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第四話


 ブレンドレル大公領。ここは、モンスリーン王国王都から、南西に位置しており、ここからさらに南東にいけば、スフル山脈がそびえており、この山からは貴金属の採れる鉱山がある。また西側には港があり多くの商人でにぎわっておりかなりの発展をとげている。


 

 大公とは、その名の通り全ての貴族の上に立つ称号で、王族に一番近い貴族でもあり、たとえ王族でも時には、大公には一歩譲らなければならないが、この称号は少し特殊なのだ。


 

 もともと、先々代の王の弟が、受けた称号であり、この称号を継承できるのは直系の子供のみという制約があり、もし子供が途絶えた場合、すみやかに領地を返却し、その称号も返さなければならない。また王族に近いが、王位継承権はないのだ。


 

 よって、養子を取るなどして、家を継続させるのは不可であり、また庶子なども当然認められない。

 そのかわり、王国に納める税金などは全て免除されており、その権力はかなりのものだ。

 

 簡単に言ってしまえば、王国内にあるもう一つの国ということになる。

 そんな大公領の屋敷の一室でふたりの人物が会話をしていた。


 一人はもはや老年と言ってもいい年になっている人物で、白い口ひげを蓄えており、背はかなり高く、老年にもかかわらずピンとまっすぐに伸びており、中々の威厳がある。


 もう一人の人物はまだ少女という年頃で、この国には珍しい小麦色の肌を持ち、綺麗なアイスブルーの瞳とふわりとした印象を持つ銀色の髪を背中半ばまで伸ばしている人物だ。


 

 その少女にブレンドレル大公は声をかけた。

「シーヴや体には気をつけるのだぞ。よいか? 我々はその地位によって王都の貴族や王族達から疎まれておる。逆に我々から甘い蜜を吸おうと寄ってくる蜂達もおる。中には危険な毒針を持った蜂もいるだろう。周りの人間には充分注意するのだよ?」

「ええ、心得ておりますわ、お父様。大公女として、またこの領のためにも役目をきっちり果たしてごらんに入れます」

 

 シーヴと言われた少女は気丈に振舞ったが、その目からはやはり不安が見て取れる。まだ13歳の少女としてはやはり荷が重いのかもしれない。

 しかし、さすがにここまで来て躊躇するわけにはいかないのだ。


 

 ブレンドレル大公は子宝に恵まれず、50に入ってようやく一人娘が生まれたのだ。

 当時はこれで家を絶やさずにすむと思い、さらには子供が生まれたと言う喜びもあって、この少女のために、ありとあらゆる権力を使ったのだ。

 

 当時の使用人たちは、その親バカっぷりに呆れもしたが、めでたい事なのは確かなので苦笑しながらも、口を挟むことは無く己の仕事に集中した。


 

 大公の正室は南方にある国の王族の一人で、シーヴよりわずかに濃い褐色の肌をもっていた女性であり、美しさも当時は近隣に鳴り響いていたが、シーヴを生んだのは、当時40を過ぎた頃であり、また産後の容態が思わしくなくシーヴが5歳のときに世を去ったのだ。


 

 そしてシーヴが13歳になる今年、王宮からシーヴをこちらに住まわせるように指示が来た。

 一種の人質と言うわけである。

 

 

 断ることも出来るのだが、貴族筆頭の自分が断ってしまっては、貴族、王族間の間に不和が蔓延してしまうし、また、王族に対して何か良からぬことを考えているのではないかと邪推されてしまう危険性もあった。

 

 ゆえに、目に入れても痛くないほどの可愛い一人娘を王都に住まわせることになったのだ。


「お父様……私、やっぱり少し不安です……」

 そういって自らの父の体を抱きしめるシーヴ。



「シーヴや、私とて可愛いお前を王都になどやりたくは無い。しかしこれを断ってしまえば、下手をすれば内戦の危険もある。大公女として教育を受けてきたお前ならわかるだろ? なに心配はいらん。護衛は100人近い護衛をお前に与えるし、お前の姉代わりの侍女のクリスティーナだって、お前に付ける。王都の生活に困るようなことがあれば、そのつど私に手紙を送ってくれればすぐにでも対処するよ」

 そうして娘を力強く抱き返すブレンドレル大公。


 

 

 その時、扉が開き執事の一人が出立の準備が整ったことを告げに来た。

「さ、時間だ。食べ物などにも注意するのだぞ」

 そうして、体を離し、馬車がおいてある外まで娘を見送った。


 

 馬車が見えなくなると、大公は執事につぶやいた。

「王都で信頼の出来る人物と縁があればよいのだが……」

「殿下なら心配は入りませんよ。我々のような身分の低いものにでも、分け隔てなく接してくれるお優しいお人柄です」

「その優しさに付け込まれる心配もある」

「はぁ……」

「なによりだ! 王都で変な虫でもついたらどうする! 我が娘の貞操の危機だぞ! 100人程度の護衛で足りるのか? いや、今からでも遅くは無い! ただちに我が軍を動員して、王都に向けて出立させねば!」


「大公様! 落ち着いてください! そんな事をすれば何事かと思われるではありませんか! ましてや国からの指示もないのに兵を王都に向けるなど、反乱として疑われてもおかしくはありませんよ」


「おお! 反乱か素晴らしいではないか! 男に生まれたからにはやはりそれくらいの気概を持たねばな。ましてや我が娘を人質代わりにするような王家など一捻りにしてくれるわ」


「セバスティアン! セバスティアンはどこにある! ただちに兵の準備をいたせ! 戦の準備だ! かく貴族に手紙を出せ。わが味方についた者は、厚く遇すると」

 そこで大公の言葉が途切れた。


「ヨ、ヨハンナ……いやまて、わしの言うことは……間違っては……や、やめろ……何をする……──あーーーー!」

 どうやらこの国の男性は、熟年の侍女に弱いようだ……。



       

                ──────────────



 大公領を出発して四日間ほどたち、ようやく王国直轄領にさしかかった、シーヴ公女殿下とその御一行。 道もよく整備されており、馬車も特に揺れは無い。ここから、王都まであと二日間ほどだ。



「ご気分はどうですか? 大公女殿下」

 侍女のクリスティーナがそう声をかけてきた。

 黒髪を後ろに束ねており、琥珀色の瞳を持つなかなか美しい顔立ちの女性だ。

 年は今年で15歳になる、まだ少女と言ってもいい年齢だ。



「二人きりのときはその呼び名はやめろと言ったはずだぞ?」

 シーヴは自分の馬車に同乗している侍女に視線を向けながら言葉を放つ。



「分かりました。では改めまして、ご気分はいかがですか? シーヴ様」

「そうだな、さすがに少し疲れが出てきたな。次の街までどれくらいだ?」

 大公領にいた時のしおらしい態度とは打って変わった雰囲気だ。

 大公家の当主であり、自分の父親に対しては多少礼儀を守ってはいたので、あのような口調だったが、むしろこちらのほうが、この少女の性格をより表しているといったほうがいいかもしれない。



「そうですねえ、このまま順調に進めばあと3時間と言うところでしょうか」

「ふむ……結構長いな。さすがに馬車に長く揺られていると疲れてくるものなのだな」

「どこかで休憩でもしましょうか?」

 その言葉にシーヴは苦笑する。


「いやいい、私のわがままで予定を遅らせるわけにもいかんだろ? まったくお父様も大げさなんだから。100人規模の兵とはいえ、人が増えればそれだけ行軍に時間もかかるだろうに」


「それだけ、心配なされている証拠です。もしかしたら、今頃はシーヴ様を取り戻すために戦争の準備をなさっているかもしれませんよ?」 


「いや、いくらなんでもそれはないだろ? 確かにお父様は色々と可愛がってくれてはいるが……」

 そこまで言いながらも、シーヴはまさかな。と内心で思っている。


 そんな時、馬車の先頭の方で、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。


 クリスティーナは、馬車の窓を開け、護衛の一人に声をかけた。

「何事ですか? 大公女殿下のお心を騒がせるような真似はしてはいけませんよ」

「はっ! どうやら、先頭のほうでなにやら騒ぎがあったみたいですが、詳細はつかめておりません」

「ならばただちに確認して報告しなさい」

 

 そう言われてその護衛は、敬礼し、馬を走らせて前のほうに進んでいった。


「ふむ……何事だろうな?」

「野盗でも現れたのでしょうか?」

「こんなに兵に囲まれているのにか? どれだけ大きな規模の盗賊団だ」

 そういって、二人は苦笑する。危機感はあまり無いようだ。



                ────────


  

 この護衛を率いているのは、デニス・ベックといい、歳は30くらいのベテランの騎士だ。

 かつては、子爵の次男で、この国にある二つの騎士団のうちの、メーラレン騎士団に所属していた人物であり、騎士団とは貴族の子弟から成り立っている。


 

 この国には軍は大まかに分けて四種類あり、一つは先に述べた貴族の子弟からなる騎士団。

 さらには、平民からなりたつ兵団に、準爵位(準男爵)などをもつ身分と、平民が混在する兵団。

 そして60人に満たない厳密には団としてはいいがたい、精霊騎士団だ。


 

 精霊術師は、術師のみの力では、兵団にはあまり組み込まれない。なぜなら、肝心なときに精霊に見限られるかもしれないと言う不安があるから、あまりあてにはされない。


 デニスは、この護衛の先頭集団からやや後方に控えており、先頭の異変を察知して馬を走らせた。



「どうした? 騒がしいぞ! なにがあった?」

 そうして先頭に着いたデニスの視界に入ったのは、異形の形をした生き物達だった。


 ある生き物は二足で立っており、手が四本あって、その腕が刃のように湾曲しており、顔は口や鼻が無く、目のようなものが顔に当たる部分に三つある。


 またある生き物は犬のような大きさだが、足が六本あり、目に当たる部分は窪んでおり暗く、見るものをゾッとさせる。

 

 そのような生き物が20体ほど、シーヴ公女殿下御一行の行き先を封じていたのだ。

 そして先頭集団ではすでに10人近くの護衛が死体となっていた。


魔霊まれいだと……くそ! ただちに戦闘態勢をとれ! 油断した! 斥候さえきちんと放っていれば」

 デニスが言ったようにこれは確かに彼の怠慢だろう。


 

 比較的治安がよく、他国との戦争もあまり無いこの国では仕方ないことともいえるが、やはり言い訳に過ぎない。

「大公女殿下に事の次第を知らせ、安全な場所へ誘導しろ!」

 

 

 それでも騎士団で鍛え上げられた声を張り上げて指示を出す。

 戦場においては大きな声とは、連絡手段として一つの武器になるのだ。


 

 護衛隊長の指示を受けシーヴを誘導するもの、後方へ連絡するもの、役割を担っている者たちが、すぐに動き出した。

 護衛隊は、にわかに騒がしくなる。


 

「むう……先ほどより騒がしくなっていないか? ただ事ではないぞ」

「そうですね……」

 そこへ、先ほどクリスティーナと会話した兵が戻ってきた。


「大公女殿下、魔霊まれいが現れました! これより安全な場所へ誘導させていただきます」

「魔霊ですって! なんで回避できなかったのですか! 斥候は何をしているのです!」

 

 

 クリスティーナの叱責が馬車内にこだました。

 一護衛に過ぎない彼には答えれない。まさか自分達の隊長が斥候を放っていないなどとは思ってもいないからだ。 


「ともかく、大公女殿下に傷一つ、つけるようなことはあってはなりませんよ! ただちに安全圏へ誘導しなさい! 最悪、私も外に出て応戦します!」

 そう言われて護衛は、馬車を誘導しようとしたが急に馬車を引いていた馬が倒れ、それに続くように馬車も横転した。


 クリスティーナはその瞬間に、シーヴを抱きかかえ、その衝撃から身を守った。

 

「大公殿下……──シーヴ様! お怪我はありませんか?」

「つ、痛……な、何、大事は無いお前のおかげだ。クリスこそ怪我はないのか?」

「大丈夫です。取り合えずこのままでは身動きがとれず危険です。外に出ましょう」

 そうして横転した馬車から、二人はなんとか出て外の様子を確認した。


 二人の視界に入ったのは、横転した馬車を中心に護衛たちが円陣を組んで魔霊たちに対抗していたが、たった二体の、飛行型の魔霊にかなり押されていた。


 

 いくつかの死体も目立ち、クリスティーナは思わずシーヴの目を覆いそうになったがときはすでに遅かった。



「ク……クリス……」

 あまり慣れていない光景なのだろう。思わずシーヴはクリスの服の袖をつかんだ。

「大丈夫ですシーヴ様。必ず御守り致しますから」

 とはいえ、クリスティーナの顔色がよくないのも事実だ。


「くそっ! この化け物どもが!」

「大公女殿下の馬車に近づけるな!」


 

 飛行型の魔霊相手に、弓や槍を繰り出し応戦する護衛たちだが、飛行型の魔霊の一体が口を大きく開けた。



 「来るぞ! 気をつけろ!」

 その声にクリスティーナも集中する。

 瞬間、上空から風の刃が彼らの頭上を襲った。


 

 凄まじい豪風と、それに切り刻まれる護衛達。鎧に身を固めているのにもかかわらず、布のように切り裂かれていく。


 

 血しぶきが舞い、臓物があふれかえる。

 その様子に、シーヴは嘔吐しそうになった。


「シーヴ様! お気を確かに! くっ! お願い力を貸して!」

 クリスが再び集中する。

 とたんに、大きな水の球がいくつか浮かび上がった。


 

 先ほど彼女達を守ったのはこの力のおかげだ。

 クリスティーナは精霊術師なのだ。

 貸してもらえる力は水。


 

 ゆえに願う。大切な主を守れるようにと。しかし相手は精霊そのもの、この力がどこまで通用するか分からないのも事実だ。

 また、精霊の力を行使できるものの、ろくに戦闘訓練など受けておらず、いきなり実戦に放り込まれたようなものだ。

 剣すらろくに扱えないのだ。


 

 魔霊とは、悪意のある精霊の別称だ。

 精霊は自分達の縄張りを荒らさなければ、その猛威を振るうことは無い。しかし、人に善人と悪人がいるように、精霊にも、そういったものが存在する。


 

 悪戯などと可愛いもので人をからかうのではなく、悪意そのものを持って人を襲う。そういう存在がいるのだ。


 

 強さには個体差があるものの、よほどのことが無い限り一般の兵でも倒せる存在でもあるのだが、魔霊一体につき、最低でも10人でかからなければならない。

 訓練を受けた精霊術師でどうにか二体を受け持つことが出来る強さだ。


 

 状況は魔霊20体に対して、護衛の兵が100人……いやすでに戦闘不能者は20人を越えており2割の兵が失ったことになる。

 これが戦であればもはや敗北状態だ。


 

 また精霊術師も、クリスティーナと先頭で戦っているデニスのみだ。

 圧倒的に不利な状態であり、また飛行型の魔霊が上空を飛び回っているので下手に逃げることも出来ない。


 

 クリスティーナの頭に全滅の二文字が浮かび上がるが、諦めるわけにはいかない。

 そして精霊の力を借りて顕現させた水球を解放する。



 「お願い!」

 水球の一つはまるで刃のように薄く研ぎ澄まされ、飛行している1体を襲う。

 もう一つは、細かく分かれ銃弾のようにもう1体を襲う。

 最後の一つは天井のように薄く延びて、クリスティーナとシーヴの頭上を覆う。


 

 しかし、飛行型の魔霊は、水の刃を嘲笑うようにかわし、水の銃弾を自らの風の力で相殺した。

 甲高い声が飛行している魔霊から解き放たれる。


 再び風の塊や刃が上空から降り注ぐ。


 

 クリスは思わずシーヴに覆いかぶさり、自らの体を盾とした。

 風の刃と塊は、応戦している護衛の兵士達を切り裂き、押しつぶし、再び血しぶきが舞う。

 そしてクリスティーナ自身も、水の天井を突き破られ、背中をわずかに切り裂かれた。

「くっ! ああ!」


 

 背中に熱いものが走り、思わずうめくクリスティーナ。

「シ……シーヴ様。お怪我はありませんか?」

 そういって気丈にニッコリと微笑む。



「あ……ああ……──馬鹿者! 私の心配よりお前の体を心配せぬか! 大丈夫なのか!? くそ、待っていろ! 私があんな奴ら、すぐに片付けてやるからな! お父様からある程度の剣の手ほどきは受けている! 任せろ!」

 そういって少女は近くに落ちていた剣を拾い上げ、駆け出した。

 おそらく一種のパニックに陥ってるのだ。



「駄目です! シーヴ様! そばを離れてはいけません! 誰かシーヴ様を止めて!」

 背中に負った傷が痛み、駆け出すシーヴを捕まえることの出来なかったクリスティナが思わず叫んだ。

 

 

 

 その声に何人かの護衛が反応したが皆自分のことで手一杯なのだ。

 まさか公女殿下が勝手に動き出すとも思っていなかったので、思考が一瞬混乱した。


 そんな兵たちの混乱を隙と見て、1体の飛行型の魔霊が急降下し始めた。


 

 シーヴの体がこわばる。相手からまともに殺気を受けて、恐怖に足をすくませたのだ。

 「あ、あ……来るなよ! 来るなよー!」

 勢い良く駆け出したのはいいが、相手の殺気で我に返ったのだろう。型も何も無く剣をむやみに振り回すシーヴ。


 


 誰もが、絶望的な光景を頭に思い浮かべた。

 クリスティーナは喉が千切れんばかりにシーヴの名を叫んだ。


 

 そしてクリスティーナは思わず目を閉じてしまう。


 

 心の中で、何かが壊れそうなそんな思いに駆られながらも、ゆっくりと目を開いた。




「なんで、魔霊がこんなところにいるのさ!」

『僕に聞かれたってわかんないよ!』

「お仲間だろ! しっかりと手綱くらい握っててよ」

『それは、精霊に対して喧嘩を売ってるの? あんなやつらと一緒にするなんて最大限の侮辱だよ!』

「えっとお二方でいいのかな? 俺にはソードの声が聞こえないしなあ……エルネスティ様……あのそんな事してる場合じゃないと思いますが……」


 

 見ると、黒髪の少年がなにやら叫んでおり、金髪の少年がそれをたしなめていた。

 クリスティーナや、護衛の兵士達は状況を把握できず。一瞬、呆けたが戦闘中ということもあり、すぐに思考を元に戻した。



「あ……シーヴ様!」

 少年達のそばで腰を抜かしへたり込んでいるシーヴの姿を確認して思わず駆け出すクリスティーナ。


 

 駆け寄ってきたクリスティーナを見て、黒髪の少年───エルネは金髪の少年に指示を出した。



「フレードリク。そのご婦人方を命に代えても守れよ」

「エルネスティ様はどうなされるのですか?」

「当然、魔霊退治さ」


 

 そういって上空を飛んでいる、もう1体を見上げた。


 

 右手には、いつの間にか抜刀してある、一風変わった剣を持っており、それをだらりとエルネは下げていた。


 彼らは王都に向かう途中であり、その途中で魔霊の気配を感じ取り慌ててここまで来たのだ。

 

 

 視界に入ったのは、小麦色の肌を持つ少女が、いきなり飛び出して、魔霊相手に無茶なことをしようとしてたのでさらに慌てて、急いでこの戦場に飛び込むと同時に、ソードを鞘から抜刀して、同時に少女を襲おうとした魔霊を切り伏せたのだ。


 

 はたから見ていたら何が起きたか分からないほどの早業だ。

 そして切り伏せられた魔霊は、精霊と言うこともあり、死体を残さずに虚空に、自然に、消えていった。


「飛行型の魔霊って苦手なんだよな……人は空を飛べないって言うの」

『じゃあ、僕と同調する? 少しだけど空を、地のようにかけることができるよ』

「そこまで同調率をあげたら、こっちの身が持たないっての」

『わがままだなあ……』

 とそこまで言ったとき、上空の魔霊が仲間をやられたことに腹を立てたのか、口を大きく開き、甲高い声をエルネに向けて発した。


 

 当然、そばにはクリスティーナと、いまだに腰が抜けて立てないシーヴもいる。


 

 さんざんやられた攻撃だ。クリスは思わず集中して精霊の力を借りようと思ったが、背中の痛みでうまくいかない。


 今度こそ駄目か? と思いせめてこの身を盾にと再びシーヴに覆いかぶさるが、痛みは襲ってこなかった。

 

 

 なぜか日の光がさえぎられて訝しんだクリスティーナは、上を見上げると、そこには自分達を覆うように土の壁があった。


「怪我が無くて何よりですね」

 金髪の男が笑顔を向けてクリスティーナに言ってきた。


「あ……貴方達は……」

「その話は後にしましょう。さっさとあれらを片付けねばなりませんから」

「こら、フレードリク! 僕を守備範囲から外すとは何事だ!」

「傷一つ負ってないくせに、変な難癖付けないでくださいよ。それとさっさとあれを倒しちゃってください。俺だっていつまでも精霊の力を借りれるほど強くはないんですから」

 

 

 どっちが主でどっちが従か分からない会話だが、エルネはため息を吐くと、覚悟を決めた。

「仕方ないか……明日は筋肉痛だな……いくよソード」

 そうして思いを集中させる。


「力を貸して」

『力を貸すよ』

 

 そして、彼らは一つになる。

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