闇で動くサイキッカーズ
「マギクメギトが遣られたか……。」
魔法部隊による暗殺失敗は、世界中に衝撃を与えた。
超能力を色々な形で日常に使用している国、【サイクスパーダ】もそうだった。
この国の大臣、【アイクシール=トエル卿】も、着々と暗殺計画を進めていた筈だったが。
再考を余儀無くされていた。
「攻撃力を強化せねばな……。」
ポツリと呟いた後、トエル卿は考えた。
あの者を呼ぶしか無い、この国の最終兵器〔黄金の鬣〕を。
サイクスパーダの最終兵器とは、【エリクシール=ビヨング】。
【エリカ】と呼ばれる少女だった。
金色に棚引くツインテールから。
人は彼女を〔黄金の鬣〕と呼んで、恐れおののいた。
恵まれた家庭に育ちながら、その力ゆえに家族から疎まれ。
10才で軍に志願。
軍の中で鍛えられて、めきめき腕を上げた。
それが逆に、益々人を遠ざけた。
故にだろう、人に好かれようとムードメーカーに徹していた。
軍の人だけは、自分の気持ちを分かってくれる。
それに応えたい、失いたく無い。
そう思っていた。
『話は聞いているな?』と、トエル卿はエリカに言う。
『はい、頑張ります!』と、エリカは明るく答えたが。
「お前が部隊を率いろ。間違い無く仕留めて来い。」
そんなトエル卿の言葉は、酷く冷たかった。
超能力は大抵、1人につき1種類しか使えない。
だが稀に、複数の種類を使える者が居る。
エリカは未来予知以外、大抵の能力が行使出来た。
未来予知が出来ないのは。
この先の事なんか知りたく無い、今が楽しければ。
エリカの、そんな思いからだろう。
どの能力も強力に使えるエリカは、どう力を使ったら勝てるか分かっていたので。
若輩者ながら、司令官向きだった。
その能力とは反対に、エリカも。
人殺しには向いていない性格だったのだが。
『うーん』とエリカは、編成された部隊の構成に付いて悩んでいた。
念動力者が3人、伝令役のエスパーが1人。
先頭を進む透視能力者が1人、瞬間移動使いが2人。
そして、エリカ。
透視能力者が探り、瞬間移動と念動力で攻撃。
臨機応変にエリカが指示を出し、それをエスパーが各自へ繋ぐ。
これで良い筈、でも何か足りない。
その姿を見ながら、部隊員達が言い合っている。
「またエリカが悩んでるな。」
「魔法の奴等が遣られているからな。慎重にもなるだろう。」
「でも対魔法の訓練もしてきたから、大丈夫だろう。」
「慢心ダメ、絶対!」
そこへエリカが、釘を刺した。
すると、部隊員達は。
「はいはい。お前さんが明るくないと、こっちも調子が狂うんだよ。」
「しっかりしてくれよ。」
「ごめんごめん、えへへ。」
エリカは、照れ隠しの笑顔。
そして、思う。
みんなを守らないと。
全力を出さなきゃ、だなあ。
この作戦を何としても成功させたい、そして元気に国へ帰るんだ。
エリカは、そう意気込んでいた。
アンナの町は、またしても大慌て。
『今度はサイクスパーダに動き有り』と、教会を通じて連絡が有ったのだ。
魔法部隊を退け、リンネ達が仲間になったからとは言え。
超能力者相手にどうするか、町の人達は不安だった。
そこへリンネが、イオに申し出る。
「力を貸そうか?」
「いや。リンネ達は、町の人達を守ってくれ。それに……。」
少し押し黙った後。
イオはリンネに告げる。
「〔魔法〕対〔超能力〕の構図になると、国の間で戦争が起きるかも知れない。それは避けたいんだ。」
自分の国の事も、考えてくれている。
イオのその優しさに嬉しくなる、リンネ。
一方、アーシェは。
「私はっ!町の方と、お食事係ですね!」
今度こそ、町の力になりたい。
対魔法戦では出番が無かったので、アーシェは張り切っていた。
それぞれが、存在意義を模索していた。
アンナの町へ連絡が届いてから、何日か後の夜。
「この辺りね、戦闘が有ったのは。」
サイコメトリーを使って、痕跡を読み取りながら。
エリカが言う。
「なるほど。これは、真面に遣ったら勝てないね。」
状況把握完了、後は。
作戦を、状況に応じて変えて行くだけ。
エリカは、部隊員達に声を掛ける。
「それぞれ、準備は良い?」
「おうよ!」
「何時でも良いぜ!」
《俺もだ。》
その声に、ギョッとする部隊員達。
聞こえた方を見やると、見知らぬ男がそこには立っていた。
「そんな顔をするなよ。今回のターゲットだぜ、俺。」
まさかとは思ったが。
相手が、部隊の真っ只中に来るとは思わなかった。
「散開!手筈通りに!」
エリカが命じる。
「そうなると良いな。」
イオは『フフッ』と、鼻で笑った。
瞬間移動で撹乱し、念動力で攻撃する。
場合によっては、エリカも戦闘に加わる。
その筈だった。
しかし実際は、その逆を遣られた。
瞬間移動使いがテレポートした先に回り込まれ、念動力者の前へと跳ばされた。
間違って味方を攻撃してしまい、吹っ飛ぶ両者。
エスパーは、テレパシーを封じられて何も出来ない。
透視など必要も無い距離、完全に部隊は無力化された。
戦況は、エリカ達にとって悪くなる一方。
何とかしないと……何とかしないと!
「えーーーーいっ!」
とうとうエリカが、前に出た。
『みんなを遣らせはしない!』と、仲間を守りたい一心だった。
そこを、イオが問う。
「なら何故、俺を攻撃する?」
「そうしろって言われたから!」
エリカは必死だった。
イオに対して、岩や木々を投げ付ける。
尚もエリカに問うイオ。
「言われたままに行動するのか?それはお前の本心か?」
攻撃をスルリと躱すイオ。
彼の言葉に動揺するエリカ。
「私だって……私だって!普通に生きたい!軍のみんなと仲良く暮らしたい!」
「それは、【軍の中じゃなきゃ出来ない】事か?」
イオは、エリカの心を揺さ振り続ける。
尚も瞬間移動で、イオに剣を差そうとするエリカ。
「軍の仲間だけが、私を分かってくれた!受け入れてくれた!」
「でも。〔その他のみんなと仲間になる〕努力を放棄した。違うか?」
「安穏とした空気に安心して、肝心な事は疎かにした。こうじゃ無いのか?」
イオは次々と、言葉を畳み掛ける。
違う……違う!
心の中で、そう唱えるエリカ。
しかしイオは、まだ続ける。
「アンナの町の人は、努力したぞ。《受け入れられる努力》をな。」
あんたなんかに……何が分かる!
「【分かるけど、分からん】な。お前が本心をさらけ出そうとしないからな。結局お前は、分かろうとしなかったんだ。自分さえも。」
じ…ぶ…ん…?
「嫌われる事を恐れて、心を開こうとしない。だからみんな、お前の事が分からないんじゃないのか?」
ううっ……。
その場にしゃがみ込み、頭を抱えて悩み出すエリカ。
「そいつの言う事に惑わされるな!」
「攻撃の手を緩めるな!」
彼女に対し、遣られた仲間が叫んでいる。
そうだ、みんな仲間だ。
だから守りたい。
でも、軍以外の国の人達も仲間なんだ。
その人達に、自分の事を分かって貰おうとしなかった。
《そうか……そう言う事だったんだ……。》
そう思った瞬間。
金縛りに遭ったエリカは、地面に這いつくばっていた。
「くそう!やられちまった!」
「殺せ!早く殺せ!」
「生き恥を曝したく無い!」
完全敗北の部隊員は、口々に言う。
そんな彼等に対し、イオは悪態をつく。
「ばーか。やだね、そんな事。真っ平御免だ。」
でも『それはわざとだ』と、エリカは気付いた。
イオは意外な事を、部隊員達へ口走る。
「殺したかったら、何時でも殺しに来い。これからは、【同じ町に住む】んだからな。」
「何を言って……!」
そう言い掛けた部隊員が、びっくり仰天した。
みんなの家族が一瞬にして、目の前に現れたのだ。
「そんな馬鹿な……。」
「これだけ大勢を、一瞬にして呼び寄せるなんて。そんな芸当……。」
驚くのも無理は無い。
瞬間移動は大抵、自分のみ。
その他には物体が3つ程が、精一杯だからだ。
イオがわざと嗾けたのは、部隊員に《生きる糧》を用意したかったから。
まあ、イオが思うのと違う方に転がったが。
「これじゃ、勝てない筈だ……。」
部隊員は皆、降参した。
その姿を見たエリカへ、イオは元気は感じで言う。
「お前もだぞ?《これからは、俺と一緒に暮らす》んだからな。ドーンとぶつかって来い。」
良いの……?
私、良いの?
「勿論。他に住んでる奴が居るけど、そこは自分で何とかしろよ。《今度こそ》、な。」
ありがとう。
チャンスをくれて、ありがとう。
心の底から思うエリカだった。
そしていつの間にか、《恋》をしていた。
相手は、当然……。
サイクスパーダの部隊員達は驚いた。
元マギクメギトの精鋭が、UHに混じって普通に生活していたからだ。
そうか、本当に求める物はここに在ったのか。
皆その光景に納得し、この町の為に尽くす事を誓った。
「だから!何でこうも、唐突なんですか!」
アーシェはまた怒っていた。
「これからお世話になりまーす。よーろしくぅ!」
エリカはシュタッと右手を挙げて、元気に宣言。
「私も同じ身の上だ。宜しく頼む。」
リンネは何処か、嬉しそうだ。
同じ境遇の仲間が出来たからだろうか。
「それにしても……。」
エリカが、リンネの胸をじっと見ると。
一言、『大きいね!』
『馬鹿っ!突然、そんな事を言うな!』と、照れるリンネ。
3人の、その様子を。
少し離れた席から、微笑ましく見ているイオ。
こうして、はた迷惑な同居人が。
また一人増えたのだった。




