自分らしさ 《Side:エリカ》
「あ、おねえちゃんだー!」
「あそぼー!」
教会付設の保育所に居るエリカ。
ここで遊んでいた子供が、うっかり飛ばした風船を。
偶々通り掛かって、取ってあげた。
その事が縁で、エリカは度々遊びに来ていた。
ここには、昼間仕事で忙しい主婦が子供を預けているのだ。
親に構って貰えなかったエリカにとって、子供達は。
『何処か境遇が似ている』と感じた。
唯一違う点。
子供達は、親に愛されている。
朝に預けられても、夕方には迎えが来る。
エリカには、その思い出が無い。
軍に入った時も、『厄介払いが出来た』と喜ばれた位だ。
その寂しさからか、理解者であるイオ達に甘えてばかり居た。
でも、それでは行けない。
リンネは、好きな人の為に変わろうとしていた。
ならば、自分も。
でないと、イオと一緒に居る意味が無い。
エリカは、そう感じていた。
「何か暗いけど、どうしたの?」
男の子から、声を掛けられたエリカ。
『ちょっと、ね』と返答するも。
「あ、好きな人の事でも考えてた?」
ブーーーーーッ!
女の子から直球を投げ付けられ、思わず吹き出すエリカ。
「そ、そんな事無いよ?」
そう言いながらも、目は虚ろ。
そこへ、他の女の子も乗っかって来た。
「へえ、やっぱりそうなんだ?」
「み、みんなはどうなの?」
必死に話を逸らそうとするエリカだが。
女の子達から返って来る答えは。
「ここに居る子は、ガキっぽくてねえ。」
その年で言うか!
突っ込みたくなるのを、一先ず我慢。
「恋人には、まだまだよねえ。」
「そうよねえ。」
主婦の井戸端会議みたいになって来た。
男の子達は、向こうで遊び始める。
女の子達は、こっちで恋愛話。
間を行き来しながら、子供達の会話ををうんうん聞いているエリカ。
大人を相手にしている時より、心が休まった。
「そう言えば、エリカの奴。最近、ぶつかって来なくなったな。」
イオは、ふと呟く。
対して、清々した感じのアイは。
「その方が、安心して実験出来るから。私は良いけどね。」
「寂しくも有るが、な。」
ポツリと、リンネ。
アーシェは、エリカの心中を察する。
「変わろうとしてるのでしょう、彼女も。」
「良い方へ向かってくれると、嬉しいんだけどな。」
イオの意見に同感の、3人だった。
「おねえちゃんも、こっちで遊ぼうぜ!」
エリカの傍に、男の子が寄って来た。
それに対して。
「ダメ!こっちでお話しするの!」
遮る女の子。
「まあまあ。ケンカしないの。」
両者に挟まれてエリカ、お姉さん振りを発揮。
顔色をうかがう必要の無い子供を、相手している内に。
エリカの心中で、変化が生まれていた。
いつも年上の中に囲まれていたせいで、自分を押さえていたエリカ。
でもここでは、自分が年長。
しっかりしないと行けない。
その責任感が、元々のムードメーカー振りと相まって。
仕切り役として機能していた。
《触れ合う》って、こう言う事なんだ。
エリカは、そう感じていた。
アンナの町へ来てからは。
解放感からか、イオ達に全力でぶつかっていた。
でも、自分の都合だけを押し付けては行けない。
適度な距離を保つ事が大事。
それが好きな人であっても。
人との向き合い方が、何と無く分かって来た気がした。
「そうそう、お母さんから聞いたんだけど。おねえちゃんって、強いんだって?」
男の子が、目をキラキラ輝かせて。
エリカに聞いて来た。
「何か、超能力の国でトップだったって。」
「そんな風には見えないけどなあ。」
失礼な子!でもまあ良いか。
男の子達に対して、エリカは。
「見かけで決め付けたらダメだぞ。めっ!」
それは、エリカ自身にも言える事だった。
本当の所は、腹を割って話さないとダメ。
でも、そう言った雰囲気に持って行くにはどうするか?
そこで、エリカは気付く。
……これだ!《私らしさ》って。
自分にしか出来ない事。
それは、〔場の雰囲気作り〕。
みんな仲良く、本音を言い合える場所を作る。
やっと見つけた、見つけたよ!
早く、皆に教えてあげたかった。
それからもエリカは、足繁く保育所に通った。
勉強を見てあげたり、話し相手になってあげたり。
すっかり子供達の輪に溶け込んでいた。
それを見ていた修道院の人達も、『彼女なら任せられる』と信頼を置いていた。
「エリカも、自分を見つけた様だな。」
イオはホッとしていた。
元々の素質は有ったのだ。
イオが指摘しても良かったのだが。
〔本人が自分で気付く〕、そちらの方が効果的だと分かっていたので。
敢えて言わなかった。
『エリカなら出来る』と信じていたから。
その期待に彼女は、立派に応えてくれた。
彼女はもう大丈夫だろう。
きっと。
「みんなに甘え過ぎてた。ごめんね。」
改めて、エリカは。
イオ達に謝罪した。
『分かったなら宜しい』と、アイは偉そう。
「まあ、ぶつかりたくなったら何時でも来い。この胸は、お前の為に空けといてやるよ。」
イオの、一見ぶっきらぼうな言葉が嬉しくて。
ついその場でぶつかりに行く、エリカ。
そんな彼女を見ながら。
みんな、お兄ちゃんの想像する《理想の姿》になって行ってる。
私も、置いてかれない様にしないと!
実は内心でかなり焦っている、アイなのだった。




