マジカルチーム、急襲
何時だったか。
〔自分が高い魔法力を持っている〕と気付いたのは。
無自覚にそれを使い、多くの人を傷付け。
それと共に、多くの悲しみを生んだ。
もう、そんな事は嫌だ。
誰かを守る事に、力を使いたいんだ。
なのに……。
「隊長殿、如何されました?」
隊長の様子をうかがいながら、隊員の1人が尋ねる。
それを受け、隊長が答える。
「いや、何でも無い。」
「心のお優しいあなたの事だ。これは、本意では無いのでしょう?」
その隊員は、続けて尋ねるも。
『それ以上は言うな』と、他の隊員から止めが入る。
隊員は、隊長に対し謝罪する。
「申し訳有りません、無粋でした。」
「気にするな。」
隊長がそう、声掛けすると。
隊は淡々と、前へ進むのだった。
隊長の【リンネ=スカイホーク】は。
当代一と謳われた、魔法剣士の少女。
その実力は、王の右腕にも成りうると言う。
この世界の7属性〔火水木金土+光闇〕の内、光と闇以外を自在に使いこなす。
その華麗な動きは、敵をも魅了した。
しかし、心の内はそうでは無い。
〔大臣に拾われた孤児〕として育ち。
人を守りたくて修行し、力を付けた。
人の役に立ちたかっただけ。
なのに、今は暗殺へと向かっている。
幼気な少女には、荷が重過ぎる指令だった。
その頃、アンネの町では。
慌ただしさが、町中を駆け巡っていた。
「食料を持って来たぞ!何処に運べば良い!」
「町には簡単に入れるな!備えを!」
「俺達も、イオの役に立つんだ!」
マギクメギトが、何やら仕掛けて来るらしい。
教会から知らせを受けた町長は、議会を開いて策を練った。
イオは『大丈夫』と言ったのだが。
『自分達でも、出来るだけの事はしよう』と議会は決め、住民に協力を願い出た。
日頃からイオに世話になっていた住民は、喜んで引き受けた。
こうして町は、1つになった。
一方、アンナの町に隣接する土地の領主は。
静かに情勢を見守っていた。
事と次第によっては、どちらに付くか考えなくてはならない。
『自分は民を守る義務が有る』、その自覚はあった。
でも心の何処かでは、イオの勝利を願っていた。
そうこうして。
町が一丸となって、備えを急いでいる中。
イオはイオで、いつも通りだった。
「あのー、町の人達が騒いでますけど……。」
アーシェはイオに、そう話し掛けるも。
イオは、気楽な感じを取り続けていた。
『大丈夫』と、イオの顔は。
自信に満ち溢れていた。
何日か経った夜。
リンネ達は、アンナの町の直ぐ近くまで来た。
早速魔法で、様子を探ってみると。
自分達の動きが相手方にバレたらしい、町は万全の防衛体制を敷いていた。
「迂闊には近付けませんね。」
隊員の1人が輪廻に言う。
こちらは7人の小隊、動きは身軽。
固まって行動すれば、難なく突破出来そうだが。
それでは相手に気付かれて、暗殺どころでは無くなる。
リンネが皆に命ずる。
「バラけて動くぞ。魔法で思念を繋いで、やり取り出来る様にしておけ。」
「承知しました。」
隊員達は、そう返事をして。
各自町を包囲する様に、拡散して行った。
バラけてから、数分後。
《何だ!》 《うわぁ!》 《ひいいぃぃ!》
次々と、隊員の思念が途絶えて行く。
何が起きている?
リンネが原因を探ろうとした、その時。
「やあ。あんたがリーダーか。」
……!
気配も無しにイオが突然、リンネの目の前に現れた。
呆気に取られるも、直ぐに戦闘態勢を取る。
それを見て、イオが言う。
「何だ、こっちの話を聞く気は無いのか?」
「話だと?」
「そうだよ。このまま黙って、引き下がってくれないか?」
「そんな事出来るか!」
ターゲットを目前に見据えても、尚も強がるリンネ。
そんな彼女に、イオはこう告げる。
「恩義の有る大臣は裏切れないと?自分の信念を曲げてもか?」
……何故それを!
唖然とし、心の中でそう呟くリンネ。
それに構わず、イオは続ける。
「あんたの事を、俺は何でも知っている。孤児だった事も、人を守る為に力を振るいたい事も。」
「戯言を!」
「戯言?本当にそうか?」
「そ、それは……。」
イオの問いに、リンネの思考が一瞬停止する。
しかし、その一瞬で切り替えた。
「お前を倒さねば、国の民が苦しむ!覚悟!」
そう言ってリンネは、魔法を発動させた。
〔右足に水を〕、〔左足に炎を〕、〔右手に木を〕、〔左手と盾に土を〕、〔剣に金を〕。
「行くぞっ!」
リンネは『ギュンッ!』と素早く、イオの前へ移動する。
と同時に、左足で胴体へキックを。
剣で頭へ斬撃を、仕掛けようとする。
しかし。
シュンッ!
イオがリンネの目の前から、突如居なくなったと同時に。
背中をドンッと押されたリンネ。
「なにをっ!」
今度は、右足で頭を蹴落とそうとすると同時に。
右手から木の枝を鋭く伸ばして、胸元を突き刺そうとする。
その瞬間、またしてもイオは。
目の前から居なくなって、リンネは頭をポンと叩かれた。
イライラして来たリンネは、イオに向かって叫ぶ。
「舐めているのか!戦士なら、堂々と勝負しろ!」
「俺は戦士じゃ無い。だからそんな事、知ったこっちゃない。」
「くそう!こうなったら意地でも!」
《土+木=毒!》
リンネは属性を組み合わせる事で、状態異常の魔法も使えるのだ。
でも出来るだけ、人相手には使いたく無かった。
『目的を達成する為には仕方が無い』、そう割り切った。
「毒の剣を!食らえええぇぇぇ!」
パシッ。
イオは剣を、左手一本で軽々と受け止める。
『自ら毒を食らった』、リンネにはそう見えた。
しかしイオは平然としながら、リンネに告げる。
「悪いな、その手の類も効かないんだ。」
イオの発言後、直ぐに。
《だ、大丈夫ですか!隊長!》
途切れていた隊員の思念が復活した。
リンネは皆に直ぐ様呼び掛ける。
《お前達!無事か!》
《はい!一瞬の事でした……。》
《圧倒されました……。我々では、最早太刀打ち出来ません!》
《せめて、隊長だけでも逃げて下さい!》
隊員達の悲痛な叫びに、リンネは。
《そんな事出来るか!みんなで国に帰るんだ!》
《我々が時間を稼ぎます!早く!》
その直後、隊員達からの思念が一瞬途絶えたかと思うと。
アンネの町の空に、どす黒い雲が広がる。
町の人々は驚いて、外に出て来たが。
誰かが叫んだ。
「危ない!雷の全体魔法が発動するぞ!」
その声に、慌てて皆はな家の中へ避難する。
そして身を屈め、必死になって女神に祈った。
「どうか、我々をお救い下さい!どうか……!」
《早く!》
《出来ない!それにそんな事をしたら、町が……!》
《責は我々が負います!どうか御無事で!》
隊員の、その言葉を最後に。
思念が完全に途絶える。
そして空全体に立ち込める雷雲から、雷の全体魔法が発動した。
筈だった。
「……何も起きないぞ?」
「不発か?」
町の人達は驚くと共に、ホッとした。
隊員達の思念が、《何故だ!》との一言から復活する。
すると。
《俺のせいに決まってるだろ。》
イオが、思念の通信網へ割り込んだ。
冷静な口調でイオは、隊員達にこう明かす。
《町に対して魔法が使えない様、予め【魔法を無効化するトラップ】を仕掛けておいた。何をしようとしても無駄だ。》
《何てこった!そんな事も出来るのか!》
《出来るよ。無効化も反射もな。何なら、己自身で体験してみるか?》
イオにそう言われて、隊員達は魔法の発動を解いた。
その一瞬。
リンネの剣が、イオの首を捉える。
が、刎ね上げる寸前で止めた。
リンネが必死の形相で、イオへ叫ぶ。
「何故避けない!」
「殺気が感じられないからな。元々、攻撃のつもりじゃ無かったんだろ?」
「くっ!」
リンネは観念して、魔法を解くと。
その場にガクッと崩れ落ちた。
「さて。どうするか、ね。」
暗殺と言う状況は、これで収まった。
イオは少し考えると『しょうが無い、こうするか』と呟く。
すると、隊員達は目を丸くした。
彼等の前に、国で帰りを待っている筈の家族が現れたのだ。
イオは、隊員達に告げる。
「俺を討ちそこなったから、国には帰れない。でも家族が心配。なら家族毎、アンナの町に移住すれば良い。」
え? 良いのか?
隊員達は動揺する。
しかし、目の前に居る家族の顔を見ると。
皆決心し、移住する道を選んだ。
イオはリンネに、右手を差し出しながら言う。
「お前も来いよ。」
「わ、私は……。」
リンネは迷うが、イオがその背中を押す。
「隊員達を守れるのは、お前だけなんだぜ?他でも無い、【お前だけ】が出来るんだ。」
「私だけ……。」
リンネは、イオの言葉に心を動かされた。
『ならば』とリンネは、或る事を1つイオに願い出る。
「隊員のこの町での権利を、保障してやってくれ。」
「任せろ。その代わり、ちゃんと彼等の身を守ってやるんだぞ?《お前は、俺が守ってやるから》。」
その言葉を聞いて、リンネは子供の様に泣きじゃくった。
そして、温かい何かに包まれている気がした。
「と言う訳だ。宜しく頼むよ。」
イオの紹介で、隊員達は。
アンナの町へ引き取られた。
警戒する住民も居たが。
イオから直々に説得され、それを受け入れた。
隊員達は町の人達に心から謝り、この町に貢献する事を誓った。
そして。
「だからって、ここに住まわせる事は無いでしょう!」
アーシェがイオに、不満を漏らす。
リンネは、イオの家に同居する事となったのだが。
ア-シェは、リンネが嫌なのでは無く。
イオと2人きりで無くなるのが嫌だったのだ。
「済まない。出来るだけ、迷惑は掛けない様にする。」
深々と頭を下げるリンネ。
『そう言う事だから、仲良くしろよ?』と、イオがアーシェに笑い掛ける。
「べ、別に怒ってなんて……。」
そう呟きながらも。
『私の気持ちを知ってる癖に!』と、心の中で拗ねるアーシェ。
アーシェとイオのやり取りを見て、ふとリンネは思った。
『ずっとイオの傍に居たい』と。
これが、リンネの初恋だった。