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始まり、終わって、再び……

「ご苦労だったね。上がって良いよ。」


「分かりました。」


 あれから、3年が経った。

 イオはずっと、さびれたこの町で隠れ住んでいる。

 力を持った自分が、あの世界に旅立って。

 こそこそする必要が無くなった後も、ここに残っていた。

 今は農家に居候しながら、農作業の手伝いをして日々暮らしている。

 居候先の老夫婦は、自分の事を。

 孫の様に慕ってくれる。

 そんな生活をしていたら、愛着が湧いて離れられなくなるのも当然。

 でもイオは、満足していた。

 こんな生活の方が、自分には性に合っている。

 そう考えていた。




 たま々、老夫婦のお使いで。

 近くの大きな街に出掛けた時の事。

 見覚えの有る、大きな鏡を見つけた。

 何故か、彼女達との日々が懐かしく感じ。

 格安な事も有って、ついでに買って帰った。

 そして、自分の部屋の壁に。

 何気無く立て掛けた。




 夕食の後、風呂から上がって。

 その鏡をボーッと眺めているイオ。

 そういや、あの時のゲートに似てるな……。

 まあ、どうしようも無いけど。

 そう考えていると、突然。

 鏡が光り出した。

 何だよ、まぶしいなあ。

 イオが、目に入る光を手で遮ると。

 鏡の中から、見覚えの有る女性達が現れた。




『やっと……見つけた!』




 そう言うと、女性達は。

 ガバッとイオに抱き付いた。


「お前達は……!」


「イオが言ったんじゃない!《迎えに来い》って!」

「長かった……本当に長かった……!」

「もう離さないんだからね!」


「エリカ……リンネ……アイ……。」


 確かに、彼女達だった。

 姿は、以前よりも大人びていたが。


「どうしたんだい?何か騒がしいけど?」


 イオの部屋から、いきなり大きな物音がしたので。

 心配した老夫婦が、様子を見にやって来た。

 イオは何とか誤魔化そうと、老夫婦へ適当な事を言う。


「済みません。ちょっと急に、知り合いが尋ねて来まして……。」


「おや、それは気付かなんだ。申し訳無いねえ。」


「いえ、静かにしますので……。」


「良いよ。あんたの事だ、過去に関係が有るんだろう?これまで一切、話さなかったから。」


御見逸おみそれしました』と、深く頭を下げるイオ。

 老夫婦はチラッと、部屋の中を覗くと。

 そこで見えた影達に、声を掛ける。


「お客人、ゆっくりして行きなされ。」


 老夫婦は、イオへ気を遣う様に。

 自分達への部屋へと下がった。

 その背中を見送りながら、彼女達は呟く。


「優しそうな人達だね。」

「ああ。何と無く、イオが今どう言った生活をしているか分かったよ。」

「幸せそうで良かった……。」


 アイは泣き出しそうだった。

 そんな彼女を見ながら、リンネが。


「アイが一番頑張ったからな。イオからも、褒めてやってくれ。」


 そしてリンネは、これまでの事を語り始めた。




 鏡は、その機能を失ってはいなかった。

 そこでアイは、考えた。

 キメラがった様に、自分達も。

 イオの居る世界を見つけ出して、そこに同じ装置を送れば良い。

 装置自体は、1年程で作れた。

 イオの世界も、多数存在する世界から幾つかに絞り込む事が出来た。

 でもそこからは、どうしても分からない。

 そこで鏡に、候補の世界を彷徨さまよわせる事にした。

 イオが見つけたら、反応する様に細工して。

『彼の下まで届きます様に』との気持ちを込め、それを送り出した。

 2年が経過して、初めて鏡が反応した。

『近くにイオが居る』、そう考えて。

 粘り強く、鏡を監視した。

 反応は段々と強くなり、とうとうイオを認識した。

 それが、《今日》だった。

 亜空間に耐えられる、専用の船も作った。

 小型でしか、まだ渡航を再現出来ず。

 5人乗るのがやっとだが。

 3人は慌てて乗り込み、早速イオへ会いに来たのだ。

 この時を、どれだけ待ち望んだか。

 今の彼女達を見れば、明らかだった。




「そうか。頑張ったんだな。ありがとう。」


 イオは、深々とお辞儀するも。

 申し訳無さそうに、こう言った。


「でも、済まない。俺は、〔ここで暮らす〕って決めたんだ。お前達の世界には行けない。」


「そう言うと思ったよ。」


 リンネはそう返事する。

 3人も、覚悟を決めて来たらしい。


「来てくれなくても良い。一目会って、どうしても伝えたい事があったんだ。」


 3人は顔を見合わせて、イオの方を向き直る。

 恥ずかしそうな、キリリと引き締まった様な。

 不思議な表情を見せながら。

 そして3人は同時に、同じ言葉を発する。




 好きです……。




「やっと言えたあ。」

「む、胸の鼓動が……。」

「あんだけ練習したのにね。」


 〔少女〕から〔女性〕に変わった彼女達を見て、イオは思った。

 たくましく、々しくなった。

 俺は、本当に用済みらしいな……。


「そうそう。まだ言って無かった事が有るんだ。」


 アイがイオへ打ち明ける。


「当分、厄介になるから。《最終工程》が終わるまで。」


 ……?

 イオには、アイの言う事が分からなかった。

 アイは、説明を続ける。


「お兄ちゃんが、『私達の世界に来ない』って言うと思って。もう1つ、研究してたんだ。」


 直ぐにアイは、作業に取り掛かった。

 鏡の前でしゃがみ込んで、黙々と何かをしている。

 後は、エリカが補足を。


「アイって凄いんだよ。この鏡と、私達の世界の鏡を〔直接繋ぐ〕んだって!」


「そうすれば、行き来は自由だからな。何時いつでも会いに来れる。」


 リンネがそう付け加える。

 なるほど、そう言う事か……。

 それでようやく、イオは理解出来た。

 彼女達は、自分をまだ必要としてくれているんだ。

 でもこちらでも、事情が変わって。

 彼女達の世界へ、気軽に旅立てなくなっているかも知れない。

 だから、2つの世界を繋ぐ事にしたんだ。

 イオは、彼女達の気遣いが。

 心から嬉しかった。


「アイ。作業を一時中断してくれ。ここの家主へ、きちんと挨拶しに行くぞ。」


 リンネが促す。

 それを受け、アイも立ち上がる。


「それもそうか。はっきり説明しなきゃだもんね。」


「美味しい物、食べられるかなあ。」


 安心したからか、急におなかがいたエリカ。

『そう言う事なら、俺が案内するよ』と。

 イオが、部屋の外へ手招きする。

 彼女達は嬉しそうに、イオの後へ付いて行った。




 かつて、そうしていた様に。

 4人の動きは、自然だった。

 この絆は、誰にも断ち切れない。

 例え、世界をまたごうとも。




 アイ達が説明すると、老夫婦は快諾してくれた。

 難しい事は良く分からなかったが。

『イオの為に何かをする』、その必死さだけは伝わって来た。

 そこまでしたい何かが有るのなら、拒絶する理由など無い。

 寧ろ彼が、それで笑顔になるのなら……。

 心の底から笑顔を見せるイオは、初めてだった。

 老夫婦は、それが単純に嬉しかったと同時に。

 新しい孫が、一遍いっぺんに3人も増えた気がした。




「本当は、王から。『跡を継いでくれないか』と言われたんだ。」

「でも、イオの方を選んだの。王様も分かってくれたよ。」


 軽く談笑する4人、その流れでイオは。


「良いのか、俺で?もう、力も何も無いんだぞ?」


 思わず、そう言ってしまったが。

 3人は声を揃えて、こう答えた。


 《あなたじゃなきゃ、ダメなんだよ。》

 《あなただから、良いんだよ。》


 そうか、これは〔始まり〕なんだな。

 俺の、新たなる人生の……。

 3人の言葉から、イオはそう感じ取った。







 このお話は、ここまで。

 彼等の事はもう、そっとしておこう。

 それが、お互いの幸せに繋がる筈だから。


短い間でしたが、ありがとうございました。

これにて完結です。

他の作品も読んでいただけると嬉しいです。

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