エリカ、頑張る!
「イーーオーー!ドーーーーーン!」
エリカのアタック。
それをヒラリと躱すイオ。
それでも尚、ドーーーン!
エリカはむぎゅっと、イオに顔を掴まれた。
『いたひ、いたひれす』と、もがくエリカだったが。
『悪いけど、暫く大人しくしていてくれ』とイオに言われて、ショボーン。
ここぞとばかりに、アイが揶揄う。
「わーい、怒られてやんの!」
「違うもーん!イオの愛情表現だもーん!」
アイの指摘を、即座に否定するエリカ。
そんな光景が、今や日常。
それでもエリカは、常に不安だった。
本当に、ここに居て良いのかな?
自分の気持ち、分かって貰えてるかな?
愛情表現が下手なエリカは、身体で示すしか無かった。
イオもそれは分かっていた。
だからエリカを、わざとぞんざいに扱うのだ。
〔お前にだけだぞ、こんな事をするのは〕と言う特別さを出す為に。
『必要とされている存在なんだ』と、イオはエリカに。
無言で訴えていた。
〔マギクメギトの大臣が失踪した〕との報は、全世界を駆け巡っていた。
『これは、世界が動く兆しだ』と、民は受け止め。
イオに付く事を公言する者が、現れ始める。
しかし他国は、それを押さ込もうとした。
そこで民は、イオと繋がりが有る教会を頼った。
ここなら、治外法権で守られる。
教会は、人で溢れ返りそうになった。
幸いにも。
領主の中からまで、イオに味方しようとする者は出て来たので。
民は、そこで匿われる事になった。
「我が国も、本格的に動く時が来た様だ。」
サイクスパーダの大臣、〔トエル卿〕は。
『メリル卿の二の轍は踏むまい』と、考えに考えていた。
まずは、アンナの町周辺で。
超能力の戦闘に向いている地形を探させた。
そしてそこに、エリカをおびき寄せる。
エリカがピンチになれば、救世主とやらも来ざるを得まい。
そこで、裏切り者も纏めて始末する。
その算段だった。
「或るスポットに行くと、超能力が強化されるんですって。」
噂好きのアーシェが、何処かから。
何やら不穏な情報をゲットして来た。
アーシェの話を聞いて、エリカは。
「本当?行ってみようかなー。」
強化出来るに越した事は無い。
私も、みんなの一員として認められたい。
エリカは、そんな事を考えていたが。
「罠だな。」
「罠だね。」
イオとリンネの意見は一致していた。
幾ら何でも都合が良過ぎる。
『サイクスパーダが、何やらきな臭い』と、教会から連絡を受けていた事もあった。
それでもエリカは、行く気満々だった。
「止めても無駄だからね!」
『止めなくて良いのか?』
リンネはイオに、小声で尋ねる。
イオの返事は。
『いや、行かせてやろう。何やら悩んでたみたいだし。』
『で、いざとなったら……か。』
エリカの気が晴れるなら、その通りに行動させてやるだけ。
イオは、そう考えていた。
出掛けようとするエリカに、『これを持って行って』と。
アイは或る物を、エリカに手渡した。
「特製の〔サイコボール〕。最小の念動力で、自由に動くから。もしもの時に使って。」
「ありがとう。行って来るね!」
エリカは元気に旅立った。
パワーアップして、みんなに認めて貰うんだ!
そう強く願いながら。
「ええと。話では確か、この辺の筈だけど……。」
深い峡谷へと、エリカは来ていた。
『目印の滝は……あ、有った!』と、急いで駆け寄るエリカ。
これで……!
「そこまでだ!この裏切り者!」
峡谷の上から、サイクスパーダの戦闘員が現れた。
ざっと200名程。
突然の事に、エリカは驚いた。
どうして感知できなかったんだろう?
そう、疑問に思いながら。
「な、何?」
「よくも祖国を売ってくれたな!」
「前から気に食わなかったんだ!」
有りっ丈の憎悪が、エリカを襲う。
必死に弁解するエリカ。
「ま、待って!私、国を売った覚えなんて無い!」
「救世主とやらと共に居るんだろう?同じ事だ!」
ここにも、トエル卿の仕込みの戦闘員。
トエル卿も、考える事はメリル卿と同じだった。
更に煽る、仕込み戦闘員。
「同志もどうせ、殺されてるんだろう!お前の裏切りで!」
「違う!私は守った!みんな無事よ!」
「聞く耳持たん!やれ!」
その号令で。
超能力者は一斉に、エリカへ襲い掛かった。
違うのに……仕方無い!
「アイ、使わせて貰うね。」
そう呟くと、エリカは。
サイコボールを放り上げた。
そして、ボールを操り撹乱しながら。
瞬間移動で戦闘員の前へと現れ、麻痺状態にして行く。
その動きは、前より格段に素早かった。
イオとリンネの特訓を見ながら、エリカも密かにイメージトレーニングをしていたのだ。
自分も何時か、みんなの役に立つ為に。
それを、同郷の仲間に対して使うなんて。
エリカは心苦しかった。
「みんなの分からず屋!ちゃんと私の話を聞いて!」
それでも尚、エリカは訴え続けていた。
自分を分かって貰う努力を、今度こそしたい。
その大切さを、イオが教えてくれたんだ。
きっと分かってくれる!
戦闘員を次々と倒しながら、説得を続けるエリカ。
一方で、仕込みの戦闘員は慌てていた。
ここまで、エリカの戦闘力が上がっているとは。
しかも、戦闘員達に話し掛けながら。
傷付けない様、麻痺を多用している。
以前には考えられなかった、エリカの行動。
この意志の強さは何だ?
何処から来ている?
そこで仕込みの戦闘員は、ふと思い付いた。
エリカの心を揺さぶる様に、彼女へ向けて叫ぶ。
「そう考えているのは、お前だけじゃないのか!」
「何ですって!」
「お前の周りは、本当にお前を理解してるのか?独り善がりじゃないのか!」
「そ、そんな事……。」
戸惑うエリカ。
しめた! 隙が出来た!
「抑え込め!」
仕込みの戦闘員が怒鳴る。
一斉に念動力者が力を発動させ、エリカの動きを封じ。
瞬間移動者が、エリカの上に覆い被さる。
エリカは余りの痛さに、抜け出そうと必死にもがく。
「そのままじっとしてろ!」
仕込みの戦闘員が叫んだ、その時。
空中から、声が。
《良くやった。》
「お褒めに預かり光栄です、大臣。」
仕込みの戦闘員は、謝辞を述べるが。
続けてトエル卿は。
《お前達は用済みだ!共に埋まるが良い!》
「何ですと!話が違うでは有りませんか!」
「あ奴を誘い出す為に、エリカを押さえるだけなのでは……!」
その会話を聞いて『しまった!』と、エリカは思った。
これは、イオをおびき寄せる餌だったんだ。
自分の事に必死になり過ぎて、反ってイオに迷惑を掛けてしまった。
ダメな子だね、私。
やっぱり自分の事、理解してなかった。
ごめん、ごめんね……。
悲しみの中エリカは、そんな事を考える。
その直後、峡谷がグラグラと揺れ出した。
大臣はこのまま、ここに居る全員を生き埋めにするつもりだ。
そう思った、仕込みの戦闘員は。
宙へ向かって、大声を上げる。
「裏切ったなあああああぁぁぁぁ!」
《国の為、いや我の為に!死ぬが良い!はははははははは!》
『もうダメ……』とエリカが諦めかけた、その時。
「今回はちゃんと努力したな。偉いぞ。」
……その声は!
明るい顔になるエリカ。
《もう遅いわ!潰れてしまえ!》
トエル卿がそう叫ぶと、『ドゴーン!』と峡谷が崩れる。
筈だった。
トエル卿が、峡谷の様子に驚く。
《……何っ!》
崩れかけた峡谷の欠片は、宙でピタッと止まっていた。
そして欠片は次々と浮き上がり、見る見る内に大きな岩の塊となった。
「エリカが成長したお祝いだ。遠慮無く受け取れ。」
イオがそう言い放つと。
塊はその場から、スッと消えた。
そして、トエル卿と言えば。
《よ、横から!ぐはあっ!》
それきり、トエル卿の声は響かなくなった。
「退いてくれないか。エリカが苦しんでる。」
イオがそう告げると。
呆気に取られていた戦闘員が、一斉にエリカから離れた。
遅れて、元暗殺者組の瞬間移動者達が駆け付けた。
「エリカ、大丈夫か!」
「この事を話したら、『付いて来る』って聞かなくてさ。」
サラッと説明するイオ。
エリカは、目を潤ませていた。
「みんな……。」
「本当に、生きていたのか……。」
エリカの下へ跳んで来た、曽ての仲間を見て。
そう漏らす、戦闘員達。
そこへイオが、こう言い添える。
「エリカが言ってただろ、『守った』って。もう少し信じても良いんじゃないか?【仲間】なんだから。」
「エリカ、済まない……。」
戦闘員達は皆、『信じて遣れなかった』と。
申し訳無さそうな顔だった。
無理やり笑顔を作って、エリカは答える。
「良いんだよ。分かってくれるなら。」
『さてと』と、イオは。
仕込みの戦闘員に向かって、ジトッとした声で言う。
「そこの吹っかけてた奴等、どうする?どうせ、大臣の口約束に乗っかったんだろう?」
「どうするも何も……。」
イオに問い掛けられて、仕込みの戦闘員達はただオロオロしている。
他の戦闘員に対して、イオが告げる。
「取り敢えず、国に帰んな。王の沙汰が下りるだろうが、お前達が不利になる事は無い筈だ。」
「イオが言うんだから、間違い無いよ!信じて!」
エリカのその言葉に、心を動かされた戦闘員達は。
素直に国へ戻って行った。
「伝えたよ!今度はちゃんと伝えたよ!」
「良かったな。ところで……。」
嬉しそうなエリカの頭を、イオは。
ゴツンッ!
「痛っ!」
「あのなあ。お前はもう、俺達の【家族】なんだぞ?みんなに心配掛けんなよ。」
イオに本気で怒られた。
「ホント?私、居ても良いの……?」
「《居ても良い》じゃ無くて、《居ないと困る》んだよ。全く。」
イオのその言葉に、エリカはホッとした。
居ても、良いんだ……。
安心した途端、張り詰めていた心の糸が切れ。
エリカは、イオの胸の中で号泣する。
超能力者の仲間達は、それを温かい目で見守っていた。
「どうだったー?」
帰って来たばかりのエリカに、アイが。
わざと、声を掛けて来た。
「みんな、ごめんね。」
ペコリと頭を下げるエリカ。
すっ呆けるリンカ。
「さて、何の事かな?」
「それよりー。お風呂とお食事、どっちにします?」
アーシェが聞いて来た。
『ご飯ーーーっ!』と、代わりにアイが返事。
『えへへー』と、照れ笑いのエリカ。
みんな、心が通じ合っていた。
国に帰った戦闘員達は、或る噂を耳にした。
大臣が急に大声を上げたかと思うと、突然横に現れた岩が大臣の身体を直撃。
何とか瞬間移動で、壁とのサンドイッチは免れたものの。
体に大きなダメージを負った。
フラフラになりながらも、王の下へ出向き。
事態を報告しようとする大臣。
しかし、王には分かっていた。
王だけには、未来予知の能力が備わっていたのだ。
数日先までしか見えないが。
独断で兵を動かし、しかも諸共抹殺しようとした。
その所業、許し難し。
王の命により、超能力が使えない特殊な牢屋へと入れられたのだが。
翌日、大臣は忽然と姿を消した。
一部の部下と共に。
それは王が望んだ、予定通りの行動だった。
噂を聞いた戦闘員は驚く。
「王は、大臣を追放なされたのか?」
「良い機会だと考えられたのだろう。皆、ほとほと愛想が尽きていたからな。」
「まあ、そうだな。」
『そのまま大人しくしていて欲しい』と、皆願っていた。
ドーーーーン!
エリカのアタック。
むんずと掴んで、止めるリンネ。
同居人は皆、エスカレートする〔エリカアタック〕に困っていた。
でも一方で、何処か嬉しそうだった。
する側も、される側も。
他愛も無い日常、何気無い日常。
『続くと良いな』と、エリカはこっそり思っていた。




