王達との戯れ
「こんな場所で、申し訳有りません。」
イオは恐縮した。
今日は、3人の王とイオとの極秘会談。
バレる訳には行かなかったので。
防音設備の整っている、地下の特訓場が会場として選ばれた。
「いや、こちらこそ。この様な機会を設けて頂き、感謝する。」
3人の王は深々と頭を下げた。
『早速本題に入ろうか』と魔法の王〔M〕は切り出した。
『ご存知の通り、我々はそれぞれの国の中でも特殊でな』と、超能力の王〔E〕。
『国民には無い力を、それぞれ継承しているのだ』と、科学の王〔S〕が続ける。
ここからは分かり易い様に、以下の様な記述で。
M:「私は、光と闇の魔法を。」
E:「私は、未来予知を。」
S:「私は、サイボーグ化した体を。」
「なるほど。」
イオには3人の王がそれぞれ、自分の親位の年齢に見えたが。
力は、相当な物を感じ取っていた。
E:「我々はその強大過ぎる力故に、自分から戦に出るのを禁じたのだ。」
S:「でないと、世界が破滅してしまう恐れが有ったからな。」
M:「だから、三者がこうして面と向かうのは。王になった後には無かったのだ。」
S:「しかし、そなたが現れた。我々より強大な力を持ち、我々より軽やかに動ける者が。」
M:「勝手なお願いだが、そなたにこの世界を救って頂きたい。」
E:「我々は、国の動きを見張る役目が有る。直接動く訳には行かんのだ。」
「まあ、その為に。俺も、この世界へ来た訳ですから。」
イオが3人に、そう応じる。
「お心遣い、感謝する。」
王達はまた、頭を下げた。
緊張した面持ちで列席している、少女達。
嫌な予感がしていた。
「それはそうと、別の要件も有るのでしょう?」
ニヤリとするイオ。
『お見通しとは、話が早い』と呟きながら、Eが。
「そう、こちらの方が。我々にとって本題なのだが……。」
続けてEは、イオへ言った。
「全力で、お相手願おうか。」
……!
『そんな事したら、世界が破滅する』って言った矢先なのに!
少女達はオロオロしていた。
ただイオは、淡々と。
「分かります。長い間、自分の実力を測る相手が居なかったのでしょう?喜んでお相手しましょう。」
そう言って、イオは。
両手を天に掲げた。
すると、特訓場の大きさが10倍に広がった。
『流石だな、こう容易く空間をいじれるとは』と、Mは感嘆した。
『それでこそ、戦い甲斐が有ると言うもの』と、Sは喜びに打ち震えていた。
『では、参る!』との、Eの叫びと共に。
王達はイオに挑み掛かった。
少女達は、隅でひたすら。
イオの無事を祈っていた。
戦いは、呆気無い物だった。
Mが光と闇の魔法を発動させるも、その瞬間イオに掻き消された。
Eの未来予知は、イオへの攻撃がどうしても自分に跳ね返る未来しか見えなく。
未来を変える事も出来ずに、その通り遣られた。
高い火力と素早い動きで撹乱しようとするEも、イオに悉く回り込まれ。
逆に、スクラップ同然となった。
強大な力を持つ筈の王達が、こんなに脆く敗れ去る。
少女達には、刺激が強過ぎた。
イオは正に、《神》其の物に見えた。
心の中は、恐れと共に憧れ。
そして、そこには。
ボロ雑巾の様な姿の王達と、汚れ1つ付いていないイオの姿が有った。
「遣り過ぎましたかね?」
そう言って、イオは。
王達の体を一瞬で修復した。
「いやはや、参った参った。」
「こんなにあっさり瞬殺されるとは。」
「民には見せられたものでは無いな。」
敗れ去ったものの。
王達の顔には、充実感が有った。
「「「これなら、安心して任せられる。」」」
同時に発せられた王達の言葉からは、安堵感が漂っていた。
「少し休憩しましょうか。アーシェ、お茶とお菓子を。」
そうイオに言われて、慌てて走り出すアーシェ。
続けて、イオは。
「ついでなので、3人のコンビネーションも見て行って下さい。これからの参考になるでしょう。」
そしてチラッと、リンネ・エリカ・アイの方を見やる。
「ほう、それは楽しみだ。」
「どれだけ成長しているか。」
「確かに、平和が訪れた後の指針になりそうだ。」
王達の期待は、否応無しに高まる。
恐縮する3人だったが。
『イオや王達に、成長した自分を見て貰うチャンスだ!頑張ろう!』と、考えを切り替えた。
その頃、《ジャスティ》本部では。
着々と計画が進んでいた。
「あれとあれと。あと《あれ》もな。」
「これだけ揃えば、我等の勝利は確定だな。」
「いや、もう少し慎重でも良いのでは?」
幹部達のやり取りが続いていた。
それでも、エルベルは気懸かりだった。
これ位で、奴を葬る事が出来るだろうか?
何か、保険が必要だ。
そう考えているエルベルは、幹部に秘密で。
別の策を練っている様だった。
王達は、魔法・超能力・科学の融合を目の当たりにして。
『未来が楽しみだ』と感じながら、それぞれの国へ帰って行った。
彼女達が、未来のこの世界の有るべき姿だ。
3つの力が手を取り合って暮らす世界。
自分達の理想とする世界が、もう間も無くやって来る。
王達は、そう確信していた。
「張り切り過ぎだよー。」
エリカがへばっていた。
アイもヘトヘトで、こう漏らす。
「急にお兄ちゃんが、話を振るから……。」
「これ位出来ないでどうする?イオは手加減していたぞ、明らかに。」
リンネだけは、涼しい顔。
対照的な3人、その頭を。
『頑張ったな、偉い偉い』と、イオが撫で撫でする。
恥ずかしいけど、嬉しい3人。
羨ましそうに、じっと見つめるアーシェ。
その視線に気付いたのか、イオが言った。
「我慢してくれよ。お前には【大役】が有るだろ?」
3人は、何の事だか分からなかったが。
アーシェの、ギョッとして直ぐに引き締まった顔を見て。
感じた。
アーシェは〔何かを隠している〕。
それを知るのは、イオだけ。
何だろう?
不安が脳裏を過ぎったが、強引に頭の中から払い除けた。
私達は2人を信じる、それで良いじゃないか。
時が来たら、きっと打ち明けてくれる。
待とう、その時を。
3人がそう望む、《その時》が。
ひたひたと目前まで迫っていた。




