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第九話


 モンスリーン王国、王都モンスーン。ここは王国内でも最大の人口を誇っており、北側には2000m級の山々がそびえており、その山のいくつかには、高原があって貴族の避暑地とも知られている。


 また、その山の万年雪から流れる雪解け水によって王国のわずか西側から、さらに緩やかなカーブを描き、海に向かって流れる大河があり、その大河からわずかながら王都の地下を伝って、水が地下水と流れている。


 水質は精霊の加護のおかげか、かなり澄んでおり、この水を飲むだけでも価値があると近隣の国からやってくる観光客や商人に非常に人気がある。


 人口は約18万人の規模で、円を描くように街が作られており、その中心に地下水から出てきた少し大きめの泉があり、それを囲うように王宮がある。


 そこを中心に貴族街と平民の住む区画に分かれており、外側は当然ぐるりと高い壁に囲まれている。

 そして街のいたるところに井戸が掘られており、それが人々の生活用水となっている。

 

 水の街とも言われ、冬は氷の街とも言われている。シュタインハットと違い、石と木で組み合わせた建物が目立ち、青と白の色が良く目立つ。

 

 青色は水の色を、白色は雪の色を表しており、自然への信仰の深さがうかがえる。

 そこに公女殿下御一行が王都の兵に守られながら到着した。


 これは国王の計らいによるものだ。

 

 大公は確かに王国に属するものだが、ある意味国賓として扱われる。よって、王都の近くに大公女が来た場合、迎えの兵を出すように指示していたのだが、8日ほど前にシーヴの出した使いが、6日ほど前に王宮に到着し魔霊に襲われたという報告を受け慌てて兵を送り出したのだ。


 シュタインハットの街からエルネたちのことをしたためた手紙を持った使いが到着するのが約2日、兵を招集し送り出しシュタインハットの街に辿り着くのが約3日。そして、大公女がシュタインハットの街からここまで到着するのに約3日。

 

 これは兵が多くなれば個人で動くより行軍に時間がかかるため、行きと帰りでは時間がずれたのだ。


 そしてその一行には温泉でゆっくり疲れを癒せたエルネとフレードリクの姿も当然あった。


「おい、見ろ! エルネ! 王都に着いたぞ! 寝ている場合か! 何度か王宮からの招待でよくきていたのだが、以前より発展しているな。私の知らない建物もかなり増えている。だが、安心せよ。作り自体は以前と変わらぬ。私がしっかり案内してやるからな。こら! 聞いているのか?」

 

 馬車の中ではしゃぐ公女殿下に対して、エルネは連日この幼い大公女の相手をさせられて色々な意味で疲れているのだ。

 


 また、大公女であるシーヴの口調からも分かるとおり、すっかりと打ち解けているようでもある。

 それは、大公女殿下と同じ馬車に乗っていながら、居眠りしているエルネの態度からも分かるだろう。


 そしてそんなシーヴをたしなめるのも、やはりおなじみの黒髪を後ろで束ねている侍女であるクリスティーナの役目だ。


「シーヴ様、あまりはしゃいでは、大公女殿下としてのつつしみが疑われます。ご自重下さい」

 エルネとフレードリクが同乗しているのにもかかわらず、公女殿下ではなくシーヴと呼んだことが、また彼女もある程度、二人の少年と打ち解けている証拠だ。


『ずいぶんとお疲れだね、せっかく温泉で疲れを癒したのにね』

(そう思うなら話しかけないでくれよ……あのお姫様に散々付きまとわれて疲れているんだからさ……)

 ソードに話しかけられて、声を出すわけにも行かず、たぬき寝入りしながら、思考で会話するエルネ。


「ええい、クリスは少し厳しすぎるぞ。フレードリクもそう思うだろ?」

「いいえ、クリス殿の仰るとおりだと、私は考えます。下手に馬車で騒ぎますと、大公女殿下の魅力が損なわれますゆえ、ここは一つご自重くださるようお願いします」

 幾分か慣れたのか、多少堅いものの、フレードリクの言葉遣いも何処か、砕けてる部分が見受けられる。

 

 二人の従者からたしなめられ、不満そうにするも、少しだけシーヴは大人しくし始めた。


 そんな一行を、護衛兵約50名、王都から送り出された兵500名が軍隊用の王都の門をくぐり、街中を行く。


 当然、シュタインハットの時とは別の意味で人々から注目される。

 やがて、一行は貴族街を抜け、王宮に辿り着いた。


                ─────────────



 王宮に入った一行を待ち受けていたのは、この国の政治を司る文官のトップの宰相であった。


「おお! 大公女殿下、ご報告は聞きました。良くぞご無事でありましたな。いやはや、精霊のお導きによるものでしょう。ささ、旅の疲れもあるでしょうし、まずはこちらでご用意した部屋にておくつろぎ下さい。後に、使いのものをやり、陛下との謁見になります」 


 この宰相は赤と黒を基調とした礼服に身を包み、神官がするような長い帽子をかぶっていた。

 おそらく、これが彼の政治の場での服装なのだろう。

 すでに50は超えており、当然、大公の屋敷や、王宮からの催しがあった際に出席もしているのでシーヴとの面識もあるのだ。


 ベンディクスの姓を持ち、ヴィクセルとおなじように候の位をもっている人物の一人だ。

 そして当然、身分としては、大公女殿下に譲らなければならない。


「ベンディクス卿。久しいな。これから長い間こちらで世話になる。色々と不慣れなこともあるだろうがよろしく頼むぞ」

「はは、大公女殿下に心健やかに暮らしていただくため、出来る限りの手を尽くしますゆえ、どうか安心していただきたく思います。お付きの者もどうぞこちらに、部屋まではこちらのものが案内しますので」

 そういって後ろに控えていた、王宮の使用人に指示を出す。


「まて、ベンディクス卿。確かにクリスは私の侍女だが、この者たちは違う。報告したと思うが、黒髪の少年がエルネスティ・ヴィクセル、そして金髪の少年が、フレードリク・オートレームだ。私のお付きの者とは違う」 

 それを聞いてベンディクスが思わず目を見張るが、ある程度の事情を察して彼らに声をかけた。



「これは、失礼した。ヴィクセル、オートレーム。貴方達の活躍は聞いています。後ほど大公女殿下と同じように陛下との謁見があるので、その方たちも当てられた部屋で旅の疲れを癒すが良い」

 今度はエルネとフレードリクが驚いた。


「へ、陛下との謁見があるんですか?」

 思わず素の口調で話してしまうエルネ。


「当然だろう。大公女殿下をお救いなされたということで、陛下も大変興味を持っていらっしゃる。恐らく何らかのお言葉をかけられるだろうが、くれぐれも粗相のないようにな。まあヴィクセル家なら不要な心配だろうが。それでは大公女殿下、わたくしは仕事が残っていますゆえ、これで失礼させていただきます」

 最後はシーヴに一礼して、宰相は去っていった。


「では、我々も行こうかクリス。エルネ、フレードリクまた後でな」

 シーヴ一行もここで去っていき、エルネとフレードリクは自分達に当てられた使用人に案内されて、自分達に割り当てられた部屋に向かった。



               ───────────


 部屋でくつろいでいると、やがて使いのものが、エルネ達の部屋に来て、謁見の準備が整った旨を伝えに来た。

 最初フレードリクは従者に過ぎず、また準爵位の身であるゆえ、ここで待機しているということを言ったのだが、彼自身もまたシーヴを救った人物の一人として、国王が特別に謁見の許可をした。

 

 そうして二人は、使いのものの後に着いて行き、謁見の間へと向かう。

 

 彼らに割り当てられた部屋は、三の宮であり、ここは円を描くように作られた王宮の一番外側に当たる部分であり、普段はここを居として、王宮の警備兵の宿舎や、訓練の施設。その他に使用人たちが住んでいる。


 また、正門にあたる部分に近い場所には、他の国の使者などが泊まるための施設などがあり、隣国からの使者はここに泊まるのである。


 王宮の正門は、南側に位置しており、高い塀と、大きな門が設置されている。


 貴族街からこの門につながる道は軍隊が通れるような、60m以上の横幅のある赤い煉瓦の敷き詰められている道であり、また道の端にはこの地方で咲く草花が延々と門まで続いている。

 

 そして門をくぐると、まず目の付くのはあまりにも広い広大な空き地があり、その空き地はしっかりと整備されているだろうと思わせるような、緑の芝生が敷き詰められており、赤い煉瓦作りの道がそのままはるかかなたにある三の宮へと続いている。


 三の宮に近づくと、道の途中に職人が作ったと思われる噴水があり、そこには地下水から汲み上げられた青く澄んだ水が、日の光に反射してキラキラと輝いている。


 そして三の宮にの宮殿は、白を基調とした作りになっており、貴重なガラスである窓がふんだんに使われてて、窓には職人が施したと思われる細工がいくつも見受けられた。


 高さは中央が20mほどあり、5階近くの作りになっている。

 横に広がるにつれ、わずかに低くそして円を描くように二の宮、そして後宮や一の宮を囲んでいた。

 

 三の宮の背景から、青を基調とした建物の高い部分だけ、飛び出しているのが目に見える。恐らくあれが王族のプライベート空間にあたる一の宮なのだろう。


 そんな三の宮に割り当てられた部屋から、いくつもの長い廊下と角を曲がり、今度は二の宮へと続く中庭に出た。


 中庭にも、泉が沸いており、ここにも職人技術が発揮されているような作りの噴水があり、三の宮の庭と違って草花がふんだんに使われていた。

 泉の大きさもかなりのもので、三の宮の泉と比べて三回りほど大きく、逆に道は三の宮ほど広くは無く、せいぜい大人5人が横に広がればいっぱいというところだ。


 また長さとしては正門から三の宮ほどの長さではなく、200m前後というところだ。


 

 そして道幅は狭いものの、二の宮まで続く道が何本も三の宮から出ており、また途中でいくつも枝分かれしている。

 そして、その道と道の間には、ふんだんに使われた草花がそれを彩っており、見るものの目を大いに楽しませる。


 二の宮は、三の宮ほど高くはなく、赤を基調とした煉瓦作りの建物で、三の宮ほどの洗練さはないものの、どこか厳格なイメージがあり、作りはどちらかというと円よりは四角い感じで作られており、一の宮と後宮をこれまたぐるりと囲んでいる。


 そんな建物に二人の少年は緊張しながら入っていく。景色や王宮のあちこちにちりばめられた豪華な作りなど目に入らない。


 公の位を持つものであればまだしも、普通、候以下の位のものは成人していなければ、親と共に国王と謁見し、親が、これが我が息子になりますと引見するのが通例であるが、様々な事情でこの二人の少年はこの場にいるのだ。


 内心は冷や汗ものである。


「フレードリク準備は良いか?」

「そんなものあるわけ無いじゃないですか」

 なかなかに図太い神経を持っているフレードリクもかなり緊張している。


「まさかいきなり陛下との謁見だなんてな……正式叙勲されるまで無いと思っていたよ」

「こっちだって準爵位の身で陛下と謁見だなんて……全部エルネスティ様にお任せしますからね」

「お前、何逃げようとしているんだよ」

「当たり前じゃないですか。侯爵家のあなたならまだしも準爵位の俺が陛下の前で何を言えと? どうせお声がかかるのはエルネスティ様だけなんですから、俺は頭をずっと下に向けています」

「今だけ心の底から立場を変わってもらいたいよ……」 


 そんな二人の内心を知ってかしらずか謁見の間の扉が開かれた。


 二人の視界に入ったのは大きな広間に、水の色を思わせるような薄い青色の敷物。それが長く続いており、途中に階段がある部分で途切れている。


 ここからでは良く確認できないが、階段の先には一人の人物が座っており、その横には鎧を来た騎士の様な人物が一人ずつ左右に控えている。


 また階段のすぐ脇の左右にも二人の人物が控えていて、こちらは鎧を身につけず、文官の服を着ていた。 

 またそれ以外にも、この広間にいくつかの人物が見受けられるが、二人はそれらに注目している余裕など無い。


 内心で深く大きく息を吸い一歩踏み出した。



                ──────────


 王都の平民街にある一角。ここは回りに人家などが少なく、木などが多く植えられており、ちょっとした森林になっているような地区であり、ここにある建物に二人の人物がいた。


 この建物は見た目は木で出来ており、丸太などの素材で作られた作りとなっているが、大きさはかなりのものだ。


 しかし二階の部分が無く、天井はかなり高くなっているが、部屋もなく、入り口から入って目に付くのは大きな広間と、軽く敷き詰められた絨毯。それと中々の作りをしているベットのみで建物の立派さと比べると少しアンバランスな感じがする。


「よいか。すでに金は渡してあるのだ。必ず成功させるのだぞ」

 壮年という感じの声だ。その人物がもう一人の人物に声をかけた。


「まあ出来る限りやって見せますがね。すでに王宮に入ってしまっているんですよ? いくらなんでもあれじゃ手を出せませんよ」

 こちらはかなり若い声だ。


「そこを何とかするのがお前の役目だろうが! 金に糸目はつけん! 絶対に成功させろ!」

「ですがねえ……王宮には、こわーい人達がたくさんいますしねえ……特にヴィクセル一族なんてあそこまで厄介だと思いませんでしたよ。まったくせっかく集めた魔霊20体をのうち、一人で半分近く事に自然に帰すなんて有り得ませんよ。ろくに訓練すら受けていないってのに。ああいうのを才能って言うんですかね」

 若い人物が何処か、おちゃらけた様な口調で肩をすくめた。


「言い訳は良い。貴様はすでに一度失敗しているのだ。二度目は無いと思え」

 壮年のその人物の言葉を受けて、若い人物の目がキラリと光った。


「へえ、面白いことをおっしゃいますね。次に俺が失敗したらどうなるんです? 後学のために是非伺いたいですね」

 口調も雰囲気も全く変わらないが、若者からは何か危険なものが静かに体内を駆け巡っている。


「貴様を亡き者にする程度など簡単なことなのだぞ?」

 相手の危険を承知していながらこちらも負けてはいない。


「それじゃ試してみますか?」

 少しすつ危険が膨れ上がるが、すぐにそれは消えた。


「あーやめやめ。金が無いと食っていけないのはこっちも同じだしね。分かりました出来るだけ何とかしましょ」

「ふん、初めから素直にそう言えばいいのだ。良いか? 生かして必ずここへ連れてくるのだぞ? あの者たちなら口が堅いからな。お前の手のものとして使ってもかまわん」

 その壮年の人物の言葉に、若者はわずかに眉を寄せた。


「なんか条件が厳しくなってません? 生け捕りですか?」

「ふん。せっかく王都まで来たのだ。多少の挨拶をせねば失礼に当たる」

 壮年の男はそういって笑みを深めた。

 そして若者の男は肩をすくめながら建物を出た。

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