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運命の辿り着いた先

 今、何て……?

 さよなら……?


「何言ってるの!分かんないよ!全っ然分かんない!」


 エリカが初めて、声を荒げた。

 あの、明るさが取り柄のエリカがこうだ。

 後の2人も、怒りと悲しみがごちゃ混ぜになっていた。


「私達を見捨てると言うのか!」

「お別れなんて嫌だよ!お兄ちゃん!」


「奴は、自ら生み出した亜空間に入ろうとしている。その先で起こそうとする事を、止めないといけない。俺には、その義務が有るんだ。」


 イオは諭す様に言ったが、3人はがんとして聞かない。


「おかしい!何でイオだけなんだ!」

「私達も一緒じゃないのっ!」


「鏡の中の亜空間は、普通の人では無理なんです!分解してしまうんです!」


 アーシェが、なだめる様に言った。

 それを受けて、イオは。

 少しうつむいたまま、悲しそうに呟く。


「俺がこの時、この世界から居なくなるのは。《必然》なんだ。」


「一番り切れないのは、イオなんですよ!分かってるでしょう!」


 アーシェが、涙を浮かべながら。

 3人をにらみ付けた。


「それでも、一緒に……!」


 尚もすがり付こうとする3人に対し。

 乱暴に言葉を叩き付けるアーシェ。


「別れが辛く無い人なんて居ますか!彼を《人》と認めたんじゃないんですか!」


 感情的にそう怒鳴るアーシェを、イオは制する。

 改めてイオは、3人へ告げる。


「『分かってくれ』なんて言わない。この先、俺からは。この世界に来る事は出来なくなる。だから……。」


 イオのその言葉を、最後まで聞いて。

 3人はこれ以上、引き留めようとはしなかった。

 それが自分達には《出来る》と、イオは確信していたから。




「座標軸……固定。……突……入!」


 そう言って、キメラの青年は。

 亜空間へ入って行った。

 イオが叫ぶ。


「追うぞ、アーシェ!いや、【創造の女神】!お前の力が必要だ!」


「はい、分かっています!私が招いた事態ですから!」


 すると、2人は。

 光の玉となって、亜空間へ突入した。

 やっぱりそうか……。

 3人は思った。

 アーシェが特別扱いされる訳。

 彼女もまた、《人》では無かったのだ。




「済みません。あなただけに、嫌な役を押し付けてしまって……。」


「良いんだ。最初にこの世界を《スキャン》した時から、全て分かってたからな。」


「私の正体も?」


「当然。それで事情も呑み込めたしな。」


 亜空間を移動している刹那、アーシェとイオが交わしたやり取り。

 アーシェにとっては、いとおしい一瞬。

 アーシェ、いや創造の女神にとっても。

 イオは、掛け替えの無い存在になっていた。

 別れたく無い、でも。

 これも、女神の役目。

 気持ちを、そう納得させるしか無かった。


「出るぞ!」


 イオとアーシェが、亜空間を出たその先。

 それは事も有ろうに、【イオが元居た世界】だった。




 幹部達は、常々考えていた。

 イオはどうやら、生まれついて力を持っていたのでは無いらしい。

 ならば、力を獲得する前に抹殺してしまえば良い。

 問題は、〔イオが元居た世界の特定〕と〔どうやってその世界に移動するか〕だ。

 そして魔法・超能力・科学の総力を結集して出来たのが、この鏡型ゲート。

 〔キメラになれば、亜空間でも耐えられる〕との試算が出ていた。

 しかしそれは、人間をめる事に繋がる。

 流石の幹部達も、これは最終手段と判断した。

 出来れば、使いたく無かった。

 それを、『負けを認めたくない』と言うプライドが上回った。

 キメラは。

 そのプライドのみを残した、異形の者となった。

 今は、執念のみで動いていた。




「居……た!」


 キメラは、この世界のイオを。

 まだ力を持たない救世主を見つけた。

 それは、イオ達も同時だった。

 イオには、力を授かった時の記憶が有る。

 彼は、今何をすべきか分かっていた。


「こ……ろす!」


 キメラは、この時間のイオの前へ瞬間移動。

 正に、自分自身に。

 命の危機が迫っていた。


「今です!」


 アーシェがそう言って、イオの手を取ると。

 イオは大声で叫んだ。


「俺の力を《移譲》する!」


 その瞬間イオは、〔救世主〕から〔1人の人間〕へと戻った。




 事態に混乱する、この時間のイオ。

 突然、異常な力が備わり。

 同時に、目の前へ現れた化物が。

 自分の命を刈り取ろうとしていた。

 アーシェは、おびえるその心に向かって叫んだ。


 《死にたくなかったら、とっとと力を開放しなさい!》


「や……った!」


 キメラが腕を振り下ろした瞬間。




「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁ!」




 この時間のイオが、言われるままに力を開放。

 フルパワーだった。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁ……!」


 キメラの後ろに、亜空間への入り口が生まれ。

 その中に、無理やり吹っ飛ばされた。

 そしてパッと、空間が閉じた。




 亜空間が生まれたのは、アーシェの後ろにもだった。


「私は。これを利用して、元の世界に帰ります。お世話になりました……!」


 アーシェは、最大限の笑みを浮かべた。

 しかし直ぐに、涙でグシャグシャになっていた。


「やっと、本当の意味で楽になれるよ。ありがとう。」


 イオの心は、充実感で一杯だった。

 そんなイオを、そっと地上に降ろすと。

 アーシェは、亜空間に飲み込まれて行った。

 残されたイオへ、精一杯手を振りながら。

 そして、アーシェ側の亜空間も

 スポッと閉じた。




 2か所で同時に、空間の変動。

 その反動で、星は揺り動かされた。

 それが、【大災害】の正体だった。




 一時的とは言え、同じ世界に同じ人間が存在する。

 なので、矛盾を起こさない為に。

 力を授かった方のイオが、あの世界へ旅立つまで。

 力を失ったイオは、隠れ住まなければならなかった。

 そして無事に、片方のイオは去り。

 片方のイオは残った。




 キメラがどうなったかは、定かでは無い。

 しかし、どの世界にも存在しないのは確かだった。

 1次元に跳んだのか、6次元に跳んだのか。

 どの道、直ぐに朽ち果てる運命だった。




「彼は、その力を〔昔の自分〕に託して。ただの人へと戻りました。」


 自分の世界へ帰り付いたアーシェは。

 残っていた3人に、事の次第を報告した。

 3人は、抱き合って泣いていた。

 そしてそのまま、その場に崩れ落ちた。

 一頻ひとしきり泣いた後、3人は。

 アーシェに非礼を詫びた。

 彼女は気にしていない、寧ろ彼女の方が謝った。


「私が与えた力ですから。それに、私自らが動く訳には行きませんでした。」


 自分の代わりに、この世界を正してくれる者。

 イオはわば、自分の分身。

 そう、アーシェは語った。


「私の役目は終わりました。後は、あなた達の手で……。」


 アーシェはフワリと浮き上がると、天空に去って行った。

 その直後、天から。

 アーシェの声が、3人には聞こえた。


 《私は上から、見守っていますよ。》

 《何時いつでも、あなた達の傍に居ます。》

 《だから悲しまないで、忘れないで。》

 《どうか。どうか……。》




 これから世界は、混沌に包まれるだろう。

 でも、それはやがて結晶へと変わる。

 《絆》と言う名の、鮮やかな輝きを放って。




 リンネとエリカ、そしてアイは。

 イオが残した最後の言葉を胸に、動き出していた。

 その〔言葉〕とは。


 《俺からは、この世界に来る事は出来なくなる。だから……。》

 《お前達から迎えに来て欲しい。まあこれも、決定事項だがな。》


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