突然の来訪者
UHに関する、アイのレポートは。
まずは、科学の国〔ケミクシーエン〕の研究所及び王に報告され。
正式な承認を得た。
そこで改めて、全世界に発信された。
レポートは皆に驚きを持って迎えられ、中でもアンナの町の人達は仰天した。
力が無い訳では無い。
UH達がそれを自覚しただけでも、相当な進歩だった。
地下組織 《ジャスティ》にも、この情報は齎された。
困ったのは、幹部連中である。
レポートの内容が事実なら、計画に支障が出る大問題。
イオが住んでいるアンナの町は、UHで一杯。
つまり。
対魔法・対超能力の天然要塞の中に、救世主が居る事になる。
これでは、かなり攻め辛い。
計画を少々変更する必要が有った。
「アーシェ、留守の間は頼んだぞ。」
「直ぐ戻って来るからね。」
「えー、面倒臭いよー。」
リンネ・エリカ・アイは、それぞれの国の王に呼び出されていた。
UHを戦力に取り込むかの相談に加えて、自警団の結成についても問い合わせが来ていた。
《ジャスティ》のメンバーが、この頃露骨に動いている。
〔物資の強制供与〕や〔メンバーへの勧誘〕などが、段々エスカレートして来て。
民も、自衛の必要に駆られていた。
そこで。
戦闘に優れ、尚且つ違う力の者と交流の深い彼女達に。
アドバイスを求めて来たのだ。
「こちらは大丈夫です。安心してお戻り下さい。」
アーシェは3人へ、安心させる様にそう答えた。
3人は、後ろ髪を引かれる思いで。
各故郷へと戻って行った。
「何だか、急に静かになってしまいましたね。」
アーシェは、この時。
『イオとの距離を縮めるチャンスだ』と思っていた。
「そんな事は無いさ。直に【お客】が来る。」
そんな事を呟くイオは、何故か半笑いだった。
3人が故郷に戻ってから、5日後。
それは、突然やって来た。
シューーーーーーーッ!
空気を切り裂く様な音が、轟いたかと思うと。
ジュッッ!
イオの家を、ぶっといレーザーが襲った。
と同時に。
地下から『ゴツン!』と言う音が聞こえたと同時に、大きな揺れが家を襲う。
「な、何?何が起きてるの?」
アーシェは慌てたが、イオは至って冷静。
イオは思う、『来たか』と。
そして、玄関のドアをノックする音が。
アーシェが慌ててドアを開けると。
『シュンッ!』と、素早く何者かがアーシェに襲い掛かった。
バチンッ!
しかし、呆気無く跳ね返される。
「挨拶も無しに入って来るとは、【元大臣】らしからぬ所業だな。」
イオは冷たい口調で言うと。
呆然としているアーシェを、優しく抱きかかえる。
『これはご無礼をば』と、ドアから。
ひょろりとした体格の男が現れた。
その後ろから。
態度のデカい大人が3人、顔を出す。
「やはり、レーザー如きは効かぬか。」
「地下からドリルで破ろうとしたが、弾かれたぞ。」
「だから我が申したであろうが、その様な攻撃は通じぬと。」
「アーシェ、お茶でもお出しして。」
イオが告げるも。
最初にドアから姿を現した男が、それを制する。
「結構。今日は顔見せに伺ったまでなので。」
そして各自、自己紹介をし出す。
「私は《ジャスティ》のリーダー、〔フォリュント=エルベル〕と申します。お見知り置きを。」
「〔ゾハース=メリル〕だ。あの熱さは忘れんぞ!」
「我は〔アイクシール=トエル〕である。岩の痛みを返しに来た!」
「〔フチェラスカ=ホマルダ〕。顔合わせは2度目だな。よくもあの時!」
頭がカッカ来ている3人を、エルベルが諫めた。
「力試しは、さっき行ったでしょう?それに、正攻法では勝てない事位ご承知の筈。」
エルベルにそう言われて、3人はスッと引っ込む。
「顔見せだけではあるまいに。《宣戦布告》しに来たんだろう?」
イオはフッと、溜息を洩らした。
……!
アーシェは再び、唖然とする。
敵の幹部が揃って、顔出しに来るなんて。
しかも、みんなが居ない時に。
イオもイオだ。
何故そう、平然として居られるの?
アーシェの頭の上は、〔?〕だらけだった。
頷きながら、エルベルがイオへ言う。
「直接会って、あなたの技量を確かめたかったので。確かにこれは、敵わない訳だ。」
「だから早く、【あれ】をだな……!」
ホマルダが言い掛けた時。
メリルが遮る。
「ここでバラしてどうする!」
「全くだ。《あれ》は、これからのお楽しみなのだぞ?」
トエルも同調する。
彼等に対して、イオは。
「『何か企んでいるな?』と言いたい所だが……。」
そこまで言うと、少々溜めを作って。
意外な言葉を発した。
「早く完成させろよ。こっちは《待ってる》んだからな。退屈凌ぎになるし。」
まるで、何を作っているか丸分かりの様な口振り。
エルベルがイオへ言う。
「余裕ですね。」
「既定事項だからな。」
イオがあっさりと返す。
再びエルベルが挑発。
「あなたが負けるのも?」
「いや、この世界の歴史にそれは記されていない。在るのは、【お前達の消滅】だよ。」
イオが挑発し返した。
流石に、イオのこの言葉に我慢出来なかったのか。
幹部3人は激怒した。
「おのれ、言わせておけば……!」
「必ず後悔させてやろう!」
「楽しみに待つが良い。地獄を見せてやる!」
3人は息巻いたが、イオはお構い無し。
「はいはい。気楽だねえ、何も知らない人は。まあ、これも《予定通り》だけど。」
「もう良いでしょう、帰りますよ。それでは失礼。」
エルベルだけは冷静だった、表面上は。
そして4人は、本拠地へと帰って行った。
そのやり取りを、アーシェは。
冷や汗をかきながら見ていた。
4人が帰った後、ドキドキしながらイオへ言う。
「これからどうなるんでしょうか……。」
「どうもならないよ。言ったろ、《予定通り》だって。」
「お見通しなんですね。」
アーシェは妙に、イオが頼もしかった。
そこへイオが、こんな事を。
「まあ、元大臣達は。俺を殺しにかかってたけどな。何も出来ずにイライラしてたんだろう。」
「まあ!イオったら!」
イオにはびっくりさせられてばかりの、アーシェだった。
故郷から戻った、リンネ達3人は。
事の顛末をアーシェから聞かされて、体をガクガクさせていた。
まさか、正面から来るなんて!
それも、自分達が留守の間に!
悔しい、ひたすら悔しかった。
『まあまあ』とイオが宥めるも、気持ちが収まらない。
「お前達は国の為に動いていたんだから、無力では無いさ。」
イオにそう言われて、漸く3人は気を取り直した。
リンネがイオへ、とある事を告げる。
「王が、イオへの会談を申し出ている。引き受けてくれるか?」
「やっとか。こっちも待ってたよ。さあ、詳細を決めようか。」
イオの手のひらの上で、この世界が転がされている。
そう感じさせるやり取り。
こうして。
イオと3人の王の会談が、急遽セッティングされたのだった。




