ。」
弾き飛ばされた所員の手から、スウッとナイフが消えた。
もう、イオに刃向う者は居なかった。
こいつは、俺達の常識を遥かに超えている。
『勝ち目は無い』、そう悟り。
皆は両手を上げて、降参したのだった。
「これからどうする気?」
アイがイオを睨み付ける。
みんなに何かしたら、タダじゃおかないんだから!
仲間を守るんだ、そう決心していた。
しかしイオは意外な行動に出る。
「ほう。この銃は、何かに使えそうだな。木を切るのに?いや、岩の方が良いな……。」
しげしげと銃を眺めるイオ。
そしてスタスタと、車の中へ入って行く。
「おーい!取り敢えず、この中を説明してくれー!」
イオがアイを手招きした。
恐る恐る近付くと、アイはイオから質問攻めにされた。
「これで位置を探ってたんだよな?」
「これで発射したんだよな?」
数々の質問に答えた後。
ヘトヘトになったアイは、最後にこう尋ねられた。
「なあ。これ全部、町の為に使えそうじゃないか?」
呆気に取られていたアイは、そこで『プッ』と笑うと。
直ぐに大爆笑へと変わった。
自分を危険に曝した機械群を、人の為に平和利用しようなんて。
変な人、すんごく面白い!
アイは決めた。
「みんな、ごめんね。私、この人に付いて行く事にする。」
そう告げたアイは、笑顔だった。
『何で……?』と、所員達や隊員達は唖然とする。
「だって面白いんだもん。軍事機密の平和利用なんて……あははは!」
この人は。
私の遣りたかった事を、そのまま実行しようとしている。
それを傍で観察する、これ程面白い事は無い。
アイの決心は固かった。
無理にでも連れて帰りたいが、国はもう自分達を受け入れてくれないだろう。
絶望に打ちひしがれる、軍や所員。
それを嘲笑うかの様に、イオは。
「ばーか、みんなで暮らすんだよ。俺達の町でな。」
イオがそう言うと。
皆の前に、彼等の家族が現れた。
もうこれで、三度目である。
「どうせお前等も、任務失敗で国に帰れないだろ?だったら、暮らせば良い。【人質】と言う名目でな。」
「そんな妄言に従えるか!」
目の前の出来事に動揺しながらも、所員達は反発する。
そこで、イオは。
「《出来る出来ないじゃ無い、遣るんだよ》。お前等が言った言葉だぞ?」
イオの発言に、誰も言い返せなかった。
所員達の安全は保障された、そう安堵するアン。
彼女に対し、イオは優しくこう告げる。
「お前は、みんなの事 《も》見守ってやれ。お前が率先して、町の為に尽くせば。みんなも、町へ溶け込み易くなるだろう?」
「うん。」
イオの言葉に、アイは。
自然と素直に頷いていた。
「と言う訳で、一緒に暮らす事になりました。宜しくね。」
「またですか!また唐突にですか!」
アイを連れ帰ったイオへ、アーシェは完全に呆れていた。
「しょうが無いだろ、『一緒に住みたい』って言うんだから。」
今回は、俺から言ったんじゃ無い。
イオは必死に、アーシェを諫めていた。
「また仲間が増えたか。こちらこそ。」
「よっろしくー!」
冷静に挨拶を返すリンネ、元気に答えるエリカ。
エリカは、アイの胸をじっと見ると。
ボソッと一言。
「ちっちゃ。」
「ムキーッ!それは言うなーーーっ!」
胸の事だけは許せない、普段は大人しいアイでも。
『こんなドタバタも悪く無い』と、イオは思っていた。
アンナの町では、ぎこちなさを見せながらも。
3勢力が、不思議な感じで雑談をしていた。
それでも皆は思っていた。
我々が本当に欲しかった物、それがここには在る。
大事な物だ、しっかり守って行こう。
例えそれが、祖国へ刃向う事に繋がっても。
どう言う事だ……?
各国の大臣は、完全に参っていた。
3勢力が送り込んだ刺客は、悉く敗れ去ったばかりか。
そのまま向こう側へ付いてしまった。
不味い、不味いぞ……!
このままでは、国内から。
自分達に対し反旗を翻して、〔アンナの町とやら〕に付く民が出て来るかも知れん。
警戒しなければ……!
大臣は、自身の保身へ走ろうとしていた。
「何かしようよ、【お兄ちゃん】!」
アイは親しみを込めて、イオをそう呼んだ。
意外にも、アイはロマンチスト。
イオのお嫁さんになるまでを、既に想像していた。
他の3人からしたら、冗談じゃ無い。
イオを取られてしまう。
自分も頑張って、イオの前で良い所を見せないと!
矢鱈と張り切り出す、3人。
こうして、一つ屋根の下。
ややこしい5角関係が、形成されたのだった。