第十三話
「お頭ぁ、見つけましたぜ!」
賊の一人がそう叫ぶ。
すでに戦いは大勢が決しており、もはやエスタニア側の動いている兵はわずか20数人だ。
円陣を組むように大使を守っており、隙を見て緊急用の小型の船に乗り込み脱出を試みたのだが、やはりそう甘くはない。
簡単に見つかってしまい、あっという間に賊に取り囲まれる大使だが、顔にはターバンのようなものが巻かれよく確認は出来ない。
しかし賊達は身につけているものから、おそらく大使だろうと判断してそう叫んだのだ。
「遠路はるばるわが国へようこそ。エスタニアの大使よ。我等の歓迎はいかがであったかな?」
勝ちを確信した笑みで大使と思われる人物に話しかける賊の頭。
大使のすぐ隣にはお付きのものだろうか、侍女とも言えるような人物が剃りの入った小型のナイフのようなものを逆手に持ち、賊達を睨みつけていた。
「この異端どもめ! このようなことをしてただですむと思うておるのか!」
女性にしてはハスキーな声で、賊達に向かって、きっ! っとなって言い放つ侍女。
目に怒りをため、それこそ目つきで相手を殺せるなら彼女がこの場において一番の武力の持ち主だろうとすら思わせるほどの迫力だ。
さらに大使達を円陣を組んで守っている兵たちにも諦めの色が見られない。
精鋭部隊とも言える存在なのだろう。
魔霊はエルネや他の兵たちの活躍によってもはやほとんどいないと言ってもいいが、3体ほど賊の頭の周りを固めるように配置されている。
「そりゃただではすまんだろうよ。下手すりゃ国が腰を上げて討伐にきちまうわな。だから、その前にあんたらを人質にとって、国から身代金を要求したらさっさと姿をけしゃあ問題はねーべ」
「おいロニー、すでに頂くもんは頂いたんだ。さっさとすらかろうぜ」
そうお頭に声をかけたのはレンナルトだ。
すでに充分すぎるほどの実入りはある、下手に欲張ることはないと思いそう忠告した。
彼としては嫌な予感が未だに消えないので、早いところ引き上げたいのだが、依頼人がその気にならない以上明確な根拠がない限り、引き上げるわけには行かない。
意外と義理堅い人物だ。
「バカやロー! こんだけ被害を出したんだ! この程度で満足できるかよ! あのクソガキにどれだけ手下をやられたと思ってるんだ! その埋め合わせもきっちりもらわねえとな」
本来は予定になかった行動だ。
大使を含めて皆殺しにしてさっさと逃げる予定だったのだが、エルネの参戦により手痛い打撃を受けて腹の虫が収まらないのだろう。
「ロニー冷静になれって、国相手に、んな交渉できると思ってんのかよ。めんどくせえからさっさと殺して、ずらかろうぜ。俺らの依頼はそれだろ?」
ここでロニーは頭を冷やす。
襲撃だけなら姿をくらませるだけで国の捜査を切り抜けられるが、交渉ともなると時間もかかるし、国とてその間に様々な手を打ってくる。
リスクとリターンの問題だが、それを計算するとリスクのほうが大きいのだ。
舌打ちをしてレンナルトの意見を聞き入れるロニー。
「……仕方ねえな全員殺せ。他のやつらは引き上げの準備だ」
そう手下にに命じ、手下達は囲んでいた包囲をじりっと詰め寄る。
すでに勝ち戦なのだが、だからこそここで下手に命を散らしたくはない。
大使を囲んでいる兵は20人以上おり、一気にかかってもよいが必ず一人二人は人死にが出る。
勝ちが確定している戦いで死ぬのはごめんだと誰もが思い、一気にかかるのを躊躇ったのだ。
「近寄るでない! 貴様らは血に飢えた野獣よりもなおたちが悪いわ! 太陽神の名の下に我らは魂をかけて貴様らを呪い、決して安寧な日々を送らせまいぞ!」
大使の侍女がそう叫ぶ。
「お頭ぁ……あの女だけは生かしても良いですか?」
好色そうな顔つきをしながら手下の一人がそう聞いてくる。
「ったくてめえも好きだよな。まああの女一人くらいなら問題ねえだろ。好きにしろ」
とたんに目の色を変える賊の男達。
ニヤニヤと笑いながら包囲網をせばめていくが、背後で凄まじい叫び声が上がり、血飛沫が舞った。




